第323話 背後の影2
「みなさん! 急いで部屋を出てくださいませ!」
不意に部屋の扉が乱暴に開けられた。
「!」
みんなの視線が入口に集まった。
ルミカーナはその一瞬で剣に手を添えていた。
「イリスさんですか……」
だが、そこに姿を見せた者の顔を見ると安心したようだ。サティナが連絡をとって部屋まで案内したのだろう。そこにいつもの黒いメイド服姿のイリスが立っていた。
「みなさん、カイン様が危機なのです。暗黒術を使います。ここは私一人にしてくださいませんか?」
イリスが部屋の中を見回し、天井付近の一点を見つめるとさっと緊張の色を強めた。
「どうしたのですか?」
ミラティリアが首を傾げた。
「説明していると手遅れになるかもしれません」
「カインが目覚めない理由を何か知っているのね、みんなここはイリスに任せて部屋を出ましょう」
セシリーナがイスから立ち上がった。
妻であるセシリーナがそう言うのであれば、とみんなは部屋を後にした。
「イリス、カインを頼みますよ」
「もちろんです、セシリーナ様」
イリスは恭しく頭を下げてみんなを見送って部屋の鍵をかけた。
「さて無礼を失礼いたしますわ、カイン様」
イリスはそう言って急いで服を脱ぐと横たわるカインの布団を剥いでその体に跨り、カインを抱きしめながら何も無い部屋の天井を睨んだ。
ーーーーーーーーーー
俺は部屋にイリスが入ってきたのを見て思わず涙が出そうになった。イリスがみんなを部屋から出して全裸になったのだが、その美しい姿に見蕩れる余裕もない。
「イリス! 助けてくれええ!」
裸の俺に身を添わせたイリスの姿が二重になった。ブレたのではない、その精神が肉体から離れて飛翔したのだ。
「カイン様……」
目の前にイリスが近づいて微笑んだ。イリスが人差し指を突き出して愛らしくくるりと回したその瞬間、ふっと俺の背中が軽くなった。俺の中に入ってこようとしていた霊が吹っ飛ばされるように離れていった感じがした。
「イリス! やばかった!」
「カイン様、だからお気をつけくださいと申していたのです。霊体同士は接触できるのですからね」
イリスは子どもを叱るような愛情に満ちた瞳で俺を見たが、俺は目の置き場に困った。完璧に丸見え!
なにせいくら霊体で少し透けているとは言えイリスは全裸! 美しすぎる! 着痩せするタイプなのだろう、脱ぐとアリスよりずっと豊満な美乳がたわわに揺れて……。腰のくびれからお尻も凄い美麗だし、なんて魅惑的で男を誘う……。
「貴方も貴方です。いくらようやく触れられるからと言って、そんなにがっついて宿主に襲いかかるとは呆れました! 今までは微弱ながらもカイン様に力を分け与え、影ながら守っていたようなので大目に見ておりましたが、このような振る舞いを行うのなら、いくら元勇者の霊と言えど浄化いたしますわ」
そう言ってキッときつい目をしてイリスが印を結んだ。
イリスが本気だと分かったのか、背後にいた女装男がさらに俺から距離を置き、無言のまま全力で謝り始めた。その額にはさっきまでなかった新しい紋が青白く光っている。
「分かればよろしいのです。今後は守護霊に徹しなさい。その残った精霊術師としての力を発揮し、全力でカイン様を守り、カイン様に力を貸すこと、いいですね? 今度邪心を持てばどうなるか、分かっていますね?」
イリスの前で、そいつはハハーーッとひれ伏した。いくら霊とは言え、元勇者って言ったか? そんな奴がイリスにはまったく頭が上がらないようだ。
「この女装したのが元勇者で精霊術師って本当か?」
「ええ、この者は元々は精霊たちを自在に使役したという伝説の勇者です。あのケバい化粧は精霊術師として呪術を高めるためのもの。この霊が憑りついているから、カイン様は精霊使いのような力や幸運向上の加護を得ているのです。元々何の才能も能力も無い、捨てられた空き瓶みたいなカイン様ですから、彼がカイン様の空の器に力を注ぐのは容易なのです」
なるほど!
どうして俺がたまりんたちと自在に意思疎通できるのか不思議に思っていたが、この背後霊が憑りついているからなんだ! なんだかすごく納得した。
「さあ、カイン様こちらへいらしてください」
そう言って全裸の幽体イリスが俺の手を引いた。
「え?」
「この霊が悪さしていたので、肉体とのつながりが薄くなっています。肉体に戻るための儀式が必要になっているのですわ」
「悪さですか!」
「ええ、カインの霊体そのものに憑りついて融合し、今度はカインを自分の意のままに操ろうと企んでいたようですね。この霊とカインの体は相性が良すぎるのです。いつか体を乗っ取ろうとして死なない程度に守っていたのでしょう。でももう乗っ取りは二度とできませんからご安心を」
そう言ってイリスはイタズラ娘のようにニヤっと微笑んで自分の額をつんつんと指差した。
「ああ、そうか、あの霊の額に浮かんだ新しい紋はイリスが暗黒術で刻み込んだものか。あの紋の効果で、もはや俺に悪さはできないというわけか」
「そうですわ。これでもう安心でしょう? さあ二人だけの秘密の儀式を始めますよ」
「うわっ!」
全裸のイリスが急に俺を抱きしめた。
二人とも幽体なのだが、なんという抱かれ心地! イリスの温もりと柔らかな肢体がたまらない。しかも、こんな状況でイリスは俺の背に手を回しながら、その珊瑚色の唇を俺の唇に重ねてきた。
蕩けるような甘いキスだ。
「カイン様、私はずっとカイン様を愛しておりました。婚約者の一人として妹たちに負ける気はありませんわカイン様!」
ガバッ! とイリスがさらに大胆に足を絡めてきた。
これが肉体に戻るために必要な儀式なんだろうか?
