やがて来る順番
「知性強化動物って、すごく賢いよね。じゃあ人間が馬鹿だなあって思う?」
【イタリア共和国カンパニア州 ナポリ 教会】
「思わないよ?」
ローザは即答した。
朝の教会である。ミサの参加者たちは三々五々。多くが帰っていく中で、子供たちはローザの周りでわいわいがやがやとやっている。昔からの習慣だった。
まだローザが0歳だったころから顔見知りの、今年6歳になる女の子。一緒に遊んでくれた9歳の男の子。隣の席でローザの顔に手を伸ばしていたという4歳の子供。
今は、3歳のローザの方がずっと大きい。
「どうして?」「どうしてー?」
「ローザだってあんまり賢くないよ?人間が何十人か集まって機械に手伝ってもらったら、ローザより凄いことを考えられるよ。それくらいの差しかないの」
「ふーん」「ふーん」
とてとて。と歩み寄ってきた子供を尻尾で抱き上げる。小さい。神格にとっては木の葉のようなものだ。肉体的に成熟したローザは小柄な成人女性といった体格だが、強化された肉体はたとえ120kgのボディビルダーであっても抱き上げる事を可能とする。
「知性強化動物だけじゃ、町は作れない。発電所を動かせない。貨物だって運べないし、水道を管理するにも手が足りない。朝にはお店で買った焼きたてのパンを食べたいし、掃除ロボットが壊れたら修理してもらわないといけない。お歌もみんなで歌った方が楽しいし、何億という人が協力して初めてローザたちの妹や弟たちも生まれることができるの。
人間は知性強化動物よりも凄いんだよ」
「人間がいた方が、知性強化動物も、お得?」
「そうだよ。お得だよ。仲良くできたらもっとお得だよ」
「仲良くできなきゃ、だめ?」
「駄目じゃないよ。駄目なのは喧嘩。嫌いな人だっているだろうし、考え方の合わない相手もいる。人間は大勢いるから色んな考え方があるよ。でも考えを押し付けちゃ駄目」
「嫌いなのはいいけど、押し付けるのはだめ?」
「そうだよ。だからローザは人間に自分の考えを押し付けないよ」
「むずかしい」「むずかしいー」
「そのうちわかるよ。ローザは大人になったから先にわかっただけ」
「ふーん」
尻尾で抱き上げた子供を降ろす。キャッキャしながら周りを走っている。他の子供たちもわかったのかわかっていないのか。
話に区切りがついたと見たかやってきた保護者たちに連れられ、彼らも帰っていく。
ローザも、自らの保護者へ振り返った。
「人間ってゆっくりだね」
「そうだな。大人になるには、知性強化動物の十倍かかる。けれどまあ、そのうち追いつくさ」
「ローザを追い越して、もっと歳をとって、いなくなる?」
問われたアルベルトは頷いた。
「いつかはいなくなる。けれどすぐじゃない」
「かなしい。みんなも不死になれればいいのに」
「ひとはみんないなくなる。人間だけじゃない。ローザたちだって不死と言っても、絶対に死なないわけじゃあない。いつかは自分の番がくる。その順番がとても遅いだけだ」
「うん」
「さ。もう一度、神様にお祈りしていこう」
親子は祈りを捧げ、そして教会を後にした。
―――西暦二〇四八年。門が開く四年前の出来事。
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