010

 ふう。

 進化する度にこれか、かなわんなぁ。疑似知覚さんが仕事し過ぎなんだよな。特に痛覚と熱感。彼(彼女?)らに休みを出してあげてください。半休でもいいです。じゃないと、過労死……はしないだろうけど、ショック死するかもしれません。俺が。

 魔王樹か。なんかカッコいいな。捨て去ったはずの俺の厨二魂が疼くぜ! 捨てたと見せかけて隠し持ってたのは秘密。魂は捨てられない。

 進化して変わったのは……うむ、分からん! 天の声さんはちょっと不親切過ぎるな。ステータス確認とか鑑定とかできればいいのに。やっぱ、生きるのに不可欠じゃないってことなんだろうな。知らなくても生きていけると。むしろ、知ったら生きるのが辛くなりますという事か。もしかしたら、あの麦や芋みたいに名前が変わっただけという可能性も……あり得るところが笑えない。

 というか、今回は知識付与が無いのに、あれだけの頭痛があったわけ? 何のためだよ、納得できねぇな!


 まてまて? 魔王って、まさか勇者が退治しに来たりしないだろうな? ……いかん、あり得る! あり得過ぎる! あり得りはべりいまそがり! 魔法があって魔王が居るなら、勇気が溢れる勇者が居てもおかしくない! そんな勇気は捨ててしまえ!

 やばいじゃん、俺伐られちゃうよ! 斬られるんじゃなくて伐られちゃうよ、討伐じゃなくて伐採だよ! 勇者が斧持ってハイホーハイホー歌いながらやって来……それはあんまり怖くないな? サンタ帽被ったカラフルな七人しか心当たりがない。あいつらなら大丈夫だろう。争いごとは苦手そうだ。あいつらじゃなかった場合が問題だ。ガチの勇者、ヨシ〇コ以外。

 何か対策しないとな。とりあえず、ネコ耳たちにはタンスの中を空にしておくように伝えないと。あいつら、平気で他人ひとのタンスを漁るからな。お爺ちゃんの老後の蓄えを容赦なく持って行きやがる。あんなのが勇者だなんて世も末だ。そりゃ魔王も現れるってもんよ。うん? 魔王が先か勇者が先か? これは難しい命題だな。実に興味深い。

 あ、元々ネコ耳たちはお金使ってねぇな。じゃあ盗られる心配はないか。良かった良かった。



 ははーん。そういうことか。

 基本的には、全体のスペックアップなんだな。魔法やスキルの効果が上がってる。より少ない魔力でより大きい効果が得られるってわけか。お得にポイント還元ってことね。

 水生成なら、今までチョロチョロだったのがドバドバになってる。毒生成もピューッだったのがブシューッだ。より遠くまで飛ばせるようになった。

 形状変化も、よりしなやかに滑らかに。ツイストだって踊れちゃうよ! イエーイッ! ……昭和のオモチャにこういうのあったな。何が楽しいのやら。萎えるわ。

 そして光魔法! 魔王なのに光魔法! 闇に生きる魔の王なのに光魔法! 俺に何をさせたいの、天の声!? そもそも俺、植物だから光が無いと生きられねぇよ。闇落ちイコール枯死だ。これほど魔王に向いてない種族も無いだろう。

 けど、魔王としてはそれらしい魔法のひとつも覚えておかないとダメかなと思って、新技作ってみた。何と言っても魔王だからな。

 という事でコレ! 名付けて『ブラックレーザー』、黒い光線です! 

 いや。『黒い光』って何よ? 原理がサッパリ分からん。自分で作っておいてなんだけど、こんなの作れるなんて流石ファンタジー。

 まぁ、見た目だけだけどな! 効果は無い! ただ黒い光が出るだけ。草に当てても虫に当てても何も変化なし! 人畜無害な魔王です!

 いいんだよ、イケメンはそれだけでモテるだろ? だから見た目だけでいいんだよ。ニンゲン見た目が百割だよ、マジL〇VE千パーセントだよ。ケッ!

 ……見た目かぁ。俺、豆の木で元々蔓っぽいから、幹がれてるんだよなぁ。確かに魔王っぽい。これが杉の木みたいに真っ直ぐだったら『精霊樹』とかだったんだろうなぁ。でも実は花粉をまき散らす迷惑野郎だけど。やっぱ見た目が百割か。ファンタジーでもそこは変わらないのか。世の中腐ってんなぁ。

 まぁ、ダーク方面に振り切っちゃうのもアリだよな。異形も極めると逆にカッコいいっていうの? 悪の権化っていうか、恐怖の象徴っていうか。あ、それが魔王か。合ってるわ。

 とりあえずの目標は『高いところから街明かりを見下ろしつつ、赤ワインかブランデーの入ったグラスを回す。そして意味ありげな含み笑い』だな。出来れば膝の上にペルシャ猫も欲しい。ネコ耳たちの中からソレっぽいのを連れてくるか?

 魔王じゃなくて悪徳政治家かマフィアのボス? イメージが昭和っぽい? 放っとけ! あれもひとつの悪のスタイルなんだよ!

 とりあえずは、ネコ耳たちにブドウを育てさせるところからだよなぁ。じゃないと、ワインもブランデーも作れない。これは外せない。

 街も作らせないとな。街明かりを見下ろすためには街が必要だ。街って言うからには人口十万人くらいにまでは発展させないと。そのためには公共投資とインフラ整備が必要だな。

 うーむ、先は長そうだ。魔王って大変。



 西の遠くに山が見える。山脈だな。それがずっと北にも南にも続いてる。

 ……これ、北の山脈と南の山脈に続いてるんじゃね? もし東にも山があったりしたら……あ、あるわ。南北に伸びてるのが霞んで見える。

 ってことは、ここって盆地か? 規模がでけえな! 四国が丸々入る位あるんじゃね!?

 しかも、山脈が高ぇ! 富士山以上の高さがあるんじゃね? 切れ目も無いし。東側だけ若干低いか?

 こりゃ、夏の暑さも冬の寒さも納得だ。盆地は夏暑くて冬寒いからな。確か京都がそうだったはず。湯豆腐喰いてぇな。湯葉でも可。

 あの高すぎる山脈のせいで雲が越えてこれないのか。雨雲が山の向こうで堰き止められて、盆地に流れてくるのは乾いた空気だけなんだろう。雨が降らないのも納得だ。

 山の向こうには雨が降ってそうだけど……あっちまで行けるか? 上の方は全然木が生えてないぞ。あれって森林限界だろ? 豆の俺に越えられるのか?

 東の方は山が低いみたいだし、あっちから越えてグルッと回り込むか。山の向こうのことも気になるしな。

 いやはや、何年かかることやら。まぁ、四国一周くらいならなんとかなるだろう。爺ちゃん婆ちゃんのお遍路さんに出来て、魔王の俺に出来ない道理が無い!

 とりあえず西も南も麓まで行ってみるか。山裾まで行けば水が湧いてるかもしれないしな。山の向こうに降った雨がこっち側にしみ出してきてるって事もあるだろうし。

 水があれば生き物がいるだろうから、俺の支配領域にして魔素源として利用させてもらおう。勇者が来る前に勢力拡大アンド強化だ。最終的にはこの盆地全域を支配領域にして、生き物とネコ耳の満ち溢れる楽園を作る。

 そして、ブランデーを飲みながらそれを見下ろすのだ! ふはははっ!

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