015

 ピコーン!

 俺様、閃きました! 灰色の脳細胞にライトニングボルトが走ったぜ! 脳無いけど。

 改めて考えると不思議だよな。俺ってどこで考えてるんだろう? 我考える、故に我あり。人間は考える葦であり、俺は考える豆である。うむ、人間ではないな。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 いよいよ秋の一大イベント、種蒔きの時がやって来た。植物最重要のイベントだ。竹や笹は根で増える? そんなキノコチックな奴のことは知らん! 俺は豆だ!

 今年も各分身、そして本体にはたわわに実がった。種の大きさはバラバラだけど、小さくてもソフトボール大だ。既に豆のレベルじゃない。それでも俺は豆と言い張る。

 一番デカいのはやっぱ本体だな。バスケットボールくらいある。それがひとつのサヤに四~五個。サヤは全部で三十くらいあるから、全部で百三十個くらい? 分身も入れると千以上だ。すげぇな!

 で、だ。いよいよそのサヤが弾けようとしている。不思議だよな。環境も生育度合いも違うのに、サヤの弾ける時期はほとんど同じなんだよな。やっぱ全部が同一の存在だからか? シンクロニシティ?


 キシッ。


 よし、いよいよだ。いくぞ、いくぞ……。


 バァンッ!!


 よっしゃーっ! ここでいつもの風魔法! 飛んでいけーっ!

 そして、ここからがいつもと違う! いつまでも昔のままじゃないのだ、俺は!

 並列思考全開! それぞれの種に意識を移す! そして追加の風魔法だ!! 二段ロケット点火! 火は出ないけど!

 うおーっ、飛んでる、飛んでるよ! 飛びます飛びます! 只今、昭和ネタが出るくらいハイになっております、物理的に! ハイッハイッハイッ!

 すげぇ眺めだ。盆地のほぼ全景が見渡せる。おお、山脈の麓には緑が残ってるところがあるな。やっぱ西か。馬(?)も西に向かってたしな。東にもちょびっとだけ緑があるな。山麓にオアシスみたいな緑の島が出来てる。

 高度が落ちてきた。もう一度風魔法! うぬぅ、これ以上は空に上がれないか。山脈を越えられるかと思ったのに。重すぎかな。

 まぁいい、麓まで行けたら御の字だ。予定通り、トンネル掘って外に出よう。

 地面が近付いてきた。うおぉっ、スピードがすげぇ! 怖ぇっ! 風魔法で逆噴射! 着地! うぐっ、ちょっと痛い。けど、なんとか着陸成功! 地球よ、私は帰ってきた! 地球じゃねぇし、宇宙まで行ってないけどなー。


 ――領域支配権を獲得しました。

 ――領域支配権を獲得しました。

 ――領域支配権を獲得しました。


 おおう、一気に三エリアも獲得してしまった。今回で盆地の全域に種が蒔けたからな。空白エリアの支配権が自動的に転がり込んできたか。儲け儲け。

 まだ領域支配者エリアボスのいるエリアもあるな。緑が残ってるエリアか。

 よし、討伐しよう! そして俺がこの盆地全域の支配者となるのだ!

 だって、潤沢な魔力が無いと惑星崩壊の危機いざというときに対処できないかもしれないからな。これはこの星の生き物全ての為でもあるのだ! と、侵略者がよく掲げる『あなたのためなのよ』理論を振りかざしてみる。悪党だな。でも魔王だからこれでいいのだ。反対の賛成の反対なのだ。


 まずは、やはり西だな。

 そこそこ成長した分身を亜空間に収納してっと。西に飛ばした種で出口を開いて分身をワープアウト! 周辺に敵影なし! ……なんか、今日は妙に昭和ノリになってるな。

 ほう、池があちこちにあるな。泉か。水が湧いてるっぽい。やっぱ山向こうからしみ出してるんだな。背の高い木がポツポツ、あとは草と灌木か。見通しはそこそこだな。

 おっと、種を分身の代わりに戻しておかないと。春まで水撒きしないといけないからな。泉なら俺も作れるぜ、ふふん。


 さて、このエリアの領域支配者はどこかな~?

 ……見当たらねぇな。まぁいいか、ブラブラ歩いてたらそのうち見つかるだろう。



 いねぇ! ウサギとか鳥とか蛇とかは居るけど、モンスターがいねぇ!

 大型の獣もいねぇ。小動物ばっかりだ。なんで? これだけ水場があって、緑も多いのに。

 仕方ない、人海戦術、じゃないな、豆海戦術だ。分身を大量投入してシラミ潰しだ。シラミは潰したら駄目だって聞いたことあるけど、そんなことは知らん! 俺は潰す! あんこは半分潰れた粒あんが好きです!

 総勢三十本の豆の木によるモンスター討伐隊結成だ。草の根を分けてでも探し出すのだ! ただし豆の木の根は分けなくて良し!


 ……居ねぇよ、なんで? 間違いなく俺以外のモンスターがいるはずなのに。

 まさか、空の上? いや、小鳥が飛んでるだけだな。あれはモンスターじゃない。

 むっ、虫も飛んでる。蛾か。泉があってこの季節なんだから、赤とんぼくらい飛んでてもいいのに。泉が綺麗過ぎてヤゴが育たないのかね?

 ……あっ! 泉か!? 水の中!? あり得る!

 そうっと、のぞき込んで……何もいない? いや、何か動いてる?


 シュルルッ!


 って、うおっ!? なんか出てきた! 触手!? 半透明の細長い春雨みたいなのが! 麻婆食いてぇ! アツアツご飯にたっぷり乗せて!


 ズルズル……。


 おっと、ようやく出てきたな。見つけたぞ、領域支配者! 

 ふむ、半透明のゼリー状、身体の一部を自在に変形させるモンスターか。

 ……スライムじゃん!

 ファンタジーの定番キターッ!

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