用心深い子供たち

「あんまり疑いたくないけど、彼女が嘘をついてる可能性は確かにあるなあ……」


樹海の惑星グ=ラス カルカラ市より北方九十八キロ地点 最前線山中】


「―――眠ったみたい」

奥に寝かせた少女に目をやり、のっぽは呟いた。

そこは先の戦闘があった場所からやや離れた山中に張り出した岩棚の下。奥に洞窟があるが、中で火をたくと窒息しそうなのは明らかである。故に一行はここに壁をでっちあげて雨除けとし、焚火で暖を取っていたのである。

「それにしてもローザは凄いや。あんな瀕死の重傷だったのに治しちゃうなんて」

「大変だったよ。それに手ごたえがちょっとおかしかった」

「手ごたえ?」

「普通の傷や病気を治す時と感じが違ったの」

「重傷だったからかな。千切れた足を治そうとしたのって初めてじゃなかったっけ」

ローザの治癒の力は今まで幾度となく一行を助けてきたから皆がその威力を理解していたが、どこまで治せるかは未知数だった。少なくとも片目片足を失い、瀕死だった少女を安定した状態まで持っていけることは今回で証明されたわけだが。

とはいえ、あのメラニアと名乗った少女。彼女が完治したわけではない。骨折や潰れた片目は癒えたが、失われた片足は傷がふさがっただけでそのままだ。

まんまるが、眠るメラニアに視線を向ける。体を覆っているマントの下には、いまだ回復できていない欠損があるはずだった。

「この足、もう治らないのかな」

「どうだろう。足を直すのに必要なものが足りてないのかも。肉とか血とか骨とか」

「ご飯をたくさん食べて、ローザの力を使ったら治るかも?」

「急場には間に合わないなあ。そもそも食べ物にそこまで余裕がないし。足一本分のご飯って相当だぞ。

とりあえず杖を作らなきゃ」

外の様子を伺いながらちびすけが答える。壁は豪雨と共に火を隠してくれることだろう。この雨の間は誰にも見つからずに済むはずだ。移動もできないわけだが。神々はもちろん、戦闘があったばかりで気が立っているだろう国連軍との接触は慎重さが求められるはずだった。それこそちびすけがメラニアを眷属かも、と疑ったように。

いや。

「思ったんだけど、彼女の話って本当かな」

「……あんまり疑いたくはないけど、確かにそれはあるなあ…」

眷属についての一行の知識は乏しいが、それでも人間を素材とし、大半のものは人間と外見上区別がつかないということ。そして言葉を話し、知性を持っているという事実は知っていた。人間のふりをしてひとを騙す能力があるのだ。国連軍ならばすぐに判別がつく方法を知っているかもしれないが。もしメラニアが神々の眷属であるならば、黙って国連軍のいるところまで連れていかれるはずがない。

「最悪の場合、ローザ。お願いしていい?」

「分かってるよ」

ローザは、傍らに置かれた鉈へ視線を向けた。メラニアがもし眷属ならば、この中で殺せる可能性があるのは自分しかいない。ということはよく理解していたから。

「ま、彼女もすぐにどうこうはしないよ。僕たちの助けを必要としてる間は。僕たちが警戒してる素振りさえ見せなければ、しばらくは大丈夫だろう。それに彼女が本当のことを言ってる可能性だって十分にある。僕としてはそっちなのを祈るね。

さ。もう寝よう。へとへとだ」

のっぽが締めくくると、皆が横になった。




―――西暦二〇五四年十一月末。子供たちと魔女が再会した翌日の出来事。

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