016
ファンタジーの定番モンスター、スライム。
と言っても、大まかに分けると二種類あるよな。つまり、雑魚か強敵か。こいつはどっちだ?
雑魚なら『ひのきの棒』でも狩れるはず。俺の『豆の木の枝』なら余裕で倒せるだろう。
というわけで、ウリャッ!
ぺしっ!
ベシャッ!
よし、真っ二つだ! どうやら雑魚だったようだな!
って、うおっ!?
プシュッ! プシュッ! ジュジュウゥ……。
分裂だと!? しかも酸を吐いてきやがった! 雑魚じゃねぇ、強敵の方だ!
まぁ、俺は毒無効があるから、溶けるのは地面だけだけど。ふんっ、ぬるいわ! 出直して参れ!
あっ、また合体してひとつになった。出直したわけね、素直な奴。
けど不味いな、物理攻撃は分裂させるだけで効果が無いっぽい。となると、毒攻撃か魔法だろうけど……試しにピュピュっと。ん~、やっぱダメか。アルカリならいけるかと思ったんだけどな。向こうも毒無効を持ってるっぽい。
それじゃ、光魔法の
バシャッ! ズズズ……ビヨンビヨン。
ウガッ! 細かく分裂しやがった! あっ、草の蔭に隠れるんじゃねぇ! この、この! くそ、どこ行きやがった!
なんて面倒臭いやつだ! これだけ細かいと焼くのも手間だ。ひとつ焼いてる間に、他のには逃げられてしまう。
っていうか、こいつ、一匹のスライムじゃねぇな? 何十匹もの小っちゃいスライムが集まってひとつの塊になってるっぽい。いわゆる群体ってやつか。
さて困ったな。どうやらこいつの攻撃は酸と触手鞭だけっぽい。どっちも俺には大きなダメージは与えられないけど、俺の方も決定的なダメージは与えられない。
っていうか、こいつらのどれかが
だって、他ならぬ俺自身がそうだもんな。俺の本体はでっかい豆の木だけど、自家受粉で分身を作ってる。けどこの分身も俺なわけで、もし本体が切り倒されても分身のどれか一本が生きていれば死ぬことは無い。
仮に自己分裂で増えるモンスターが居たとして、分裂した個体と元の個体、どっちもそいつ自身ってことになるんじゃなかろうか? スライムってそんな増え方しそうだし。
だとしたら不味いな。マジでお互いに打つ手がない。千日手だ。千日もかけてたら、あっという間に惑星消滅の日を迎えてしまう。どうしよう? う~ん……。
にゅるん。
おうふっ!? なんだ!? あっ、スライムが! いつの間に! こっ、こら、絡みつくんじゃねぇ!
うにゅるぅ。
あふん♡ ちょっ、どこ触ってん、あっ、そこはっ!
にゅるにゅるにゅるぅ。
ああんっ! だめっ、やめっ、くうぅ! あふぅ、らめぇ~っ、んほおぉ~っ!
◇
でぇいっ、しつこいんじゃあっ! 全方位に熱線砲! 弾け飛べ、この軟体生物共め! 気持ち良かったけど!
くそう、まさか触手凌辱される日が来るとは思わなかったぜ! 豆とスライムの濡れ場なんて誰得だよ! 気持ち良かったけど! 今日も疑似知覚さんは仕事熱心だ!
この畜生共め、もう許さん! 文字通り草の根分けてでも探し出して滅してやる!
肉体的には全然ダメージを受けてないけど、精神的には大ダメージだ。もうお婿に行けない。だからお嫁さんを貰う事にしよう。それ一般的だな、と自己ツッコミしてみる。うむ、意外といつも通りだな、俺。神経の太さには定評があります。
しかし実際のところ、どうやって滅してくれようか? 熱線砲で一面焼け野原とか? いや、それじゃ今いる他の生き物も全部死んでしまって、魔力が供給されなくなってしまう。そんな死んだ土地は支配する意味が無ぇ。さて、どうするかな……。
◇
――支配領域を獲得しました。
よし! 俺ってば天才!
さて、あとは亜空間に取り込んだ土地を元に戻せば完了だ。生き物を全く殺すことなく支配領域ゲットだぜ!
領域支配者は、支配領域の外に出たら領域支配者じゃなくなって只のモンスターになってしまう。そして、その空白の領域に残った最も強いモンスターが次の領域支配者になる。
だから、俺はこの領域を時空間魔法の亜空間に取り込んでやった。そこにいる生物も全部丸ごと。表層だけで容量ギリギリだったけどな。
スライム共はそれで領域支配者の座から転落し、代わりに俺が領域支配者になったってわけだ。思った通り、亜空間の中は別領域扱いだった。
なんという頭脳プレイ! 俺様の灰色の脳細胞は今日も冴えてるぜ! ちょっと脳筋っぽい力技だったけど。いいんだよ、どうせ脳も筋肉も無いんだから。
おっ? 外に出したら動かなくなったぞ、スライム。いや、水辺のやつはウニョウニョしてるな。元々は水が無いと生きていけないモンスターなのか? 領域支配者だったから、あんなに元気だったのかもな。ってか、お前そんなザマでどうやって領域支配者になったの? それが知りたいよ俺は。
強敵から雑魚へ転落か。盛者必衰よのう。生きるって厳しい。
もはや
しかし、この技は使えるな。どんなに強いモンスターでも、亜空間に取り込んでしまえばもう脅威じゃない。出すも出さないも俺の気分次第だ。フッ、また強くなっちまったみたいだな。自分が怖いぜ。
新必殺技も開発できたし、新しい領域も獲得できた。順調順調。
俺がこの盆地の王、盆地キングになる日も近いぜ!
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