子守唄
弱腰ペンギン
子守唄
「ねーんねーんころりーよーおころーりーよー」
おい、なめてんのか。音が外れまくってるじゃねえか。
そんなんじゃ眠れねえよ。俺を0歳児だと思ってバカにしてんのか。
「ぼーぉやあーわぁーよいこぉーだぁー」
情感たっぷりに歌っても一緒なんだよ。ズレてんだよ。
耳が痛い!
顔近づけるな!
「ねんねぇーしぃーなぁー!」
お前が満足してどうする!
なんで……っちょ、あ、やばい。出るわ。これ出るわ。
あー、あぁー。あー。ん。これ気づいてないな。
ママ。歌ってないで、ママ!
おむつ大変なことになってるから! ママ!
「包丁ハサ――」
突然どうした。なんで危ない歌に変わってるんだ!
ドス黒い声になるな!
それより気づけ、おむつ!
おーむーつー!
「あ、なんか湿っぽいと思ったらおむつ大変なことになってますねー。とりかえましょうねー」
ようやく気付いてくれたか。さすがママ!
でも俺そっちのけでパパといちゃいちゃしだすのは勘弁ならないから気を付けてくれ。
俺は自力でご飯を食べることすらママならないんだ。ママだけに。
「はぁーい。それじゃあ歌の続きいきましょうねー」
いらない!
いらないからやめてくれ!
「バブバブバブブ、バーブブバブバブベイベー」
なんだそのオリジナルソング!
あ、違う。これ替え歌か。どっちにせよセンスねえな!
「うーん。なかなか眠ってくれまちぇんねー。おねむじゃないのかなー?」
デスボイスで眠れると思う方がどうかしてるぞ。
「やっぱり子守唄は昔からのほうが」
違う違う。そっちもある意味デスボイスだからやめて。ヤメロ。おい気づけコラァ!
「ただいまー」
「あ、お帰りなさいパパー」
おいおいなんてタイミングだよ。玄関まで俺を連れてくな!
玄関でキスしてんなこのバカップル!
危ない危ない、狭い狭い!
「元気にしてまちたかー!」
っちょ、ひげ!
顔近づけるなパパ!
じょりじょり痛いんだよ!
「元気いっぱいだもんねー? なかなか眠れないくらいに!」
「そっかそっかー。じゃあパパと遊ぼうかー?」
違うから。眠いから。むしろとっても眠いから。ママのデスボイスが寝かせてくれないんだよ。
あ、っちょ。ナニソレ、ぐるぐる回る奴ナニソレ。ちょっ、触らせて!
「よーし。パパが遊んでる間ママはお歌を——」
「ママ。お歌よりもご飯ください」
ナイスパパ!
「無いわよ」
どうしたママ!?
「外で食べてくるって言ったじゃない。作ってないわよ」
こっわ。
「いや、ちょっと足りなくてさ。なんでもいいんだけど」
パパ? どうしたのその顔。
「なんでもって。私がどれだけ大変かわかってるの!?」
ママ!?
「わかんないよ! だって俺がどれだけ大変かもわからないだろう!」
っちょ、パパもやめて!
「パパが大変なのはわかってますぅー! もうすぐ深夜って時間に帰ってくるんですから忙しいのわかってますぅー」
「俺だってママが大変なのわかってるもん! 洗い物も掃除もこの子の面倒だって全部見てるんだから。大変に決まってるだろ!」
「なによ!」
「なんだよ!」
え、え。二人とも急にどうしたの?
にらみ合ってないでいつもみたいに遊ぼうよ。ほら、飛んでる奴ちょうだいよ!
「「イエス、フォーリンラブ」」
……は?
「やっぱりだめねー」
「そうだねー」
「お産の時も真顔で生まれてきたし」
「おぎゃあって泣かなかったからちょっと心配だったんだけどね」
「無事に成長してくれててうれしいんだけど……ちょっと声が聞きたいわぁ」
「だからってママと喧嘩して泣かせようってのはもう嫌だよ」
「私もよ、パパ」
……なんだこの両親。
子供の前でいちゃいちゃと。まったく。よかった。
「ばぁぶぅ」
おっと。思わずため息が出てしまった。ホント付き合ってられないよ。
「ねぇ、聞いた!?」
「聞いた! もう一回言って!」
っちょ、ひげ、ひげ! 痛い痛い。眠い眠い!
「ほーらパパに言ってごらーん」
「ママでもいいでちゅよー」
うるせえ。寝かせろバカップル。もう、顔近づけんな……。眠い……。
「あ、寝ちゃったね」
「そうね。ちょっとはしゃぎすぎたわね」
「今日は本当にいい日だ」
「しゃべるのはいつかなぁ」
「気が早いよ。でも待ち遠しいね」
「ね。今はよく寝て、いっぱい大きくなりましょうね」
「「おやすみ」」
子守唄 弱腰ペンギン @kuwentorow
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