第254話 リサの武器
「ふへーー」
疲れた様子でリサが食堂のテーブルに伏せた。
「それでどうだったの? 試験はうまくいった?」
オリナがよしよしとリサの背中を撫でる。
「うーん。どうかなー。色々な素材の布を渡されて、課題に沿って縫い合わせるだけだから簡単だったけど、その量が半端じゃなく多かったんだよーー」
リサのぐったりした様子からすると、一人で課題に挑むには大変な量だったのだろう。
「遠くから見ていたが、他の出場者は召使いに手伝わせていたな。あれはルール違反じゃないのか?」
「金も権力も実力の内という考え方だな」
ミズハは参加の手引きを読みながら答えた。
「俺たちも手伝えば良かったか? でも俺が出ても下手だし、邪魔になるだけだっただろうしなぁ。せめてセシリーナが付き添いだったら良かったか?」
「リサが一人でやるって決めたんですよ」
「そうです。それに一人で仕上げた方が均一に仕上がりますよ。リサは頑張りました。きっと頑張る姿も採点に加わっているはずですよ。はい、どうぞ、お疲れさまです」
リィルが冷たい飲み物を持ってきた。
「ありがとうーー。リィル」
リサはさっそく喉を潤した。
「明日はいよいよ模擬戦なのです。今日はたくさん食べて力をつけるのです」
リィルはそう言って、何やら次々と注文している。
「それで、リサは武器に何を使うつもりなの? 短剣かな? それとも杖かな?」
オリナがたずねた。
俺たちはリサが武器を振りまわす姿を想像するが、いまいちイメージが湧かない。
「うーん、身体が元に戻って色々と思い出してきたんだけど、何か武芸も習ってきた気がするの」
「えっ、本当ですか?」
「リサが武芸を習っていただと?」
「どんな武器だったか思い出せる?」
「うーん、今までの旅では見た事がない武器だったような、見れば思い出しそうなんだけど……」
「結局、リサがどんな武器を使うのかわからないのでな。実はこの街の武器屋の親父と交渉して、少し武器の見本を借りてきたのだ。向こうを見てみろ、どうだ?」
ミズハが言った。
いつの前か食堂の隅っこがちょっとした武器の見本市のようになっている。壁際にずらりと様々な武器が立てかけてある。まるで武器の移動販売所だ。
「おお、凄いな」
「へえ」
武器は本物もあるが、見本、つまり木製の模擬刀なんかも混じっている。
「ふーん、剣は長剣から短剣、曲剣まであるわ。さすがに大剣はないか」
「もちろん、運んでもらったのは、リサの体格に合うようなものだけだ」
「ショートボウからボウガンまであります」
「こっちは鎖鎌だ。魔術用の杖も種類があるな」
流石はミズハの見立てだ。各種武器のメジャーどころが揃っている。
「どうだい? 気に入ったのがあるか?」
俺は隣で武器を眺めているリサにたずねた。
「うーん。どうかなあ。剣や弓の基本は学んだけど、私が本格的に学んだのはもっとこう、長くて、先に刃がついていて」
「長い武器、まさか槍か?」
「槍じゃないけど、棒がついているのが良いな。あっ、これ面白い形だ」
そう言いつつ、リサは面白そうに模擬刀の曲剣を手にして身構えた。
「似たようなものが、こっちにもありましたよ」
リィルも別の模擬刀の曲剣を手に取った。
リサの構えが意外に決まっている気がするのは気のせいか?
「いくよ! リィル!」
「来るのです!」
ポコ! ポコ! と軽い音を響かせて、二人はダミーの曲剣で遊ぶ。もちろん刃はついていないので危険はない。
「へぇーー意外と上手ね。カインより筋が良いかもね」
実は俺もそう思ったが、オリナ、正直すぎるぞ。
「なかなかやりますね。シーフに曲剣で挑むとは。素人にしては上出来です」
リィルも驚いたような顔をしてリサを褒める。
意外にもリサは俺以上に剣士としての才能があるらしい。
「それで、結局、どれが一番しっくりきそうだ?」
ミズハが尋ねた。
「うーん。うーん」
リサは首をかしげて周りを見渡すと、その目が止まった。
「あ、あれがいい」
リサの指差す先にあったのは…………。それでいいのか? 俺たちは固まった。
「あれって……」
武器見本の片隅に、バケツと一緒に、棒の先に引きちぎられた布がついているT字型の道具が壁に立てかけられている。
もちろんミズハが置いた物ではない。店の誰かが適当に置いた物だ。
かなり年季の入っている木の柄は確かに手になじむかもしれないが。
「リサ……あれは掃除用具だぞ。ブラシとかモップとかの仲間だ。武器じゃない」
俺の笑いが引きつる。
あれで戦う?
クラスは “お掃除戦士” とでも言うのだろうか?
「うん、決めた。あれにする。名前が分からないからモップでいいや。あのモップが良い」
一同ため息である。もう勝負の行方が見えた気がする。
「まあ、でも本人が決めることだからな」
と言いつつがっかりしているのは、折角見本まで借りてきたのに部屋の隅に立てかけられている汚いモップに負けたミズハである。大丈夫だ、ミズハのその気持ちはリサに伝わっているぞ。
俺は慰める気持でミズハを温かい目で見るが、リィルが「危ないですよ。卑猥な目です」とか言ってミズハを逃がす。
「まあ、模擬戦で最下位でも、試験と最終日のコンテストの結果次第では逆転入賞という可能性もゼロではないわ、気を落さないで頑張りましょうね」
オリナが、気を遣って元気に言った。
「そうですよ! まだ負けた訳ではありません。リサの活躍に期待して今日は食べましょう! 前祝いですよ!」
リィルが酒壺を手に叫んだ。
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