身長は関係ない

「こらこら。親のことをちっちゃいとか言わない」


【イタリア共和国カンパニア州ナポリ海軍基地 官舎】


「あ、お母さん。クルツさんが映ってる」

「うん?ああ。そう言えば出るって聞いたわね。選挙」

ニュースの話題に、モニカは頷いた。

隣国で話題になっているのは先の戦争の英雄が立候補するというドイツ連邦議会選挙の模様。人類側神格が出るというのでちょっとしたお祭り騒ぎになっているようだ。中道派の政党からの出馬である。もっとも、テオドール・クルツの実績と知名度を考えれば結果は明らかだろう。

「ま、普通に勝つんじゃないの。ジークフリートなら」

「お母さんも選挙に出たら当選しそうだよね」

「柄じゃないわ。忙しいし、このなりだしね」

リスカムへと答えると皿を並べる。ティーバックで紅茶を淹れる。トースターにパンを投入。

「成人したての頃、投票に行くたびに変な顔されたんだから」

「お母さん、ちっちゃいもんね」

モニカはもう四十八歳だが、肉体は十二歳のままだ。成人女性並みのリスカムの体格と比較すればその小柄さははっきり見て取れる。地元や行きつけの店ならともかく初めての場所では奇異な目で見られることも多い。この辺は知性強化動物の方がスムーズなくらいだろう。何しろその総数は人類側神格より三桁も多い。

「初めてあなたが投票した時のことを思い出すわ」

「投票所にマスコミが来てたよね」

リスカムらリオコルノが初めて投票所に行ったとき、待ち構えていたのはマスコミだった。ニュースでその様子が流れたのである。イタリアで知性強化動物が参加した記念すべき投票と言うことで、リオコルノの頭部を思わせる柄のステッカーが配られており、リスカムたちもそれを貰って帰ったものだった。たぶん探せば島の実家のどこかにまだある。

知性強化動物に人権が与えられたのは二〇二一年のことだ。リスカムが生まれた年である。とは言え選挙権については各国でどう対応するべきか議論となった。先鞭を切ったのは日本で、それ以外の国家も後に続いた。今では選挙権を持っていない成人済みの知性強化動物はごくまれだろう。知性強化動物もひとり一票。それは、ヒトを大きく上回る知性と力を持った超生命体であっても人間と平等であるという、人類の意思表示でもある。

「さ。これでおしまい」

朝食の用意を終えたふたり。

そこへ、見計らったように起きてきたのはペレだった。

「ふみゃ?」

「おはよう。朝ごはん、できてるわよ」

「ごはん」

寝ぼけた同居人の様子に苦笑すると、母娘は食事の席についた。




―――西暦二〇五〇年。人類側神格が初めて政治家となった年。第一次門攻防戦の二年前の出来事。

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