20.正統の旗を掲げて
第329話 女王ミズハ!
「ゲーロンパ! ゲーロンパ!」
盛大な歓声を受けながらゲ・ロンパは街中の人々が見守る中をさっそうと魔馬を進める。その隣には美しい大魔女ミズハが付き従っている。
「あれが王妃になられるミズハ様。なんとお美しい!」
「素晴らしい、お似合いの二人です!」
オミュズィの街の人々が口々に賞賛し、二人を祝福している。
シズル大原最大の都市であるオミュズイの大通りを真魔王国軍と呼ばれるゲ・ロンパの軍が威風堂々と行進していく。
死んだと思われていた魔王ゲ・ロンパが人々の前に姿を見せ、貴天の帝国軍に反旗を翻してからわずか半月で真魔王国軍は帝国軍を黒鉄関門の向こうまで追い払った。
人間を差別する帝国に対して真魔王国は差別を撤廃する方針を表明した。元々人間の国が割拠していたシズル大原の人々が真魔王国に期待するのは当然だった。
「何だか、こうも歓迎を受けると照れるものだな」
ゲ・ロンパは魔王らしくもないことを言う。
「堂々としておれば良い。魔王になった覚えは無いと言ったところで、民衆はお前が魔王に就任した事を事実として受け止めているのだ」
「だが、そいつは偽物だったんだぞ。俺は最初から魔王になどならない、ミズハと一緒に楽しく暮らせれば良い、と言い続けていただろ?」
「そんな事だから、それをうまく利用されたんだ。お前をどうしても魔王に就任させたい王族派の大貴族連中の思惑を貴天が利用したんだ。お前がすんなり罠にはまったのも、お前のためを思って動いた彼らの行動を貴天が自分の都合の良い方向へ誘導したせいだろう」
「でも、良いのか? 本当に国を背負う気なのか?」
「これも結局お前のためだろ」
「それはちょっと違うぞ、ミズハ」
「ん?」
「俺とお前の、二人の未来のためだろ?」
ニカッとゲ・ロンパは屈託なく笑う。
ミズハは思わず顔が赤くなった。
やがて二人を先頭に進んできた隊列は、オミュズイの街の中央にそびえるかつての六大神の神殿の前に到着した。
中央大神殿の階段をミズハとゲ・ロンパが手を携えて登っていく。その後ろに付き従うのは人とは思えぬほど美しい二人のメイドと野性味のある赤い神官服の美女である。
新たな王と王妃のために天界から舞い降りた女神が付き添っておられるのだ、これは神話の光景だ、と集まった人々は口々に語り合っている。
神殿の中にはシズル大原各地の有力者やかつての国々の王族や貴族たちが集まっていたが、ゲ・ロンパたちが中に入ると一斉に拝礼した。
兵たちは神殿前に整然と並び、その周囲の広場には数十万の大群衆がつめかけていた。
その群衆の熱気が最高潮に達した頃、正面バルコニーに姿を見せたのは美しい正装を身にまとった王妃ミズハと王家伝来の軽装鎧を身につけたゲ・ロンパの二人であった。
直後、神殿の上空に契約の魔法陣が大きく広がると同時に聖なる鐘が激しく打ち鳴らされ、一斉に喝采の声が上がった。あの魔法陣は、新たな王が選定され人々を平和と豊かさへ導く誓いを立てたという証である。
天地を揺るがすような人々の声と拍手はなかなか鳴りやまない。
神殿上空に輝く魔法陣の意味を知っている人々は笑顔で喝采を送っているが、中には新王が決まったにも関わらずゲ・ロンパが王としての正装をしていないことを
やがて、そのバルコニーの下に位置する階段に多くの貴族が整列した。その配置や身だしなみをチェックしているのはカムカムである。
張り詰めた空気の中、祝典を告げる音が鳴り響いた。
数十万の人で溢れる広場がその歴史的瞬間を目撃しようと次第に静かになっていく。
ゲ・ロンパがバルコニーからその群衆を見渡し、両手を広げた。
「拡声術式展開! 各部族間共通語術展開!」
あらゆる種族の人々の脳裏にその言葉が翻訳されて伝わって行く。
「今より、真魔王国、女王ミズハの戴冠式を執り行う! 王権授与はこの私、ゲ王朝第4代魔王ゲ・ロンパより、我が妃にして新たなるアケロイ王朝初代女王、ミズハ・メロ・アケロイへと王権は受け継がれる! これにより私はゲ・ロンパ・アケロイとなることを宣言する!」
うおおおおおおーーーー!
