千年がかり
「こういう方向で巨大なプロジェクト。ってのができるようになったんだなあ」
【エオリア諸島サリーナ島 ベルッチ家】
「ほう。とうとうやりやがるのか」
「なにするの?」
ベルッチ家、朝の食堂でのこと。
新聞を広げているニコラの背後から、ペレがにゅ。と顔を出した。
「うん?ああ。とうとう不死化の実験をやるらしい。普通の人間のな。二年後をめどにモニターを集めるとかなんとか」
「ふし?だいじょうぶ?」
「大丈夫か確かめるために実験するのさ。民間から希望者を対象にな。千年単位で追跡する大プロジェクトらしいぜ」
「せんねん」
「すげえよなあ」
新聞には国連主導の試験的な不死化技術実験に関する記載が詳細に載っていた。さすがに朝刊の一面である。低コストで実現できる不死化技術の長期的影響を追跡するため、知性強化動物及び高度知能機械を含む追跡・研究チームを立ち上げること。何世代にもわたる影響を調査するということ。既存の人類側神格・知性強化動物に関する不死化技術の普及によってこれらの治験の道が開けた事。利益誘導を避けるために政治家等の社会的地位のある人物は避けること。十代から二十代の中で世界中から無作為に選ばれた人間の中から、希望する者を対象とすること。等が書かれていた。
「すごい」
ペレは頷いた。人類は今まで不死化技術について慎重だったが、とうとう一歩踏み出すのだ。神格を用いた不死化は既に相当数運用実績があったが非常に高価である。安価で子々孫々にまで遺伝する不死化技術については神々の長命化技術と言う先例があるが、こちらは遺伝子の不可逆的かつ致命的な変化と不妊化と言う問題を引き起こしている。同様の事態を避けるために長期間の実験をまず行うのであろう。
この実験が開始されれば、地球上の不死者の数は一気に百倍から千倍まで膨れ上がることだろう。もちろんそれでも、人類の大多数は有限の寿命であることに変わりはないが。
うまくいけば千年後には、不死化技術が一般的な家庭にも普及していることだろう。
もちろんすぐ生活に影響が出る。と言うたぐいのものではない。千年後にはニコラをはじめ多くの人はいなくなっているはずだ。それでも千年後まで継続するプロジェクトを人類が立ち上げたと言う事実自体、大きな前進だ。と二人には感じられた。
「ペレちゃーん。ちょっとお皿運んでー」
キッチンからのリスカムの声に、ペレが走っていく。
それを見送り、ニコラはコーヒーを飲んだ。
―――西暦二〇五〇年。安価な不死化技術の治験に関するプロジェクトが始動した年、人類が不死化技術を手にして三十三年目の出来事。
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