009

 今年の冬も相変わらず寒かった。

 俺は酸と水、アルカリを反応させて暖を取れたけど、ネコ耳たちにはかなり厳しかっただろう。ネコ科動物は基本的に寒いところが苦手だからな。ほとんど家から出てこなかった。家の中ではネコ団子状態だった。ちょっとほっこり。

 湿地も凍って、一面でっかい鏡みたいになったしな。朝焼けのグラデーションに染まる空を切り取った鏡面のパノラマはなかなかの絶景だったけど、感動したのは五分だけ。あとは寒くてひたすら震えてた。でも、去年よりは幾分マシだったような気がする。水気があったからかな? やっぱ水は偉大だな。


 そんな感じで今回の冬もなんとか乗り切った! えらいぞ俺! 生まれ変わってから三回目の春、満二歳だ。ボクふたちゅ。俺の頭にも春が来た? いや、いつもだった。てへっ。

 とりあえず、秋に飛ばした種を発芽させるか。水を撒いて、根も伸ばす。

 しかしまぁ、新しい分身の周りは見事に荒れ地ばっかだな。栄養が抜けてそうな砂と石ころしかない。これじゃ本体ほどの成長は出来ないかもしれんなぁ。生き物が全然いないから、発芽したての脆弱なところを狙われる心配がないのが救いか。

 なに、俺は地面と魔力さえあれば生きていける。水も光も自前で賄えるからな。ゆっくり成長していけばいいさ。そこいらの貧弱な魔物とは違うのだよ。

 さてと、発芽させた種の中からひとつずつ、東西南北の探索に向かわせるか。ペースはゆっくりでいい。五日歩いて二日休む感じかな。完全週休二日制だ。

 歩くのって、結構エネルギー使うんだよな。筋肉も骨も無いのを無理やり動かしてるせいかもしれない。マッソーな豆なんて見たことないし。豆ならプロテインは有りそうだけど……不味いんだよな、大豆プロテイン。いや、俺は大豆じゃないから、きっと美味いプロテインが含まれてるはず。大豆とは違うのだよ、大豆とは! 多分。

 まぁ、急ぐ旅じゃないし、焦らずのんびり行きまっしょい。


 とか思ってたら、北へ向かわせた分身が早々に山へぶつかった。ゴツゴツした岩山。これ、登るのはいいけど、休憩できるところが無さそうだな。ずっと上まで岩ばっかだ。結構高そうだし。

 東西に伸びてるな。とりあえず西に向かって歩いてみて、登れそうなところがあったら登って行こう。今は涸れてるかもしれないけど、川の跡とかあるかもしれないし。そこからなら登りやすいだろう。滝があったらそれまでだけど、適当な高さにまで登れたら十分だ。北方面は夏の避暑のために来てるからな。

 とりあえず、ちょっとだけ登って斜面で休憩。ああ、お日様が気持ちいいなぁ。



 あ……なるほど、こういう感覚なのか。思ったよりハッキリした感じだな。例えるなら、ドーム球場の中と外? いや、プールサイドとプールの中くらいの違いはあるか。

 これが支配領域の境界か。

 草原エリアの南の境界は、この涸れた川か。そんなに深くも広くもないな。おっ、魚の白骨死体発見。五匹分くらい? ここが最後の水たまりたっだのかもな。追い詰められての飢え死にか酸欠死だろう。想像したくないなぁ。

 川を越えても荒れ地か。いや、ちょっと土が細かいな。これは泥が固まった感じか? 色も黒っぽい。元湿地かもしれないな。

 そういえば、ネコ耳の仲間が南へ向かったって言ってたな。湿地があったから、そこならまだ水があるかもって考えたのか。なるほどな。

 けど、見た感じ、ここも既に荒れ地だな。一本の草も生えてない。背の低い木がまばらに立ち枯れてるだけだ。

 けど、天の声さんのアナウンスが無かったってことは、モンスターが生き残ってるはずなんだよな。領域支配者エリアボスがいるはず。俺じゃあるまいし、どんな生き物が生き残ってるんだろう?