広場は割れんばかりの喝采の声で埋め尽くされた。
「王妃ミズハ、前へ」
人々の大きな高揚感が伝わってくるなか、ゲ・ロンパの優しい声がミズハの耳に素直に届いた。
「はい」
ミズハは銀の髪を輝かせてその前にかしづいた。
ゲ・ロンパは美しい冠を手に取ると微笑んだ。
「これより貴女は正式に我が妻になり、これより先は真魔王国女王ミズハである。民を導きこの地に安寧をもたらすのだ」
その黄金の冠はミズハの角を隠すように収まった。
「この身を民のために捧げましょう」
ミズハは両手を胸に添えて拝礼した。
王冠の重みを感じながら、ミズハはどうしてこんな事になったのか不思議な気がしていた。
帝国の道具に過ぎなかった魔王二天の私が……。思えば、頭の角がカインのケツの穴に突き刺さってから人生が一変したような気がする。そのおかげで、まさかこのような日を迎える事になろうとは。そう思うとなんだか妙におかしくなる。
「どうかしたか?」
「いいえ、貴方の妻になることがずっと夢でした。それが現実となって、とても嬉しいのです」
ミズハの目が潤む。
「僕もだよ。夢の中ではもうとっくに結婚していたのだけどね。でもこれは現実だ。これからはずっと一緒だよ」
二人の姿がバルコニーの上で重なると人々の熱狂は最高潮に達した。
ここに真魔王国とその女王ミズハが誕生したのだった。
ーーーーーーーーーー
赤い砂塵が渦巻く広大な大地を魔馬騎士の一団が駆け抜ける。
魔王オズルはその仕上がりを満足そうに眺めた。
「陛下、間者が戻りました」
「うむ、直接ここで報告を聞こう」
オズルは岩砂漠の荒野で訓練を繰り返す騎士たちを瞳に映したまま、振り返りもしない。
即位から3カ月、帝国軍の立て直しも順調に進んでいる。
オミュズイ陥落後に速やかに兵を撤退させ、兵力を温存したことが功を奏した。あそこで無理をして抵抗させていればここまですぐには建てなおしが効かなかっただろう。
死を恐れず、早急な撤退を進言した元獣天配下の将や兵器の備蓄を速やかに移動させた元鳥天配下の兵たちには恩賞を与える必要がある。
彼らの何人かは武芸や魔術に光る才能を持っている者もおり、いずれ一天衆の名を冠する組織を再編できるかもしれない。
「陛下、連れてまいりました」
カルディの背後で細身で眼光の鋭い男が拝礼している。
「うむ。時間が惜しい、簡潔に話せ」
「はっ。シズル大原に国を興した真魔王国は、セク大道南端にある我が旧砦群を修復し、そこに兵を集結させております。さらに外交面でも動きは活発であります。我が国と敵対する国や地方の小国との国交樹立を図っており、既に新王国とは軍事同盟を結んだ模様です」
「新王国か……。新王国の王女の動向はどうなっている?」
「はい、二日前に戴冠式を行い、正式にリ・ゴイ国の女王に就任した模様です」
「敵はどちらも女王国というわけか」
「両国ともまさに日が登る勢いでありますが、真魔王国の兵力は女王ミズハの強大な魔力に負うところが大きく、その正規兵の規模はせいぜい2万数千人程度であります」
「うむ。やはりそうか」
対して我が国の兵は5万人を超える規模にまで回復している。
魔王オズルが兵の補充と鍛錬を急がせたのは、近いうちに真魔王国との決戦があると予測しているためである。
元魔王のゲ・ロンパを戴く真魔王国が黙ってオズルを見逃すはずがないからだ。
「新王国も、次第に内政面に重点を切り替えており、兵数は未確定ながら数万人規模、恐らく十万には達しないとみられ、職業軍人だけを見るとその五分の一程度と思われます」
「情勢はわかった。下がって良いぞ」
「はっ」
男はすすっと下がって天幕から姿を消した。
少し遅れて執事カルディも一礼すると出て行った。
「まもなくだ。赤い血が大地に染みわたる時、時空裂の青竜は蘇る。その時こそ我らの呪われた因果を断ち切る千載一遇のチャンス、今度こそお前を救ってみせる、シュトレテネーゼ」
カルディが立ち去ると、オズルは騎士たちが馬を走らせる赤い地平線を見つめた。
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