029
おぉ。
おおぉおぉ~っ!
山だ! 緑だ! 谷だ! そして川だ!
盆地の東側って、山林だったんだな。針葉樹林っぽい。杉っぽい木がビッシリだ。
盆地の方は……上の方に雪が見えるけど、この辺りには積もってないな。意外に暖かい?
おっ、鳥が飛んでる! 猛禽類っぽいな。谷の上をクルクル回ってる。エサを探してるのか?
でもって、その谷の下にあるのが川だ。山の間を縫うように川が流れてる。結構な水量だ。
これは期待できるかも! この川を下って行けば、人里へ辿り着けるかも! 山があって遠くは見通せないけど、これだけ自然があるなら人が住んでる可能性は高い、はず! うおおぉっ、テンション上がってきたーっ!
よし、ドドリアさんと苗木たちを、先ずはあの川に向かわせよう!
南へ向かわせたアーサーたちも、いずれこの針葉樹林に出てくるだろう。そうしたらアーサーたちには、そのまま山脈沿いに南へ向かってもらう。捜索範囲は広い方がいいもんな。
こういう行き当たりばったりな計画でも実行できちゃうところが凄いよな、俺。
普通なら補給やら安全性やらで行動が制限されるところだけど、俺は土さえあれば何処でも行けちゃうからな。冒険家としては最強じゃね?
あっ、でも高山は無理だな。森林限界は越えられない。残念。
おっ、鳥が動きを変えた。こっちに来るみたいだな。
ふーん、なんか鷹っぽいな。いや、鷲? うーん、分からん! 鷹と鷲の区別ってどこでするんだ?
ほほう、結構大きい……いやいや、遠近感おかしいでしょ! ちょっとちょっと、何メートルあるんだよアイツ!
うおぉおぉっ、こっちに来る! でけぇっ! 十メートル以上あるよ! って、
ぶわさぁっ!
うおぉーっ、ドドリアさーんっ!? 攫われた! 超でっかい鳥にドドリアさんが捕まった!! って、俺なんだけど! 私たち今、風になってる!
ええい、放せ! 俺はこう見えて木だ! 喰っても美味くないっていうか、食い物じゃねぇ! 美味そうに見えても喰うところ無いぞ!
うおぉおぉっ!? 高い、高いよ! 流石にこの高さから落ちたら無事じゃ済まないよ! やっぱ放さなくていいです!
くっ、毒で溶かすのは簡単だけど、そうしたら落ちて折れてしまう! 怪我しちゃう! どうしよう、貴方ならどうする!?
あ、そうだ。
俺ならこうする。えい、亜空間。
ふう、一時はどうなることかと。
ははは、バサバサやってるよ。亜空間は通常空間じゃないのだ。いくら羽ばたいても前には進めんよ。
いやぁ、それにしてもデカいな、こいつ。翼を広げたら十メートル、いや十二、三メートルあるんじゃね?
もしかしてロック鳥ってやつかな? アラビア~ンな物語に出てくるでっかい鳥。RPGでも定番の空のモンスターだよな。
こんなのが飛び回ってるなら、もうちょっと警戒感を強く持った方がいいな。喰われはしないとしても、結構な傷を負わされることがあるかもしれない。
――領域支配権を獲得しました。
おっ? こいつ、
そうだよなぁ。
今回は俺だから何とかなったけど、普通は空を飛ぶ相手への対抗手段なんて無いもんな。魔法やスキルが無いと詰む。これまでは向かうところ敵なしだったんだろうな。
しかし! この大魔王ボンちゃんの前では巨鳥もヒヨコと同じよ! 貴様ごときに後れを取る吾輩ではないのだ!
思いっきり焦ってた? アレは演技だ、高度な戦術だ! 敵を欺くにはまず自分からだ! そういうことだ!
さてと。
こいつどうしようかな? 放鳥ってわけにはいかないよな。こんな危険生物が居たんじゃ、おちおち探検も出来やしない。きっと、放した数秒後にまた襲い掛かってくるに違いない。モンスターだしな。
食うか。
もう少ししたらキキに肉を食わせたいと思ってたんだよな。トリ肉を蒸して擂り潰したのを食べさせるって、姉貴も言ってたし。鶏じゃなくてトリだけど、細かい事は気にしない。気にしたら負けだ。おっ、鳥の動きが止まった。
いや、川があるなら魚も居るかもしれないな。コイツの肉は硬そうだし、最初は魚の方がいいかもしれん。やっぱニャンコには魚だよな。
よし、川まで行って魚を取ろう。鳥はしばらく放置だ。魚が獲れなかったときの保険だ。すり身にすれば硬くても食えるだろう。お? なんかプルプル震えてるな。痙攣か?
