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 なんという事だ。よりにもよって、余の治世に二体目の災害指定個体、魔王が出現するとは。しかも今度は激甚災害指定個体だと?

 ようやく五年前の大震災からの復興が成ってきたところであるというのに。全く、不運というものは重なるものだ。神は人に試練を与えるのがことほかお好きらしい。


「陛下、勇者殿がおいでになられましてございます」

「左様か。では謁見の間へ通せ。余も向かう」

「ははっ」


 来たか。『名持ち』であるあ奴にも『神言しんごん』は届いたであろうからな。加えて、あ奴は『勇者』。魔王出現となれば動かざるを得ん。それが勇者の『役割』であるからな。

 ふむ、この回廊はまだ修復できておらぬか。ここは我と側仕えしか使わぬ故、後回しにしたのであったな。街の復旧で国庫が大分寂しくなったと大臣が言っておったし、この回廊の修復はまだ先になりそうだ。

 いや、魔王出現とあらば先のことなど考えてはおられぬ。魔王への対策を最優先にせねばな。修復は全てが片付いてからだ。


「待たせたな。頭を上げい」

「ははっ。陛下のご尊顔を拝謁する栄誉に浴する機会をいただき、恭悦至極に存じ上げたてまつります」

「ふん、皮肉が上手くなったものだ。あのような神言を授かったのだ。顔色の悪くなった余の顔を見たとて、如何程の喜びも無かろう」

「いえ、そのようなことは」


 こ奴もかなり挨拶の口上が上手くなったな。宮廷雀共に揉まれたか。最初の頃の青臭さ、田舎臭さは大分薄れたな。

 そうか、こ奴が蛇魔王を倒してから、もう三年が経つのだな。もう子供とは呼べぬ歳だ。尻についた殻もとれて、ひよこにわとりになってもおかしくはない。


「用件は分かっておるな?」

「ははっ、先だっての神言にございました、激甚災害指定個体とやらについてでございましょうか?」


 『とやら』とな? もしやこ奴、激甚災害指定個体の意味が分かっておらぬのか? そうか、こ奴が名持ちになったのは蛇魔王を倒してからであったな。ならば詳細を知らぬのも道理、説明せねばなるまい。


「うむ。宰相、勇者は激甚災害指定個体について知らぬことがあるとみえる。おぬしから説明いたせ」

「ははっ、畏まりましてございます。では勇者様、僭越ながらわたくしめが説明させていただきます」

かたじけない、よろしくお願い致します」

「では。

 先ごろ陛下や勇者様ら、名持ちの皆様方に下されました神言に依りますと、大陸中央の山岳地帯におきまして、激甚災害指定個体が発生したとの事にございました。

 ご存知の通り、災害指定個体と申しますのは、人の力では倒すことの非常に困難な魔物の事でございまして、一般的には魔王と呼ばれております。先ごろ勇者様が討伐なされた蛇魔王もこの災害指定個体にございました。

 この魔王、非常に困難とは申しましても、入念な下準備と対策があれば撃退または討伐が可能であることは、他ならぬ勇者様が一番よくご存知かと思います」

「ああ、蛇魔王は酒と薬で泥酔させてから鎖で地面に貼り付け、痛みで目覚めて暴れられないように、巨大な斧で一気に首を刈り取って倒した。鎖で縛っている間は、いつ目覚めるかと肝が冷える思いだったな」

「さすがの神算鬼謀、剛毅果断にございます。しかしながら、この度の神言は些か様相が異なります」

「激甚災害指定個体か?」

「はい。通常の災害指定個体を越える激甚災害指定個体。その脅威が如何程であるか、小人たる我が身には推し量ることすらできませんが、魔王一体で国が傾くと言われておりますことから考えまするに、放置すればそれ以上の被害が出ることは避けられないかと」

「国以上……」


 勇者の顔色が目に見えて白くなっておる。そうであろうな。蛇魔王のときも、こ奴が討伐するまでに三つの街が喰われて無くなった。討伐に派遣した騎士団も二割、二百人余りが命を落とした。災害指定個体は只の魔物ではない、本物の化け物だ。

 そして今回の激甚災害指定個体。


「大陸中央には悪食蛙魔王が封印されておりましたが、その討滅も神言で伝わったと聞き及んでおります。おそらくは、その蛙魔王を倒して新たな魔王となったのが、くだんの激甚災害指定個体であると考えられます。つまり魔王殺しの魔王、大魔王ということになるかと存じます」

「大魔王……」


 勇者の顔色が、最早白を通り越して青くなっておる。頼りないことよ。しかし、こ奴に頼らざるを得ぬことも事実。なにしろ、こ奴が今代の勇者なのだからな。

 勇者とは世の平和のために剣を握る者へ与えられる称号。そして余の『国王』の称号は、世の安寧を保つ事に尽力する者へと与えられる。つまり、勇者の補佐は国王の義務。


「更に、その大魔王は名持ちであると聞き及んでおります。たしか『ボン=チキング』でありましたか?」

「ああ、そうだ。それが何か?」

「陛下も勇者様も、名持ちになられた際に特別なお力を天より授かったと聞き及んでおります。おそらくはその大魔王も……」

「なっ!? まさか大魔王が『神力』を!?」

「あくまでも予想でございますが、おそらくは」

「……なんという事だ……」


 勇者が声を震わせておる。が、余はこれを笑えぬ。余も、その予想を聞いた時には膝が震えたのだ。

 神言が下されてからこ奴が呼び出されてくるまでのこの数日間、国の識者を集めて議論させ、出させた予想だ。これには『賢者』も同意しておったし、おそらく間違いなかろう。

 神力を操る魔王。考えるだに恐ろしい。が、余も王である。引くわけにはいかぬ。引けば民が死に、国が亡ぶ。それだけは何としても避けねばならぬ。


「勇者よ、其方が何を為すべきか、承知しておろうな?」

「ははっ! この命に代えましても、大魔王を討ち果たして御覧に入れます!」

「うむ、よくぞ申した! では、余とこの国は其方を全力で支援することを約束しよう! 行け! そして大魔王の首を余の前に持って参るのだ!」

「ははっ! この勇者『ナオミ=コナーズ』、必ずや陛下のご期待に応えてみせましょう!」


 世を乱す大魔王ボンよ。貴様にこの『エルダイン王国』は渡さん。我ら人の力、思い知るがよい。



 ――ボン=チキングは『大魔王』の称号を獲得しました。


 ワッツ!? オムツと女児パンツ作ってただけなのに!? どんだけ業が深いんだよ、女児パンツ!

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