017

 ――支配領域を獲得しました。


 ふはははっ、勝負にならぬわ! 大人しく我が軍門に降るがよいわ! ひれ伏せいっ!

 植物系モンスターにとっては天敵とも言えるヤギタイプのモンスターと言えども、俺の亜空間戦法の前には無力に等しい。サクッと隔離して終わりだ。なんというお手軽さ。これさえあれば、例えドラゴンが出てきても余裕で対処できる。正に無敵! 正に敵なし!

 ポイっとヤギタイプの前領域支配者エリアボスを亜空間から放り出す。体長は三メートル近いけど、フォルムはまんまヤギだ。牛サイズのヤギ。横長の瞳がちょっと怖い。感情が読めないんだよなぁ。

 今も、領域支配者から転落したというのに、全く気にした様子もなく下草を食んでいる。分からん、ヤギ分からん。


 まぁいい、これでこの岩山地帯も俺の支配下だ。この盆地の全土が俺の支配下だ。

 ふはははっ、とうとう俺がこの盆地の支配者だ! 初代統一盆地王座だ! ベルトを重ね巻くぜ! このまま三階級制覇だ! 崇めよ我を、讃えよ我を! 我が驍勇にふるえよテンキー! ゲームのし過ぎで外れかけてます!


 ……。


 おい、草食ってないで俺を見ろよヤギ。ちょっと目を離したら増えてるし。どこから連れてきた、そのヤギ共。スライムもニュルニュル纏わりつくな。気持ちいいけど。

 貴様らには支配者に対する畏れというか、畏敬の念みたいなものは無いのか? 無いの、あ、そう。所詮畜生と単細胞(?)生物か。しょうがない、そういうのはネコ耳たちに期待するか。


 ――条件を満たしました。魔王樹は固有名『ボン=チキング』を獲得しました。


 ちょっと待てぇえいぃっ!! なんだその名前は! なぜそこで区切る!?

 盆地の王で『盆地キング』ならまだいい。なんで盆地が英語じゃないのかは疑問だけど、それはこの際気にしないでおこう。そうじゃなくて、なんで『ボン』で切るんだよ! おかげでファミリーネーム(?)が残念なことになってるじゃないか! 『チキング』ってなんだよ、現在進行形のチキン野郎かよ! それ、絶対魔王の名前じゃねぇよ!


 ――魔王樹は固有名『ボン=チキング』を獲得しました。


 うるせぇ!! 繰り返すんじゃねぇ! 嫌がらせか? パワハラか? やるっていうのか!? よし、出るとこ出ようじゃないか! 俺は最後まで戦うよ! どこに出るのか知らないけども!

 くそう、この間のおねだりの報復か? 天の声さんは意外と心が狭い。覚えてろよ、俺も心の狭さじゃ負けないぜ!


 まぁ、それはそれとして、これで俺も立派なネームドモンスターってわけだ。ドロップ品を狙う冒険者に追われる立場になったってことだな。まぁ、冒険者なんていないけれども。この盆地に居るのは、農業に勤しむ素朴なネコ耳たちだけだ。

 あるいは中ボスかラスボス、勇者に狙われる立場になったってことだな。ってか、どこに居るのよ勇者! 来るなら早く、惑星が消滅する前に! 世界を救わせてあげるから!


 で、我が親愛なる領民のネコ耳たちだけど、南に向かったっていう一団が見つかった。

 かなりヤバい、餓死寸前だ。もう水たまりにしか見えない池の畔でガリガリになってる。

 痩せたネコって、どうしてこんなに悲惨な感じがするんだろう? 犬よりもネコの方が可哀そう度が高い気がするのは俺だけ?


 しょうがない、手を貸してやるか。

 湿地のネコ耳たちの備蓄から芋と麦をひとつずつ拝借してと。亜空間経由で南のネコ耳たちの近くまで転送したら、分身の根で掘り返した土に埋める。

 あとは魔力と湿地の土、水を送って超・成長促進! ついでに光魔法も使ってみるか。おっ、いい感じ! けど、さすがに一日では育ち切らないな。麦は明日にでも収穫できそうだけど。育ち切ったらまた植えて、さらに増やすと。

 なんか、俺ひとりで農地開墾できそうだな。牧草を眷属化できれば、丘陵地帯を一瞬で牧草地に出来そうだ。試してみるか。ヤギが増えたらネコ耳たちも喜ぶかもな。牛サイズだけど。草食動物ヤギに狩られる肉食動物ネコミミ……下剋上よな。これも乱世の習いか。


「こ、これは!?」

「いつの間にこんな畑が? しかも、こんなに立派な芋と麦が!」

「見ろ、この木の根元! 水が溢れてるぞ! もしかして、伝承にある命の樹じゃないか!?」

「本当だ……ありがたや、精霊はまだ我らを見放してはおられなかった……これでこの冬を越せる、生き延びられる!」

「「「ありがたや、ありがたや」」」


 ここでも『命の樹』か。やっぱネコ耳たちの伝承にあるっぽいな。困ったときに救いの手を差し伸べてくれる救世主、精霊の化身ってか? 俺、魔王だけどな。

 これでこのネコ耳たちも生き延びられるだろう。そして俺の魔力供給源になってくれるはずだ。

 産めよ育てよ地に満ちよ! そしてこの魔王ボンちゃんを崇め奉るのだ! ネコ耳たちの神に、俺はなる! 



「ふぎゃあっ、ふぎゃあっ」


 とか思ってたら、翌朝、分身おれの根元に赤ちゃんがお供えされてた。

 えっ? どういうこと?


 ――ワーキャット(メス・〇歳)を眷属にしました。


 ……マジで?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る