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 こんばんは、パンツ大魔王のボンちゃんです。

 まさか、女児パンツを作ってたら大魔王になるとはなぁ。尻尾を出しやすいように、お尻にスリットを付けたのがまずかったんだろうか? それとも、ワンポイントのリボンの光沢に拘ったのがいけなかったのか?

 いや、白いパンツに映える赤いリボンは女児パンツの魂だ。そこを妥協するわけにはいかない。心に嘘は吐けても、魂は欺けない。それが魔に魅入られたというのならば望むところだ! 俺は修羅にも悪魔にでもなろう! あ、大魔王になってたわ。ははは。

 女児パンツでこれなら、縞々パンティやらガーターベルトやらを作った日には大魔神とかになっちゃうんじゃなかろうか? 埴輪風鎧を今から用意しておくか? 赤い怒り面とセットで。けど、細かいデザインはわからんなぁ。まぁ、適当でいいか。ツッコミ入れる奴もいないだろう。

 ん? そういえば、これまで魔王っていう称号を得たアナウンスは無かったな。もしかして、今までは魔王じゃなかった? 俺の思い込み?

 うわーっ、恥ずかしぃーっ!

 自信満々で『魔王の俺様』とか言っちゃってたよ! 中二病じゃん! 恋しちゃうじゃん! 静まれ俺の右手! 一日一回までにしときなさい! 何をだよ!?

 そうかぁ。種族が魔王樹ってだけで、魔王じゃなかったのか、俺。

 そうだよな、ダイオウイカはイカの王様じゃないしな。トノサマバッタも参勤交代しないし。トノサマガエルに至っては、いつも土下座している威厳の無さだ。

 まぁ、今は大魔王の称号をゲットしたんだから、大手を振って大魔王を名乗れる。


『どうも、パンツ大魔王です。ワンポイントの赤いリボンに拘ってます』


 名乗れねぇよ!

 娘のために頑張ってるだけなのに、おかしいなぁ。親の愛というものは、時に罪深いということか。深い、深いなぁ。深淵だなぁ。


 まぁ、パンツの話はさておき。

 そろそろ離乳食のことを考えないとな。確か姉貴は、子供が一歳になる前から少しずつ食べさせてたはず。

 うちのキキは成長が早いから、もう食べさせてもいい時期だろう。まだ生後一か月くらいだけど。

 最初はトロトロの煮崩れたお粥だって姉貴が言ってたな。うちも最初はそれでいくか。麦がゆだけど。

 その後、芋とか野菜とかを煮て擂り潰したのをあげるんだったか。白身魚とか鶏肉とかのペーストもあげて、徐々に色んな食材を使った味の薄い料理っぽいのを食べさせるって言ってたな。

 『あんた結婚して子供が出来たらちゃんとお世話するのよ』とも言ってた。義兄さんはイクメンじゃなかったらしい。おかげで俺が子育てに詳しくなっちまったよ。まぁ、そのおかげで今助かってるんだけど。


 食材は……芋と麦はある。野菜は無い。

 こりゃいかん。

 クレソンっぽいのがそこらに生えてたはずだけど、もう冬だから枯れてるんだよなぁ。何か緑のものを食べさせたいんだけど、普通、冬場に葉物は無いよな。日本で食えてたのは、ハウス栽培やらの現代技術があったからだし。

 クレソンもどきあいつも眷属にできたら、成長促進ですぐ収穫できるんだけどなぁ。そう上手くはいかないか。

 根野菜でもいいんだけど、野生の大根や人参なんてあるんだろうか? あっても、ここしばらくの干ばつで枯れてそうだよなぁ。地道に水撒いてたら復活しないかね?

 そういや、集落のネコ耳たちは冬場の野菜をどうしてんだ? 芋と麦だけじゃ生きていけないだろう。炭水化物ばっかりじゃ栄養偏っちゃうよ。

 タンパク質もだな。獣がいないから、干し肉も作れないはず。冬場は虫もいないし、どうやって確保してるんだ? 眷属使って覗いてみるか。


 あー、やっぱり虫か。これは幼虫? カブトムシとかカナブンとかの幼虫っぽい。森から掘り出してきたんだな。全滅してなかったのか。

 それを乾燥させて保存食にしてるのか。食べるときはスープに入れて戻すのね。出汁が効いてて美味そうじゃん。

 嘘です。

 自分は食わないから適当なこと言ってます。食えと言われたら全力で回避させてもらいます。いや、そのビジュアルはキツイわ。せめて頭取って。あと足も。

 まぁ、キキのタンパク質はヤギ乳でいいか。ミルク粥にすれば問題なかろう。ヤギママミルクは潤沢だしな。図体がデカいのは伊達じゃない。キキだけじゃ飲みきれないくらい出てる。チーズかバターを作って保存しておくかな。ヨーグルトもできるといいな。