おー、思ってた以上に清流だな。ヤマメとか居そう。ちょっと深いところもあるから、イワナっぽいのもいるかもしれない。カジカもいるかも? アユは微妙。
どんな魚が居るか分からないから、罠と網を仕掛けるか。瀬の直下に定置網、籠罠を深みに投入しよう。
籠罠の中に入れるエサはどうするかな……たしか、臭いの強い奴がいいんだよな。あっ、アレを使おう、ネコ耳たちのたんぱく源! 芋虫の干物!
ごめんね、ちょびっともらっていくね。魚が獲れたらおすそ分けするから許してね。
さて、それじゃこれを擂り潰して粉にして……加熱した芋も擂り潰して混ぜて、よく練ってと……よし出来た、芋虫練り餌完成!
うん、臭い! 俺なら絶対食いたくない! でも魚は寄ってきそう。
これを形状変化で作った籠罠の中に入れて、オモリの石も入れて、目印のウキも付けて深みへドボンっと。これで一晩待てばオーケーだな。
籠網を作るのに、また脱毛の痛みを伴ったけどオーケー。目覚めなかったからオーケー。
ドドリアさんの形状変化を解いて木に戻れば、待機の準備もオーケーだ。
さて、何が獲れるかなー?
◇
なんじゃこりゃ。
魚は入ってる。思ったより大きな鱒が十数匹と、鋏のデカいカニも十数匹。エビも居るな。この辺は、サイズの違いはあっても予想と大きく乖離はしていない。うん、デカいね。でもまだ予想の範囲内だ。大漁大漁。
問題はこいつだ。
何この怪生物。
いや、知ってる。図鑑で見たことがある。これ、アノマロカリスだよな? カンブリアーンな肉食生物。
サイズはちょっと小ぶりかな? 昔テレビで観た時には五十センチくらいって言ってた気がするけど、こいつは三十センチくらいしかない。これから大きく成長するのかね? あっ、こら、鱒に喰い付くな。それはキキのご飯だ。
ファンタジーって、偶にこういう訳の分からないことをしてくるよな。甲冑魚ならまだしも、なんでアノマロカリスなんだよ。ビジュアルは面白いけどさ。
定置網はどうかな? あー、こっちは駄目だな。穴が開いて破けてる。流木でも引っ掛けたかな? まぁいい、籠罠だけでも収穫は十分だ。
さて、獲れた獲物をどうしようかな。
鱒の一匹はキキのご飯にするとして、残りは……干物にするか。
鱗を取って三枚におろして、と。これを濃い塩水にしばらく漬けたら、風通しのいい日向で一晩干せば出来上がりっと。
塩水は普通に毒生成で作れちゃうんだよなぁ。やっぱ植物には毒ってことなんだろうか?
風通しのいい日向というと……風魔法と光魔法ですね! フル活用させてもらってますよ! 天の声さんも、まさか干物作りに使われるとは思うまい。意外性の男、ボンちゃんです。
さて、鱒はこれでいいとして、エビカニとアノマロカリスはどうしようかな。
赤ちゃんにエビやカニは駄目だって、どこかで聞いた気がするんだよな。それならアノマロカリスもきっと駄目だろう。食べさせた人が居るとは思えないけど。
捨てるのももったいないよな。かといって、逃がせば川の鱒が喰われちゃうし。
そうだ、鳥に喰わせよう! 亜空間に隔離してから何も喰わせてないしな。残飯処理だ。鮮度抜群でまだ生きてる残飯。それ、残飯か?
まぁいいか。ほら、お食べー。
おー、いい喰い付きだな。やっぱ一晩閉じ込められて腹が減っていたと見える。ごめんなー、忘れてたわけじゃないけど、頭から抜けてたわ。つまり忘れてたんだけどな。まぁ、許せ!
――ハイランド・ルフ(オス・四歳)を眷属にしました。
あら? なんか餌付けしちゃった?
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