005
最近は寒さも和らいできて、日差しも柔らかくなってきた。体内時計によると二月の終わりらしいから、そろそろ冬が終わるんだろう。もうすぐ春ですね! 恋をしてみませんか――って、相手がいねぇよ。俺ぼっちだよ。
なんかね、この世界の二月は三十日まであるらしいですよ? やっぱ異世界だな。もしくは太陰暦? って、月がふたつあるんだけど、どっちの月が暦になってるの?
む? ということは、ここは北半球か。南半球は季節が逆だからな。いや、一月が冬だった時点で気付けよって話だけど。まぁ、それが分かったところで何がどうなるってものでもないしな。
そもそも、この世界が球体の惑星であるかどうかも怪しい。何といってもファンタジーだ。乳の海を泳ぐでっかいカメの上に象が乗っていて、その象がお盆みたいな大地を支えていても驚かないよ俺は。多分。
しかしまぁ、見事に雨も雪も降らなかったな。もう一年近くまとまった雨が降ってない。枯れた草原と森は、今や虫すらもいない死の大地だ。
ただし俺(種を含む)の周りを除く。俺の周りだけは、草と虫たちが僅かに生き残っている。水生成のおかげで、ちょっとだけ湿り気があるからな。まぁ、冬の間にその草も枯れたけど。春になったらまた生えてくるだろう、多分。知らんけど。
ここに草原と森があったということは、もともとそれなりの降水はあったはずだ。じゃないと、こんなに広い草原も森も生まれるわけがない。それがここまで乾燥しているということは、この近くで何か大きな異変があったんだろう。地殻変動で山が出来たとか、あるいは逆に山が無くなったとか。
なんとか原因を突き止めて解決しないと、このエリアから魔素が枯渇してしまう。
魔素はそのエリアに棲む動植物が生み出すもので、生き物がいないと減少し、やがて枯渇するものらしい。そうなると俺の各種スキルや魔法は使えなくなり、水生成が出来なくなって俺も枯れてしまうことになる。いわば飢え死にだ。それは勘弁。
とりあえずは対症療法しかないか。蒔いた種から水を出して、周囲を湿地にしてしまおう。それで草は生えるはず。草が生えれば虫や鳥、ウサギなんかも戻って来て、魔素の供給が回復するだろう。多分。
森の木も、今はカサカサだけど、水を与えれば復活するかもしれない。そうしたらリスやネズミなんかの小動物も戻って来て、魔素が供給されるようになるかもしれない。
けど、これで回復させられるのは俺の周りだけなんだよなぁ。広い俺の支配領域全体にはとても行き渡らない。俺の種がもっと遠くまで蒔かれていれば良かったんだけど、風魔法だけじゃそんなに飛ばせないからなぁ。
まぁ、次の秋には新しい種が出来る。歩けるようにもなったことだし、移動して種を蒔けば少しずつ水を供給できるエリアは広がるだろう。去年の秋に蒔いた種からも新しい種は作れるしな。それを蒔けばさらにエリアを拡張できる。今の支配領域全体をカバーできるのは、早くて二年後くらいか? 気の長い話だ。
当面はそれ以外に出来ることはないし、やる事も無い。焦らずじっくり行きましょうかね。
◇
ふむ、結構違いが出るもんだな。やっぱ環境の違いかね?
この、森の新芽周辺は緑の苔だらけだ。木が枯れて光が射すようになったからかな?
新芽の周りにあった枯れ木は溶かして栄養にしてやった。日差しの邪魔だし。だから俺(分身)の周りは栄養豊富だ。それに、水生成で常に新鮮な水も供給されている。こいつらはそのおこぼれに上手くありついたってところか。
苔庭みたいで落ち着くし、俺に害がないなら、別にこのままでいいだろう。
森の別の新芽周りは……草だらけだな。これは
そのうちワサワサ葉を茂らせるだろうけど、羊歯はそれほど丈は伸びないはず。俺の日差しを奪うようなことはないだろう。
枯れ木だと思ってた木には新芽が出てるな。俺の水を吸って息を吹き返したか。意外にしぶとい、さすが自然界。時間はかかるだろうけど、森はなんとか復活しそうだ。
草原のここは、普通に沼だな。ドロドロの泥地の何か所かには草の芽が出てる。葦の仲間か? もともとこの辺には生えてなかったはずだ。どこからか種が飛んできたのかもしれないな。もしくは、休眠していたか。古代の蓮が芽を出したって話もあるし、種だと意外に長生きできるみたいだからな。でも、葦の種って聞いたことないな? どんなのだ?
こっちは……別世界だな。なんだこれ、モウセンゴケか? うおっ、止せ、絡みついてくるな、俺は食い物じゃねぇ! ジュッ! ふう。全く油断できないぜ。これだから自然界は。
ってか、ここが一番命に溢れてるな。一番東に飛んだ種のところか。
新芽の周りはさっきのモウセンゴケっぽいのとか、ハエトリグサっぽいのとか……ぶっちゃけ、食虫植物の楽園みたいになってる。変な匂いを出す草もあって、それが虫をおびき寄せてるっぽい。ぶっちゃけ、ウ〇コみたいな臭い。
その草もやっぱり食虫植物で、見た目は小さな水芭蕉っぽいんだけど、巻いた葉の奥に虫が入ると粘液質の消化液が出てきて、美味しくいただけるようになっているみたいだ。いや、美味しいかどうかは知りたくもないけど。
荒れ地に水は戻ったけど、栄養はやっぱり足りてないんだろう。それを補える食虫植物だけが繁茂できたって感じだ。いや、食虫植物というのは正確じゃないかもしれない。さっき俺も食われかけたし。こいつら、他種なら草でも喰っちゃうっぽい。なんて危険な。
けど、ここらはふたつ種が飛んでいて、供給される水量は本体周辺の次に多い。だから割と広い湿地になっていて、植物や虫も多く育ってる。ただ、ちょっと偏ってるだけで。
虫は普通にハエやアブ、蝶なんかが飛んでいる。トンボはいないな。あいつらは水がないと生きていけないから、去年から続く渇水で絶滅したんだろう。まぁ、エサになる蚊も絶滅してるだろうから、遠からず絶滅する運命だったのかもな。南無。
バッタっぽいのもいる。こいつらは俺の敵だ、いつか絶滅させてやる! 溶かして俺の栄養だ! 喰われる前に喰う、それが自然界の掟なのだ!
そうか、俺もある意味食虫植物だったか。ならしょうがない。皆で頑張って生きて行こうな。
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