 ここじゃ俺は侵入者ってことになるな。いきなり攻撃されるかもしれん。慎重に行こう。


 いいな、ここの土! さすが元湿地、栄養が多いわ! 涸れて硬くなってるけど、湿らせたら柔らかくなるから問題ない。ちょっとここで栄養補給していこう。

 はぁ~、生き返るねぇ~。根から上質な養分がジャンジャン吸い上げられてる。美食家の俺も納得の美味さですな。舌、無いけど。

 うっ? いてっ!? 痛ててっ!? あれ? なんか、全身がメキメキ言ってる。ああ、成長促進さんが仕事してんのか。たっぷりの栄養と水、そして太陽の光。これだけ揃ったら、そりゃ大きくもなりますわな。ってことは、これは成長痛か。中学生かよ。厨二ではあることは間違いないけども。疑似知覚さん、いつも言ってるけど、仕事し過ぎ。

 南方面は時間かけてゆっくり行こう。ここならいくらでも大きくなれそうだし、もし領域支配者と戦うことになったら、デカくて強い方がいいだろうしな。

 目標は六百三十四メートル! 目指せ天空樹!



 とか言ってたら、向こうから来ましたよ、領域支配者! まだ五メートルくらいにしか育ってないのに! いや、三日で苗木からここまで育ったなら大したもんだ。凄いよ俺。

 ってか、こいつが領域支配者でいいんだよな? 見るからにモンスターだし。

 亀。結構でかい。全長三メートルくらい? 多分カミツキガメの仲間。ガ〇ラみたいなやつ。嘴凄い。

 でもって、骨。もしくはミイラ? もうカサカサのカピカピ。

 なるほど、大亀のスケルトンか。これなら水なしで生きて(?)いけるもんな。

 それにしても、亀の骨って初めて見るな。いや、骨なんて魚とチキンと理科室の骨格標本くらいしかみたことないけど。あと骨付きカルビとスペアリブ。ビール飲みたいなぁ。

 ファンタジーでもアンデッドの亀は聞いたことが無いな。大抵、人とか犬とかドラゴンとかだよな。たまに鳥とか巨人が出てくるくらい?

 スライムのアンデッドとかも聞いたことないな。スケルトンは無理そうだから、スライムゾンビ? 腐敗してプクプク泡立ってそう。かなり臭そうだ。もしかして、バブ〇スライムってそうだったり? 毒持ってたし、実はそうなのかもな。

 まぁ、こんなにいろいろ考えてても全然余裕だな。骨亀の足、メッチャ遅い。俺がトコトコ歩いてても、余裕で距離を取れる。ほれほれ、ウサギには勝てても俺には勝てまい。俺は居眠りなんてしないからな。


 ガチンッ!


 うおっ!?


 ガチンガチンガチン!!


 うおっとおおぉぉっ!?

 ビビった! そうか、亀だったな。予想外に首が長かった。ああやって噛みついてくるのか。噛まれたら枝の一本くらいは軽く喰い千切られそうだ。居眠りはしなくても、油断してたら同じことか。反省。まさか〇トリックス避けをする日が来るとは思わなかった。

 では、次はこちらからだな。それ、ピュピュッと。

 おおう? さすがは亀、甲羅が丈夫だな。俺の酸でもあんまり溶けてない。かなり分厚いみたいだ。叩いても簡単には割れなさそう。

 となれば、それっ、ピュピュッと! うむ、やはりデカブツは足が弱点だよな。前足一本溶かされただけで動けなくなるとは。俺なんか足が無くても歩けるぞ、根があるから。

 骨亀がその場でクルクル……じゃないな、ズリズリ回ってる。はい、後ろ足にもピューッ。これでもう動けまい。容易い奴よ。って、油断したら尻尾で……というのはないな。尻尾、めっちゃ短い。ちょっと可愛い。でも倒すけど。

 あとはじっくりたっぷり、甲羅も頭も溶かしておしまいだ。いくら丈夫でも、時間を掛ければ溶かせるだろう。それそれ、水芸でござーい! ピューッとな。


 ――領域支配者を討伐しました。支配領域を獲得しました。


 うむ、楽勝だったな!


 ――進化条件を満たしました。●●は種族『魔樹』から種族『魔王樹(若木)』へと進化します。


 はい? うおおぉっ、来た来た! アダダダッ、頭無いのにまた頭痛がっ! くぅ~~っ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る