第251話 星姫様コンテスト1

 俺たちは祭りで賑わう夜の街に繰り出していた。美味しそうな匂いが道の左右から流れてくる。

 うん、ここにルップルップがいなくて良かった。ルップルップがいたらそれはもう大変な事態になっていたかもしれない。


 「ねえ、カイン! あの飴が食べたいな!」

 俺と腕組みしてご機嫌のリサが指差す。

 もうすっかり恋人気分なのは俺としてはうれしいが、世間の目と言うものがある。あんまり胸を押し付けられると……


 「私も食べようかな? もちろんカインのおごりでね」

 反対を歩くオリナが珍しく興味を示している。まさか可愛くなったリサにライバル心を燃やしているわけではないだろうけど。

 


 俺は屋台の親父に声をかけ、つくりたての飴を二つ買った。


 「この飴は、子どもの頃に叔母と一緒に食べた思い出があるのよ。うーん懐かしい味ね」

 オリナが頬を押さえて微笑む。


 「そうか、よかった。リサはどうだ?」


 「うん、とっても美味しい。カインとこうやって歩きながら食べるから余計に美味しい」

 ニコニコと俺の腕を抱いて天使のように笑う。これでまだ成人前なのだから恐ろしい。どこまで美人さんになるんだリサは。


 「おーーい、はぐれるなよ」

 「迷子になりますよ」

 前を歩く二人が振り返る。


 二人ともさっき店で買ったばかりの服に着替えている。

 いつもと違う服装で祭りを楽しんでいるミズハとリィルが新鮮だ。


 ミズハは夜店で買った赤シュワ酒という泡の出る飲み物と焼き鳥串を手にしているし、リィルは甘氷とかいうのを食べている。ミズハが人前でちょっと酔っているところを初めて見た。



 「ところでカイン。星姫様コンテストの説明を聞いてどう思った? ほら、今回の課題とコンテストの内容を聞かされたわよね。それでどうするつもりなの?」

 オリナは飴の棒を口から出したまま話をする。


 今回の課題は、明日行われる基本的な裁縫知識のテストと実技、それと最終日までに新たなデザインのアクセサリー1点の提出か……。

 それよりも頭が痛いのが2日日の模擬戦だ。なんだよ模擬戦って? いくら「強く正しく美しく」っていっても、本当に戦わなくてもいいんじゃないか。

 そして一番の大勝負になるのが3日、最終日のミスコンテストだ。美しさで会場の人々をより多く魅了した者が勝つのだ。


 「一日目は、いつもどおり裁縫の知識と実技ですか。教えることはできるけど、今日明日じゃあ限界があるわね」

 セシリーナが考え込んだ。


 そう言えば、セシリーナは以前のコンテスト優勝者だ。思えばそれだから裁縫も上手だったのだろう。果たしてリサにできるだろうか?


 俺は不安になってリサを見た。


 「大丈夫だよ!!」

 リサは親指を立てた。


 「これでも呪いをかけられる前は、何年間も家庭教師に裁縫とか教えられていたんだよ。王女の教養は凄いんだから。私は裁縫が得意だよ!」


 「そうなのか、じゃあ裁縫のテストはリサの実力に賭けるとして、新たなデザインのアクセサリーってのはどうする?」


 「うーん、そうねえ。他の出場者はある程度課題を予想して何年もかけて準備してきているでしょうから、アイデアは良くても最後の完成度で差がでるかもしれないわね」

 「こればかりは、細部まで完成度を上げる時間は無いよな」


 「アクセサリーですか、あの地下の古代都市の神殿のモチーフなんか利用できるんじゃないですか? ミズハが熱心にメモっていたから、スケッチもあるのですよね」

 リィルが振り返った。


 「そうだな。リィルの言うとおり、今は失われた古代装飾のスケッチは結構あるぞ」

 ミズハがうなずいた。


 「それは素敵かもしれないわ。リメイクね」

 「うーん、じゃあ古代の装飾デザインを元にしてネックレスとか作ってみようかな?」

 リサが考えている。


 「その課題用の材料は、ここにあるお金を使って街の店で買い揃えろって、金を渡されたよ。指定された予算内で作るのも審査になるらしい。金をかければ良いってわけじゃないってことだ」

 俺は金が入っているポケットを叩く。


 「じゃあ、ここの出店やお店で自由に探していいのね」

 リサの目がキランと光った。


 「私と一緒に基本素材を見てみましょうか? 実はこの先に良い店があるのよ」

 オリナが言うと、リサは大きくうなずいた。


 「じゃあ、私とリサは素材を買いに行ってくるわ」

 「じゃあ、これがお金だよ」

 俺はオリナに金の入った革袋を手渡した。


 「行ってくるねぇーーーー!」

 二人は手を振って通りの向こうに駆けていく。


 残った三人は道端に置かれたイスに腰を下ろした。


 「それにしても、何でミスコンに模擬戦まであるんだ? 第一、模擬戦って何だよ」

 俺は参加者のしおりを読んだ。模擬選は闘技場において参加者全員で行う実戦形式のバトルロワイヤルである。


 胸から下げた護符代わりの星形の陶器が割れるか、戦闘不能になれば脱落となる。

 以前、セシリーナはこの模擬戦にミニスカートで参加して暴れ回ったため男共の目をくぎ付けにしたらしい。


 「星姫は、美しさと強さを兼ね備えた神の化身だとされているからだろうな。元々は国王がより強い正妃を選ぶために行われていたというぞ。ぷふぁーー……」

 ミズハは美味しそうに少し赤い顔をして酒をあおる。


 「模擬戦も伝統行事ということなのでしょうか? 我が故郷のカサット村でも聖なる山に対する色々な伝統行事がありますよ」

 リィルはカリカリと最後の氷を口の中で噛み砕いた。


 「でも、リサは今までの旅でも一回も戦闘に参加したことなんかないぞ。大丈夫じゃないのでは?」


 「うーむ。そう言えばそうだな。リサが魔法を使うところも見たことがない」

 「そうですね。剣や弓矢を使ったこともないですよ」

 「だろ? 不安だろ?」

 3人は黙りこむ。


 「しかしだ、リサはあの魔王様の姪にあたる方だ。例え人族とのハーフだったとしても、強大な魔力が受け継がれていてもおかしくはない」

 「でも、リサから魔法の力を感じたことはありませんよ」

 「そうだよなあ」

 3人は顔を見合わせた。やはり不安しかない。


 「うーん。でも、リサは模擬戦があると聞いても顔色一つ変えなかった。何かあるのかもしれない。後で聞いてみよう」

 「何か小細工します?」

 リィルが悪い顔でニヤリと笑った。

 「よしておけ、それはリサのためにならん」

 ミズハがリィルをにらんだ。


 その時、遠くの空に花火が上がった。

 祭りの開催を祝う連日の花火が今夜も大空に花開く。


 「うわ、花火ですよ。花火です!」

 見上げたリィルの目が輝いた。

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