019

「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 はいはいはいはい、何でちゅかー? ああ、出ちゃったのね。分かった分かった、すぐキレイキレイちまちゅねー。ちょっと待っててねー?

 あー、大も小も両方か。まぁ、問題ない。裸だから汚れる物が無いもんな。この洞の中のベッドもハンモックだ。汚れたところを水で流して、風魔法と光魔法の複合技、温風で乾かせば、はい、お終い。出ちゃったものはそのまま水で流して外へと。そして俺の肥料に。

 むっ? これってもしかしてスカト……いや、違う、違うんだ! 俺は植物でこれは肥料! 決してそんなアブノーマルな嗜好ではない! しかも娘のをだなんて、そんな業の深すぎる趣味は持っていない! 俺は無実だ!


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 おっと、今度は何でちゅかー? ああ、出すもの出したからお腹が減ったのね。おーい、ヤギママ! おっぱいよろしくー!

 って、こいつもすっかり俺の洞に居ついちまったな。外より暖かいからな。外はもう氷が張ろうという寒さだけど、洞の中は風魔法の断熱&換気と光魔法の赤外線でいつも快適空間だ。水生成で湿度も思いのまま。俺のスキルって、引きこもりには最高だよな。ダメ人間製造スキル。

 あれ? でも、ヤギって少し寒いところに住んでるイメージがあるな。アルプスの山の中で、少女の友達に飼われてるイメージ。なんでこいつはエサ喰う時以外ここに住み着いてるんだろう?

 もしかして赤ちゃんのためか? なんだ、意外に母性が強いんだな。いや、もともとママだったか。おっぱい出るんだからな。

 あれ? それじゃ、こいつの本当の子供はどこにいるんだ? あの岩山には仔ヤギはいなかったぞ?

 ……弱肉強食か。生まれたての仔ヤギは恰好の獲物だっていうし。ヤギママにも人生、ヤギ生ありか。


 お、寝たか。寝る子は育つ。よく寝て大きく育つんだよー。

 ってか、実際、この三日で一回り大きくなってる気がするんだよな。赤ちゃんって成長早いなーなんて思ったりもしたけど、そんな訳ない。多分、俺の眷属になったからだ。この子にも成長促進の効果が出てるんだろう。あと、ヤギ乳も。栄養豊富そうだしな。

 だからきっと、この子が赤ちゃんである期間は短い。あっという間にハイハイして掴まり立ちしてよちよち歩きを始めるだろう……ちょ、カメラ、カメラ! 今だけなんだから、可愛い我が子の記録を残さないと!!


 さて、と。名残惜しいけど、いつまでも赤ちゃんに構ってる場合じゃない。盆地の魔王様には、世界を救うために勇者を探して導くという、崇高なお仕事があるのだ。色々とツッコミどころ満載なお仕事が。

 というわけで、東西南北のトンネル掘りはどうなってるかなー? ちゃんと出来てまちゅかー? おっと、赤ちゃんノリが。公私は切り替えないと。

 概ね順調か。高さ五メートル、幅八メートルくらいのかまぼこ型トンネルが順調に掘れてる。分身と並列思考があると、育児しながらでもお仕事出来るのが素敵だよな。

 仕事内容も、亜空間魔法で取り込んだ土やら岩やらを荒れ地にポイするだけの簡単なお仕事だ。ときどき崩落するけど、自分を亜空間に退避させれば問題ない。崩れた土も一緒に亜空間へポイッだ。危険は少ない。崩落した現場に戻るのが少し面倒臭いだけ。

 けど、崩れた天井をそのままにしておくのは危ないよなぁ。どうにか補強しておきたい。こういうときに土魔法なんかがあると便利なんだけど……チラッ?


 ……。


 駄目か。天の声さんは相変わらずクールだ。

 まぁ、最近ちょっと甘えすぎな気もしてたしな。馴れ合いはよくない。適度な距離感は必要だ。今回は自分でなんとかしてみよう。

 困ったときは毒生成。

 ここは人類史上最悪の毒、石油化学製品でどうにかしよう。全てが人体に有害という救いのない毒。

 汚染だの環境破壊だのは知ったことじゃない。俺、魔王だし。艦橋破壊は空対艦戦の常套手段だし?

 やっぱ合成樹脂かな? 土に流し込んで固める感じで……お、いけそう。よし、これでトンネル全体をコーティングしよう。安全第一だ。成分とか知らなくても、なんとなくのイメージでなんとかなっちゃう。スキルって凄いな。


 ……クサッ!? 溶剤クサッ! いかん、これはラリる! アンパ〇マンになってしまう! 換気換気、風魔法!

 ふう。毒無効があるから平気だとは思うんだけど、疑似知覚が余計な仕事をしそうなんだよな。用心に越したことは無い。ラリッた魔王なんて、討伐待ったなしだ。警戒すべきは自分自身。

 うーん、換気孔も作っとくか。酸欠にはならないと思うけど、疑似知覚は信用ならん。一番信じられないのも自分自身。

 樹脂が固まるまでの時間が必要だから、ちょっと工期は長くなるかもな。けど、今後もこのトンネルを行き来することがあるかもしれないし、ネコ耳たちが盆地の外へと生活圏を広げることがあるかもしれない。逆に、盆地の外から新たな移住者が来るかもしれない。可能性はある。そのときのために万全を期すのが為政者というものだ。魔王様、がんばる!


 ぼこんっ!


 おっ? これは南側か。なんだこの空間、鍾乳洞か? 暗くてよく分からないな……結構広そうだ。こういうときは光魔法、光あれ!


 ……おおう、巨大地下都市あらわる……。

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