冒険

「知性強化動物って、哺乳類でなくてもいいんだ」


【都築家】


朝の都築家での事。

テレビのニュースを見ての刀弥の言葉がそれだった。

映し出されたのは、一言で言えば鳥だった。

全体の形状は人に似ている。全身ピンク色の体はしかし頭部が著しく異なっていた。くちばしのない鳥。いや、トカゲにも似た、しかしより横幅の大きい頭でっかちな赤ちゃんだった。

冒険エンタープライズ、だって。とうとう二番目の知性強化動物が生まれたんだね」

「世界中で研究は進んでるからな。うちが最初に実用化しただけで、どこも追いかけてきてる。これでアメリカは二番手だ。多分三番目は台湾の“虎人”かイタリアの“リオコルノ”あたりだろうな。どちらも今年中には見れるだろう」

「みんな違う動物を使ってるの?」

「ああ。まだどの動物をベースにすれば一番いいかは手探りで調べているところだからな。

この冒険エンタープライズ級は鳥類と爬虫類の特徴をミックスした生物だ。

こんな見た目だが、構造は“九尾”とそんなに変わらんよ。人間を模してるからね」

「ふうん」

「結局のところ、他の生き物の要素はおまけ程度のものでしかないのさ。神々から手に入れた技術を、私達はまだ使いこなせてるとは言えないからね」

「なるほどなあ」

「例えばさっきの赤ちゃん。目はどんなふうについていた?」

刀弥は、テレビの方を向いた。もう知性強化動物のニュースは終わり、どこぞの玉突き事故の映像が映っている。

「目?うーん。前の方を向いてたなあ」

「そう。人間的な視界を確保するためだ」

「横についてたら立体視できないから?」

「間違いじゃない。横にあってもできないことはないが、狭くなる。ふたつの目で同じものを見た事による差から、奥行きを知るわけだ。

それと、障害物を避けて見るため、という事情も大きいな」

「障害物?」

「うむ。

例えば私達の顔には鼻がある。けれど右を見るのも左を見るのにも支障はない。片方の目の視界が鼻で遮られても、反対側の目では見えている。それを脳が補正するわけだ。

この能力が役立つのは森の中なんかだな」

「葉っぱとか?」

「正解。

森には視界を遮る、小さなものがたくさんある。これがリスなら葉っぱ一枚目の前にあっただけで、向こうを見通せなくなる。リスの頭は小さいからね。

けど人間なら十分に大きな頭の左右に目がついてる。右目が葉っぱに遮られても、左目は向こうを見通せる可能性は高い。一種の透視能力だな。大きいことはそれだけで有利なんだよ。

昔のアニメでもツインアイのロボットと単眼のロボットが出てくるのがあっただろ。予備知識なしでどっちが強く思うか聞かれたら、私はツインアイの方を選ぶね。見る能力が段違いだ」

「なるほどなあ」

いつの間にかテレビは、世界のニュースを流していた。ロシアの牧畜の風景。遺伝子戦争期に流入した資本を背景に奇跡の発展を続ける南米。オーストラリアでの戦没者の慰霊祭の様子。

「先の戦争で地球上の勢力図が書き換わったし、神々の科学技術は全人類の共有するところになった。以前では考えられなかったようなことが世界中で起きてる。かつて発展途上国と言われた国も、知性強化動物の開発を始めてるところはあるんだ。戦災から逃れてきた資本や企業の力を借りてね」

先程名前の挙がった虎人などもそうだった。中国と台湾が協力して開発しているのだ。遺伝子戦争前には考えられなかっただろう。

「お前たち若者は、世界が変わる真っ只中にいる。置いて行かれないようにな」

「うん」

やがてふたりは支度を終え、出勤しあるいは登校した。




―――西暦二〇二一年。遺伝子戦争終結から三年。史上二番目の知性強化動物が誕生した月の出来事。

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