 こんにちは、酪農家と兼業大魔王のボンちゃんです。


 問題は野菜か。ネコ耳たちも入手できてないっぽいな。それっぽいものが無い。このままじゃビタミンが不足しそうだ。どこかから調達してこないとなぁ。

 あっ、山に柑橘系の実が生ってたな! あれならビタミンが摂れるんじゃね? 冬場でも収穫できるし。丁度分身が近くに居るな。ちょっと採りに行かせよう。



 すっぱっ! 超すっぱっ!

 なにこれ、小ぶりな夏みかんみたいなのに、味はすだちの三倍増しの酸っぱさだよ! 超すだちだよ! すだちどころか意識が旅立っちゃうよ! 疑似知覚さん、また余計な仕事してない? 仕事し過ぎてない?

 これはいかん。誠に遺憾。こんなもの赤ちゃんに食わせたらショック症状を起こしかねん。

 ビタミンはありそうなんだけどなぁ。なんとかならんものか……煮てみるか。トマトやレモンなんかは、加熱すると酸味が薄れるしな。ビタミンが壊れそうだけど、そもそも赤ちゃんに食わせるものは加熱殺菌しなきゃいけないし。例外は母乳だけだ。

 よし、汁を絞って光魔法で加熱! ……って、器がねぇな。スプーンやフォークもない。うーん。

 いや、作れるよ? 形状変化させて切り離せばいいだけだから。先の丸い子供フォークも、滑らかな縁の小っちゃいお椀も思いのままだよ? ほらほら。

 けど……痛いんだよなぁ、これを切り離すの。

 耐えられなくはない。死ぬほど痛いってわけじゃない。

 例えるなら『鷲掴みにされたスネ毛を毟られる』程度の痛み。自分でじゃなくて、他人に毟られるってところがポイント。

 痛いんだけど、泣いちゃうけど、赤くなっちゃうけど、死ぬほど痛いわけじゃないし、多分後遺症もない。だけど涙が出ちゃう。大魔王だもん。


 くっ、覚悟を決めるか。これも可愛い娘のためだ。母親は出産で激痛を味わうんだ、父親がこの程度の痛みに怯えてどうする! スネ毛の一本や二本や十本や百本、どうってことはない! ムダ毛処理だと思えば一挙両得だ! よしっ、抜くぜ、スネ毛!


 イデデデデッ! アダダダッ! うひいぃいぃっ! ……。


 はぁっ、はぁっ……やばい、新しい世界が開きそうになった。あっちは行っちゃだめだ。帰ってこれなくなる。イッちゃだめだ。

 ふうっ。

 いやぁ、シンプルな木目調だけど、可愛い食器セットが出来たんじゃなかろうか? スプーンにフォークにお椀と深皿。どの食器にもワンポイントでニャンコマークが描かれているのは、俺の愛情と遊び心によるものだ。可愛いは正義だ。大魔王だけど正義だ。

 一応、木製のボウルやら菜箸やらの調理器具も作ってみた。こっちはニャンコのワンポイントはない。使い易さ優先だ。

 ナイフも作ってみたけど、切れ味はイマイチだなぁ。ペーパーナイフよりちょっとマシってくらいか。やっぱ鋼かステンレスの包丁が欲しいな。どうにか手に入らないものか。

 無いものを強請ねだっても仕方がない。今はとりあえず超すだちの調理だ。ボウルに絞って光魔法で加熱してみよう。


 ふむ……ほうほう。いけるね!

 酸味が薄くなって、代わりに甘みが増した。ぶっちゃけ、温州みかん並みに甘くなった! これならキキに食べさせても大丈夫だろう。

 野生種だから種が多いし皮も厚いけど、そのまま食べるわけじゃないから問題ない。役に立つのが分かったから、超すだちはある程度収穫しておこう。柑橘類は保存がきくのがいいよな。


 うむ、今日は色々と得るものがあった。文字通り収穫もあった。

 毎日がこんなに平和なら幸せだな!


 ――本惑星消滅まで、あと……


 だぁーっ、分かってるっつうの!

 大魔王にも平和と休息は必要なんだよ!

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