仲直りの機会
「どうして、にんげんとなかよくできないのかなあ?むずかしいや」
【イギリス イングランドコッツウォルズ地方 捕虜収容所集会所】
「いぬ!おうまさん!」
テレビを見ながら興奮しているのは鳥相の幼子。グ=ラスである。集会所にあるテレビは限定された番組しか映らないが、現在ではある程度のニュースとアニメーション。幼児向けを含む教育番組などはほぼ視聴できる。
今やっているのは昼のニュースだった。昼食後の休憩に寄った大人たちも視聴している。
画面では、緑に覆われた広大な土地と、そこに設置されたモニュメントが映っている。海岸沿いらしい。多くの人間たちが参列し、花束が捧げられる様子が見て取れた。
そして、上空を飛行していく馬の頭部を備えた巨像と、そして犬にも似た形状を持つやはり巨大な彫像たちの雄姿。
人類製神格である。
軍事的な性格を備えた式典であるのは明白であった。
「おかあさん、あれなにしてるの?」
「そうねえ。昔、戦争があったの。二十二年前の今日、あの場所では激しい戦いがあったのよ」
「せんそう?」
「そう。人間と、そして私たちとの戦争」
「ふーん」
ムウ=ナに疑問を投げかけた幼子は、視線をテレビに戻した。
レポーターの解説が続いている。かつてイングランドの北西部で上陸戦が行われた事。その時犠牲になった兵士たちの名が国の別なく、モニュメントの柱に刻まれている事。生存者の出席と発言の要旨。
「せんそうって、なにをやるの?」
「そうね。戦う。壊す。傷つける。そして、殺す」
「おこられるね」
幼子の言葉に、母親は一瞬言葉に詰まった。
「そうね。人間は怒った。私たちが彼らをたくさん傷つけたから」
「にんげんは、こわしたりきずつけたりしなかったの?」
「したわ。たくさん。私たちの仲間を大勢殺したし、傷付けた。物を壊した」
「おかあさんたちも、おこった?」
「ええ。もちろん怒ったわ。けれど、戦争は終わった。もう終わったの」
「ふうん」
まだ生命というものをよく理解できていない息子の姿を、ムウ=ナはしっかりと見つめた。長じた時、この子は。ふたつの種族の狭間に生まれた子供は、過去をどう受け止めるのだろうか。
「ねえ」
「なあに?私のかわいいぼうや」
「うんとね。にんげんと、なかなおり。できたかな」
「できていないの」
「したらいいのに」
「戦争をしたのは、ここにいる私たちだけじゃあない。今は閉じた門の向こう。私たちの故郷にいるたくさんの仲間たちとも一緒になって、人間と戦ったのよ。人間は怖がっているの。門がまた開いて、私たちの仲間が攻めてくるんじゃないかって。
だから、人間とは仲直りできないの」
「もんがひらいたら、せめないでってなかまにおねがいする。そしたら、にんげんとなかなおり」
「……そうね。そんなことがあったらいいわね」
母は、息子を優しく撫でた。
そうこうしている間にもニュースは違う話題に移る。
母子は、ずっと画面を見ていた。
―――西暦二〇三九年十一月、遺伝新戦争の追悼式典が行われた日。イングランド北西部で大規模な上陸戦が行われてから二十二年、門が再び開く十三年前の出来事。
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