002
……っだっしゃぁーっ! 俺、ふっかぁーつっ!
くそう、あのウサギ野郎、新芽が出る度に喰いにきやがって! もう三回だぞ、三回! 根っこが残っていれば再生できる雑草じゃなかったら死んでるところだ! 雑草舐めるな! あ、舐めるどころか齧られてたわ。
ええい、忌々しい。ただでさえ草は一年しか生きられないというのに、なんとかしないと花も実もつけられない! せめて種は残したい、男として! いや、草だから性別無いかも。えっ、今の俺はオカマなの? いやん。
うぬぅ、それはそれとして、今はウサギ対策だ。何とかならないか? いや、ウサギだけじゃなくて、虫なんかもだな。草だからと言って、ただ喰われるだけの人生、いや草生はゴメンだ。短いからこそ、全力で生き抜かなければ!
何か手はないのか、何か。いや、手が生えてきてもキモいだけだけどさ。
――成長促進を獲得しました。
うおっ、びっくりした! また
ふむ、成長促進ねぇ。獲得したって言われても、それで何が出来るかよく分かんねぇんだよな。まぁ、これは比較的わかりやすいけど。きっと成長が早くなるんだろう?
アニメやゲームだと『ステータスオープン』とかで情報を見られたりするんだけど、俺は見られないからなぁ。試してみても何も起きなかった。声に出さないとダメなのかもしれない。草には無理だ!
まぁ、成長が早くなれば、あの新芽好きのウサギからは逃れられるか。次に来るまでに新芽じゃなくなってればいいんだからな。
けど、それじゃ根本的な解決にはならない。今度は硬い葉好きのウサギが来るかもしれないし。虫は好き嫌い無さそうだよな。
そういえば、蓼食う虫も好き好きって言葉があったな。蓼っていうのは、めっちゃ不味い草だったはず。虫には味覚無さそうだもんな。喰えそうなら何でも喰っちゃうんだろう。好き嫌いが無いのはいい事だけど、喰われる方にとっては何の救いにもならない。
くそう、成長促進なんかじゃ全然解決にならねぇよ。せめて何か自衛手段になるスキル、例えば毒とかがあれば――
――毒生成を獲得しました。
――毒耐性を獲得しました。
うおっ!? マジか! まるで、俺の心の声が聞こえたみたいにスキルが生えたな! もしかして天の声さんって、俺の事どっかで見てる? お話しませんか?
……。
違うのか。やっぱり単なるシステムなんだな。話し相手になるかもと思ったんだけど、残念。寂しい原っぱ生活に潤いが欲しかったんだけどな。
――水生成を獲得しました。
違ぇよ、その潤いじゃねぇよ! いや、草だからありがたいけどさぁ! 分かっててやってんじゃねぇだろうな、おいっ!?
しかし何はともあれ、これで自衛手段が出来た! 毒草なら、ウサギや虫に喰われることもないだろう。まぁ、最初の一回は喰われたとしても、二回目以降は無い。喰ったら死んじゃうからな。ふふふ、勝ったな。
さて、それじゃ早速毒を作るとしようか。って、どうやって作るんだ? 分からん、とりあえず念じてみるか。
毒出ろ~、毒出ろ~……。
おっ、葉っぱの先からなんか滲んできた。これが毒かな? よしよし、これで安全が得られる。ふう、一時はどうなるかと思ったぜ。
むっ、早速虫が来やがった。見た目はバッタだな。トノサマバッタの黒い奴だ。俺の方へ歩いて近付いてくる。バッタなら飛ぶか跳ぶかしろよ。
うわぁ、正面から見ると結構グロい顔してるな。口なんか、いかにも『オレサマ、オマエ、マルカジリ』とか言いそうな感じだ。実際にはチミチミ齧られるんだけど。どっちもイヤだな!
来た来た、うりゃっ、毒の雫を喰らえっ!
ジュウッ
え……おいおい、これ毒ってレベルじゃねぇぞ!? エイリ〇ンの涎かよ!? バッタの頭溶けてんじゃん! 地面に落ちて煙噴いてるじゃん! いや、身を守るって意味では頼もしいけどさ。
もしウサギに齧られたとしても、喰われた瞬間に頭を融かし落とすことが出来そうだ。うん、これはこれでいいんだろう、きっと。よし、いつでも来い、ウサギ野郎! 三回も齧られた恨み晴らしてやる!
◇
あやー、そう来たか。うん、いや、俺としては齧られることがなくなって良かったんだけどさ。自然界の厳しさは見せつけられちゃったなぁ。
ウサギ野郎、ただいま絶賛肉塊中です。複数の狼に喰い千切られてます。
そうだよなぁ、草食動物がいるなら肉食動物もいるよなぁ。どうやら、いつも俺を齧りに来てたから臭いが付いちゃってたらしい。それを嗅ぎつけた狼が張り込みしてて、哀れウサギは狼の腹の中ってわけだ。喰らう側から喰われる側へ。盛者必衰よのう。自業自得とも言える。
狼も腹を空かせてたのかね。もうちょびっとの毛皮しか残ってないよ。骨まで食べちゃったのね。
◇
その毛皮も、俺の丈が二十センチを超える頃には土に混じって跡形もなくなってしまった。諸行無常よのう。
そして、俺の茎のあちこちからは細長い蔓が伸び、葉の間には薄紫の可愛い小さな花が咲いている。プリチー。
季節は初夏。乾いた風が流れ、空は何処までも青く澄み渡っている。
でもね、なんか全然爽やかじゃないの。だって、俺の周りは死骸だらけなんだもん。いや、俺がやったんだけどさ。いやいや、俺のせいじゃないよ! 俺は何も悪くない! 異議あり、無罪を主張します!
このふた月ほど、この草原と後ろの森には、ほとんど雨が降らなかった。芝っぽい草は枯れて茶色くなり、森の木々も萎れて元気がない。
そんな中で、俺の周りだけは青々と草が生い茂っている。他でもない、俺の水生成の能力によるものだ。そのおかげで、俺の周りだけは草が枯れることなく生い茂っている。正に砂漠のオアシスだ。
で、そうすると食い物に困った草食動物や虫が集まってくるんだけど、そいつら、俺まで齧ろうとするんだよ。で、俺の毒に
ただ、あまりにも集まり過ぎて、土に還る前に新しい躯が積みあがっちゃったんだよな。虫の死骸の山ができてしまったのはそういう理由。いや、ネズミや鳥の死骸も混じってるけど。
死体が腐ってハエも沸いてるけど、そのハエも俺に触れると毒で死んでしまい、また山が少し高くなるという悪循環(?)が起きている。勘弁してほしい。
せっかく花が咲いたというのに、来るのはハエとバッタとネズミと鳥ばかり。蜂や虻が来てくれないと、受粉出来ないじゃないか。
はぁ、こうなったら、風で自然に受粉するのを待つしかないか。吹けよ風、呼べよ嵐! 我に七難八苦、じゃない、受粉の機会を与え給え!
――風魔法を獲得しました。
え? マジで?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます