草転生ってwww
みそたくあん
001
――〇×◇▼●□■↑↓↑→。
――体外思考を獲得しました。
――疑似知覚を獲得しました。
は? 何を獲得したって? っていうか、ここ何処よ? 真っ暗で何も見えないんだけど?
それに、なんか周りにビッシリ詰まってて……って、これ土か! やばいじゃん、俺生き埋めになってる!? いったい何時の間に!?
昨日は確か、雨の週末だったから家飲みしながらゲームしてネット小説読んで……普通に寝たな。もしかして、寝てる間に大雨で土砂崩れか!? 裏山崩れたか!?
いやいや、原因はどうでもいい! それよりも、一刻も早く地上に出なきゃ!
幸い、空気はあるみたいだ。息苦しくはない。身体も痛くないから、骨折や内臓損傷もないみたいだ。けど、手足は動かせないし感覚もない。思ったより拙いかもしれない。後遺症が残ったらやだなぁ。
いつ来るかも分からない救助を待つのは悪手だな。手遅れにならないうちに、自力で脱出するべきだ。なんとか身じろぎくらいは出来るから、少しずつでも上に向かおう。
ぐっ、くぅっ! 思ったより土が硬い! 湿ってて重い、辛い! 出産のときの赤ん坊って、きっとこんな気持ちなんだろうな。そりゃ泣くわ。
おっ、ちょっと明るくなってきたか? もう少し、あとちょっとで……プハァッ! やった、地上だ! お日様が眩しいぜ!!
……は?
何処よここ? なんか、見渡す限りの草原なんですけど? 後ろは……森だな。ブナ? コナラ? なんか雑木林っぽい。
あれ? うちのアパートは? 駐輪場に停めてあった俺の原付は? 道の向こうにあった川はどこに行った? そもそも、その道もねぇな?
もしかして、土砂崩れとかじゃなくて、拉致られてどっかの田舎に埋められた? でも、誰が何のために?
うーん、わからん! 心当たりなし! 普通に生きてるだけのサラリーマンに、そうそう拉致案件が発生するわけないしな。とりあえず、警察にでも連絡しよう。えっと、スマホスマホ……って、あれ?
……。
なんじゃこりゃぁっ!?
手が無い!
足が無い!
胴体すら無い!!
地面から伸びてるのは青白くて細長い茎、そしてその天辺には瑞々しい緑の双葉!
草じゃん!
俺、草になってるじゃん!!
なんなのコレ!?
◇
はぁ。どうにも納得できないけど、どうやら俺は草になっているらしい。生えたてピチピチの新芽だ。葉っぱからすると、マメ科っぽい。
夢かなとも思ったんだけど、草じゃ頬っぺたを抓ることも出来ない。確かめようがねぇよ。まるで幽霊にでもなったみたいな気分だ。
そもそも論として、草がこんな風に何かを考えるっていうのが、まずあり得ないよな。脳みそも神経もないんだから。植物に音楽を聞かせると成長が早くなるなんて話もあるけど、それがイコール感情や思考があるってわけでもないだろうし。
うん? 思考? そういえば、土に埋まってたときに何か聞こえたような気がするな。確か体外思考を獲得とかなんとか。
うーん、ゲームやラノベ的に考えると、あれは何らかのスキルを獲得したアナウンスだろう。いや、まさかそんな、ゲーム的世界に転生なんて実際にあるわけがないとは思うんだけど、そうじゃなけりゃこんな夢みたいな状態、説明がつかないんだよなぁ。
草なのにこうやって物事を考えられるのは、その体外思考ってスキルのおかげなんだろうなぁ。考えられるだけで、他に何もできないんだけどね!
そういえば確か、疑似知覚を獲得とも言ってたな。周りの風景が見えるのはそのスキルのおかげか。植物に目はないから『疑似』なんだろう。
しかし正味の話、これからどうしよう?
なにしろ草だから、出来ることが何もない。ぼーっと周りの風景を見てお日様の光を浴びることしかできない。ああ、いつの間にかお日様があんなに高くなってる。暖かいなぁ。
見れば、周りにはそこそこの大きさにまで育った芝っぽい草が茂っている。こいつらも、もしかしたら俺みたいに思考しているのかもしれない。もしそうなら、なんとかコミュニケーションをとりたいところだけど、その手段がないんだよな。なにせ、草だから。
そう、草なんだよな。
マジで、草に転生ってどういうことよ? 普通こういうのって、最悪でもモンスター転生じゃない? スライムとか蜘蛛とかゴブリンとかさ。最弱の魔物スタートってやつ? いや、ここがファンタジー世界なのかどうか知らないけども、スキルらしいものがあるってことは、その可能性は高いでしょ。定番だし。
そこへ来て、俺は草だよ? 植物だよ?
ダントツの最弱転生じゃん! 動けないじゃん! 物語にならないじゃん! 何のために転生したの!? あり得無くない!? ストーリー進まなくない!?
なんで草なんだろうなぁ。あっ、あれか? ネット小説のランキング見て『また転生モノかよ、草生えるwww』とか言ってたからか? ネット小説の呪い? なんで俺なんだよ! 他にもいるだろう、そんな奴! やり直しを要求する!
まぁ、愚痴を言っても仕方がない。誰も聞いてくれないっていうか、そもそも喋れてないし。はぁ。
これは諦めて、草としての一生を全うするしかないのかもな。草だから、たった一年の命か。儚いなぁ。
そもそも、俺って本当に死んだんだろうか? 昨日まではごく普通にサラリーマンしてたはずなんだけどな。意外に、本当に夢だったりして。目が覚めたらいつものベッドの上で、休日の午前を二度寝で潰してたりとかな。だったらいいなぁ。
お? なんか、草原の草が不自然に揺れてる。何か居るのか?
おおーっ、ウサギじゃん。野ウサギかな? 茶色い短毛のモフモフだ。鼻をピスピス動かして臭いを嗅いでる。かわええのう。
ファンタジーだと角が生えてたりするものだけど、こいつは普通にウサギだな。ちょっと耳が長いかな? そこらに生えてる草を食べてるから、肉食でもないようだ。
うん?
ヒョコヒョコとこっちに近付いてくる。うおっ、でけぇ! いや、俺が小さいのか。まだ生えたばかりの新芽だしな。
周りの芝みたいな草を食べだした。どうやら若くて柔らかいのがお好みみたいだ。
そして俺の方へと近づいてきて……いやいや、待ちたまえよ!
うおぉっ!? マジか!?
よせ、やめろ、来るなぁっ!
いやあぁっ、やめてぇーっ、食べないでぇーっ!!
夢なら覚めてぇーっ!!
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