不変のもの
「〜〜〜〜……」
【イタリア共和国カンパニア州ナポリ海軍基地 食堂】
テレビが何か言っていた。
相変わらず何を言っているのかはペレにはさっぱりだったが、それでもペレはテレビが好きだった。まず、一方通行だ。こちらは気を使わなくていい。そして言葉以外の情報もたっぷりある。流れてくる音楽も良かった。
そんなペレに注視されているモニターは、何やら円を五つ組み合わせたシンボルを映し出した。最近見る機会が多いが何なのだろうか。ニュースの時間なので恐らく大きいイベントなのだろうけど。
と、その後に何やら変わった別のマーク。幾何学的なおかげでペレにも理解できる。意図。デザインした者の苦悩。どのような環境にいるのか。伝えたい想い。その者の知性。数学的意味。
こういった記号は読み取れるのに文字は駄目なのだ。どうしてだろう?
などと考えていると、インタビューに場面が切り替わる。映った顔は、犬に似た頭部。しかし遥かに利発そうで、人間に近い顔立ちをしており、服を身に着けている。人間の作り出した神格だろう。先程の図形の作者は彼女だ。見ただけでわかる。
ふと、周囲を見ると皆もテレビを見ていた。家族たちやシカの頭部を持つ不思議な生き物たち。それに基地で働く人たちでごった返している。昼食時だから当然か。みんなテレビが気になっているようだった。
どうも何らかのイベントのシンボルを、人類の作った神格がデザインしたということか。すごい。人間はこのようなデザインのセンスを持ついきものを作り出せたのだから。
楽しくなった。うきうきしながら食事に手を付ける。ハンバーグ煮込み。トマトのミネストローネ。サラダのリゾット。などなど。美味しいが、残念ながらペレには名前がわからない。今は遠い故郷の料理と同じく。思えば長い旅をしてきた。時間的にも、空間的にも。今では宇宙に出る度にここと島の場所をしっかりと確認している。もし何かあっても、自力で帰れるように。今でも故郷のことはうっすらと覚えているが、恐らくその光景は残ってはいないだろう。先の戦争で破壊されたか、人間の開発で変化したか、自然に侵食されたか。人間が維持しようと務めない限り、風景とはほんの数十年で変化するものだとペレは知っていた。死にかけた神々の世界と違って。
生命の力は、それほどに強く激しい。
その荒々しい激流の中に身をおいていることを好ましく感じつつ、ペレは昼食を平らげた。
―――西暦二〇二八年。知性強化動物が匿名で公募に出したデザインがオリンピックの大会ロゴに選ばれてから二年、オリンピックが再開される年の出来事。
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