第238話 サンドラットの里の結婚式(クーガ)
サンドラットの里は人々の笑顔で溢れていた。
里長の館の前にいまだに緊張した面持ちで立つ花婿の両脇に美しい花嫁衣装の二人がいる。
結婚式は華やかに行われ、最後にお祝いに駆けつけてくれた客を見送っているのである。
一人二人と客が退出するなか、広場には若い娘たちが集まってきている。
まもなく行われる花嫁が投げるブーケを狙っているのだ。
美しく着飾ったニーナとメーニャはクーガを間に挟んで互いに顔を覗いて微笑む。
二人ともとても綺麗だ。
「どうしてこうなったんだろうな?」
「お手紙を頂戴して、すぐにムラウエさんと連絡をとったの。そうしたら里へ来いって、メーニャさんとの合同結婚式を挙げてやるぞって言われたの」
ニーナが少し頬を染めて見つめる。
「知っていたのか? メーニャ」
「ふふふふ……僕は用意周到なんだにゃ」
メーニャは猫の真似をした。
「やめろ、花嫁衣装でそれをされると可愛いすぎる」
クーガは赤くなった。
3人の前に次々と祝いを述べる客が訪れる。
「今夜から大変だな。ほらこれをやろう。ガンバレ」
そう言ってマロマロが何かをクーガの手に握らせる。
「一体何を……って、これは乾燥ゲジ貝じゃねえか! どんだけ強烈な奴を。これは丁重にお返しする」
クーガはそれをマロマロに突き返した。
「いいのか?」
「無論だ。そんなもの俺には不要だ」
「おお、お熱いことで。じゃあ頑張れよな」
危ないところだった。あんなものを飲んだらどうなるか知れたものじゃない。そう言ってクーガは額の汗を拭った。
メーニャが密かにマロマロから受け取った物をさっと後ろに隠したのにクーガは気づかない。
ニーナも笑顔である。準備万端なのだ。北の街で有名な妖精の薬屋から購入したギンギンゲジデゴウとかいう栄養ドリンクもちゃんと持参している。
二人が相手でも朝までギンギンとか言ってましたけど、何がギンなのかしら? ニーナは微笑んでいるが、その売り文句がいまいち分かっていない。
「ニーナおめでとう。とっても綺麗よ」
薬屋でのやり取りを思い出していたニーナの前に、小柄な女性が顔を出した。
「セロッシ、わざわざ来てくれたのね。ありがとう」
ニーナは感激して古くからの友人の手を握る。辺境の地に住むインムト族の娘で、この辺りでは滅多に見かけない種族だ。そのインムト族伝統の衣装がよく似合っている。
「この服、今月は2回も結婚式があるから新調したのよ」
ニーナが自分の衣装を見ているのに気づいてセロッシが微笑んだ。
「素敵な民族衣装だわ」
「村に新たな住人も増えたのよ。ニーナもまた村へ遊びに来てちょうだいね」
「わかったわ。落ち着いたらみんなで泊まりに行くわ」
「待ってるわよ」
インムト族のセロッシは手を振った。
やがて会場から客がひけて、広場の方に多くの若い娘が集まってきた。
「さあ、二人ともブーケを投げてください!」
進行役が告げた。
「投げるよ!」
メーニャが元気に叫ぶ。
「投げますわ!」
ニーナが艶やかに笑う。
砂漠の青空に2つの花束が宙を舞う。
わあっと人々が歓声を上げた。
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