うおおおお! それはヤバいぞ!
イリアの肌が蕩けるようだ。
狂戦士化がおさまったばかりの股間が再び凶暴に荒れ狂った。
「素敵です。とても力強いですわね」
半透明のイリスは頬を染めた。
「イリス……」
「さあ、カイン様、肉欲レベルが一定値に達しましたわ。これでお互いの準備ができました。現実に戻りましょう。あまり長い間肉体から離れていると元に戻れなくなる者もいるのです。やり方をこれからお教えしますわ」
そう言ってイリスは俺の手を引いた。やはりこの一連のうれしい絡み合いは俺が体に戻るために必要なことだったらしい。
二人がお互いの体を欲するように仕向けることで精神が肉体に戻る力を増幅させたというわけだ。
「これでいいのかな?」
俺はイリスに言われたとおり、寝ている自分の体の上に並行になるように寝ころんだ。
「ええ、その体勢を維持してください」
天井を見上げる恰好になるが、現実では眠っているように目を閉じた全裸のイリスが大胆な格好で俺のへその上に跨っているのだ。
「イ、 イリス! この状況はちょっと刺激が強すぎるんじゃないか?」
二人とも意識があるのは精神体の方なのだが、現実世界では既に俺の狂戦士が暴れまくりだ。
「大丈夫です。お互いまだ霊体ですし。何も問題ありません。今から肉体へ押し戻しますから、少し我慢してくださいね」
そう言ってイリスが美乳を揺らしながら俺の腹の上で身体を動かし始めた。両手でぐいぐいと押しながら、俺の胸を撫でるように押し込んでいく。
おお、霊体の俺が体の中に沈んでいく。
その上に覆いかぶさるようにイリスが胸を押しつけ激しく腰を動かし、最後の一押しを行っている。その汗ばんだ表情が凄い色気を放っていることに気づいているのかいないのか。
イリスは俺の上半身を手で押しながら下半身はお尻を使ってむにゅむにゅと押しこんだ。そして今度は後ろを向いて最後まで肉体にもどるのを抵抗している凶暴な野獣をイリスは優しく両手で握って深く深く体に沈み込ませた。
「これで大丈夫、成功ですわ」
ふぅと息を吐いてイリスが微笑んだ。
体と精神がようやく一体になった不思議な感覚の中、俺はようやく目を開けた。
「気分はどうですか? カイン様」
俺の体にまたがった現実のイリスが俺の狂戦士を握りしめたままの恰好で振り返った。
「う……」
俺は鼻を押さえた。
「カイン様、お目覚めですか?」
うっとりとした表情でイリスが微笑んでいる。見返り美人だが、ちょっと待て! この体勢、ヤバいどころじゃない!
イリスはお尻を大胆にこっちに向けたまま俺の胸にまたがっているのだ。
俺の目と鼻の先に広がっているのは!
ぐはっあっ! 鼻血ものだ!
一瞬めまいがして、ちょっとの間、気を失っていたのか、それとも何か術をかけられたのか。気がついたらイリスは向き直って俺の胸に顔を埋めていた。
「肉体と魂の定着を行っています。このまましばらくこの状態でいなければなりません。動かないで。じっと我慢してくださいね」
そう言われても、二人はベッドの上で全裸で抱き合っている状態だ。その素肌が触れ合う感覚はあまりにも甘い!
しかも俺の狂戦士は腹の上に跨るイリスの柔らかな手に包まれて、その存在を主張している。
「今だけはカイン様を独り占めですわね。アリスだけに良い思いなんてさせませんから」
そう言って超絶美少女のイリスが目を閉じ、その唇を突き出してきた。甘いキスの感覚、そしてそのしなやかな素肌が俺の素肌を優しく撫でる。俺が動けないのをいいことにイリスがちょっと悪い顔で微笑んだ。
「ぐああっ! これを我慢しろって、もい無理だ!」
俺は「あっ」と驚いた顔をして逃げようとしたイリスの細い腰を強く抱きしめた。
ーーーーーーーーーー
「ああっ! やっぱりカインが目覚めてる!」
急に扉が開かれ、リサが叫んだ。
それを合図にみんなが部屋に入ってきてベッドの周りに集まってきた。
「良かったわ! 心配したのよ!」
セシリーナがベッドに飛び込むように抱きついてきた。
その様子を後ろから入ってきたサティナが羨ましそうに見つめている。
「イリスが俺を助けてくれたんだ。ありがとうイリス」
「どういたしまして」
黒いメイド服のイリスは少し離れた所で火照った笑顔を見せながら、少し物欲しそうに赤い唇を指でなぞった。
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