018

「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」

「うううっ、ごめんね、ごめんねっ」

「……仕方ない。まさか双子が生まれるとは思わなかったんだから。もう少し早くこの芋が見つかっていればな」

「アタシのっ、アタシのせいでっ!」

「それは違う! オレがもっと食い物を見つけてこれなかったから!」

「ごめんね、アタシの赤ちゃんっ! もっとアタシのおっぱいが出ればっ! 駄目なお母さんを許してっ!」

「お前のせいじゃない! ……けど、もし命の樹様のご加護があれば……いや、もう行こう」

「うううっ、ごめんね、ごめんね」

「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 つまり、双子が生まれたけど、飢えでお乳が出なくてひとりしか育てられないと? 体のいい口減らしとして、命の樹おれへのお供えにしちゃったということだな? 我が子を手にかけるのは憚られたと。

 うーん。

 まぁ、いいか。同情の余地がないわけじゃない。

 捨て子を容認するわけじゃないけど、ここは豊かな現代日本じゃないからな。そういうこともあるだろう。いや、現代日本でも捨て子はあったか。

 この厳しい自然の中ともなれば、時に苦渋の選択をしなければならないこともある。それを俺がどうこう言うのは筋違いだ。手元に残したもうひとりも、ちゃんと育つか分からないんだし。


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 ああ、はいはい。

 とにかく、この子をどうにかしないとな。いいこでちゅねー。ほうら、おじちゃんが今日からパパだよー?


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 ほらほら、変な踊りだよー? くねくね~?


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 べろべろばーっ? だっこでちゅよー? 首に気を付けてと。ほうら、ゆーら、ゆーら。


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 駄目だ、全く泣き止んでくれない! どうしよう、どうしたらいいんだ!? 助けて、グーグ〇先生!!


 あっ、お腹が空いてるのか? さっきおっぱいが出ないって言ってたもんな。どこかからおっぱいを調達してこないと。

 けど、流石の俺でも、おっぱいは出ない。毒生成じゃ作り出せない。そもそもおっぱい無いし。ママじゃなくてパパなのだ。賛成の反対なのだ。

 もうひとつのネコ耳たちも駄目だ。あっちは妊婦さんはいるけど、まだ赤ちゃんは生まれていない。おっぱいの出る女性がいない。

 この盆地にいるネコ耳は、このふたつの集落で全員だ。他にネコ耳はいないんだよなぁ。元々の集落だったであろう場所には、崩れ落ちた家……小屋の残骸しかなかった。

 ネコ耳以外の知的生命体は……なんか、ブヒブヒ言ってる直立豚どもは居るけど……あれ、多分オークだよな? 違うかもしれないけど、見た目がソレっぽいからオークでいいだろう。

 あいつらは論外。だってあいつら滅茶滅茶悪食で、死んだ仲間も平気で食っちゃうんだもんよ。他種族の赤ちゃんなんて、美味しいお肉にされるのが目に見えてる。文化も原始的で、辛うじて棍棒を振り回す知恵がある程度だ。サルよりちょっとマシな程度。豚だけど。

 そもそも、あいつらのボスが領域支配者エリアボスだったからな。あいつらはモンスター枠だ。

 ん? この子を眷属にしたとき、ワーキャットって出てたな。ってことは、ネコ耳もモンスター枠か? この盆地にヒト種っていないのか?

 いや、ヒト種も領域支配者になれるかもしれないしな。そもそも、モンスター枠なんて無い可能性もある。人類皆平等、モンスターも平等。♪みんなみんな生きているんだ弱肉強食だ~♪


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 ああ、はいはい、おっぱいだったね。うーん、どうしよう? どこからおっぱいを調達してきたらいいものやら。

 おっぱい、お乳、ミルク……あっ、ヤギ! そうだ、ヤギだよ!

 ネコ耳にヤギのおっぱいを飲ませていいものか、体質的にどうなのかは分からないけど、俺の眷属なら毒無効があるから害にはならないはずだ。栄養が補給できれば贅沢は言わない。

 そうと決まれば、おっぱいが出そうなヤギだ! 乳が張ってるメスヤギを探すのだ!


 えーっと、うーん……おっ、居た! って、でけぇ! アレ、前領域支配者じゃね!? あいつメスだったのかよ、気付かなかったよ!

 まぁいい、あいつをサクッと亜空間に拉致って、本体の前の草原へ放出。赤ちゃんも亜空間経由で本体前へ。お世話係の若木も一本、以下同文っと。

 さて、問題はどうやってこいつのおっぱいを赤ちゃんに飲ませるかだな。大人しく搾らせてくれたらいいんだけど。


 もしゃもしゃ。


 ……前回もそうだったけど、こいつ、全く動じないな。拉致られて見知らぬ場所へ連れてこられたっていうのに、驚きもせずに草喰ってるし。俺の認識を越える大物なのか? 分からん、ヤギ分からん。


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 ああ、はいはい。えーっと……どうしよう!?


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 もしゃもしゃ。


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 えーっと、えーっと!?


 もしゃもしゃ。


「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ!」


 もしゃ……ごろん。


 えっ、横になった? もしかして、おっぱいくれるのか? あ、先っぽからちょっと垂れてる。

 うーん、よしっ! 何かあっても、魔法やスキルで何とかなる! ここは赤ちゃんの為、覚悟を決めて行くべきだ! パパがんばる!

 刺激しないように、そろりそろり……よし、大丈夫。乳房を水生成で綺麗に洗ってから……ほら赤ちゃん、おっぱいでちゅよ~?


「ふぎゃあっ、ふっ……むぎゅ、んくっ……」


 おおー、飲んだーっ! ミッション達成ーっ!!

 くうっ、なんか、赤ちゃんがおっぱい飲んでるだけなのに、当たり前のことなのに! 俺、今、すっげぇ感動してる! なんか、生きるってことを理解した気がする! 赤ちゃんすげぇ! あのでっかい乳首に臆さず食い付く赤ちゃんすげぇ!


「んくっ、んくっ……ぷはぁ」


 おう、お腹いっぱいかー? よしよし、たくさん飲んだねぇ。ほら、背中ぽんぽんっと。


「けぷっ」


 よしよし、げっぷ出たねー。いい子いい子。うーむ、まさか甥っ子を世話したときの経験が異世界で生きるとはな。人生、何が役に立つか分からんものだ。

 おっと、お腹がいっぱいになったら早速おねむか? 本体に形状変化でうろを作ってと。枝でハンモックっぽいネットを張って、ベビーベッドの完成! よく寝てよく育つんだよー?

 ふう、やれやれ。子育ては大変だな。世のお母さん方の苦労が身に染みて分かったよ。


 お前もありがとな、ヤギ。意外といい奴だったんだな、お前。これからもしばらくおっぱい貰うから、よろしくな。


 バクゥッ!


 痛ぇっ!? 噛みつきやがった!


 もしゃもしゃ。


 喰ってる、喰ってるよ! 俺の皮喰ってるよ! 畜生、やっぱこいつ畜生だ! 植物の敵だ! 魔王の敵だよ、勇者だよ!


 ――ディアボロス・ゴート(メス・五歳)を眷属にしました。


 ああん!? 今のどこに眷属化する要素があったよ!? めっちゃ敵対行動してたじゃん! 今俺、喰われたじゃん!

 しかも勇者どころか悪魔ディアボロスだし! 魔王と悪魔、どっちが格上なんだよ!

 分からん、やっぱりヤギ分からん!

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