第235話 蛇人国激震、隠し子騒動
そして……
「蛇人国に激震が走る! 国王隠し子騒動! 王妃の氷の笑顔を前に青ざめる王! そんな見出しが似会う事件が巻き起ったのである」
「アリス、誰に向かって言っているの?」
「いえ、お姉様、別に誰にも言っていませんわ。独り言です」
アリスは微笑む。
王宮の壇上に顔をひきつらせたクッダ王がいる。その隣で怖いオーラを放っている美女が王妃クーリアである。もちろん3姉妹の実の両親である。
その二人の前に座るのは、アリスに良く似た愛らしい美少女と鼠顔の野族である。野族は神妙な顔で可哀そうなほどガチガチに固まっているが、娘の方はまるで自分の家にいるように
「あなた、今回は娘たちにずいぶんすんなり結婚の許可を出したと思いましたけど、それはまさか、これが理由だったのでしょうか?」
クーリア王妃が笑顔をひきつらせた。
「まさか、私は娘たちの気持を優先させただけだ。それに、娘たちにはこんな小国を継がせるよりは外の世界で自由に生きて欲しいとお前が言うからだろう。実は跡継ぎにはこの娘がいるから大丈夫だとか、そんな計画は立てていないぞ。第一、身に覚えが無い、こんな娘は本当に知らんのだ」
「本当に覚えがないのかしら? あなたが知らなかっただけで、実はどこかで育てられてきた隠し子なのかもしれないわ。まるでアリスの妹よ。こんなにアリスに似た他人などありえますか?」
クーリア王妃がじろりと王を睨む。
そこでドギマギするところが怪しさ満点だ。
「いや、まさか、いやいや……」
いかにも身に覚えがありそうだ。
「ムゲラ、ムゲラ…………」
ドリスの前では頭からすっぽりと木の葉と小枝を編んで作ったローブを纏った老婆が、呪文を唱えながら、さっきから怪しげに両手を動かしている。
「どうです? バーサ、この娘の事がわかりましたか? 王と縁もゆかりも無い他人だと証明できたのですか?」
クーリア王妃は老婆に尋ねた。
老婆の手がぴたりと止まった。
クッダ王はイスから身を乗り出す。
ゴクリ……。
広間に集まった家臣たちもどうなる事かと成り行きを見守っている。
「この者……暗き闇より生ずる一瞬の光じゃ……この者の血はまさしく王家の一族、暗黒術の使い手としての素質を有する。アリス様に近しき者。婆の鑑定術では、このドリスという娘は間違いなくお二人の子であります」
「「は?」」
王と王妃は同時に声を上げた。
「馬鹿も休み休み申せ。私たち夫婦には3人しか子どもはいないぞ」
「そうです。私は4人も子を産んだ覚えはありませんよ」
「ですが、どこからどう占っても、この娘はアリス様そのものとしか申せませぬ。少しだけよく分からない雑味が混じっておりますが」
バーサ婆は王を見上げた。
「ドリス、どうやらあの二人がお主の親らしいぞ」
カチコチになっていたボザルトが耳打ちする。
「なんだか、妙な話になっているわね。私には親などいないと思うけどな」
ドリスがつぶやいた。
「うーむ、よくわからん。だが、もしかして王妃よ。お前がどこかでぽろっと産んできたのではないか?」
王は首をかしげた。
「そんなに簡単にポロポロと子を産めるわけないでしょう!」
クーリア王妃が王を睨んだ。
「うーむ。やはり謎だ」
王は頭を抱えてドリスを見た。
少し幼いアリスが座っているように見える。
「王よ、イリス様たちが結婚を決められた今、国を継ぐ者は王家の一族から選ぶとの事でしたが、これは神が使わした御子なのではないでしょうか?」
蛇人族の神聖騎士団長カブンが前に進み出た。
みんなの視線がカブンに集まった。カブンは蛇人国一番の騎士でしかもイケメンである。イリスのお相手と目されていたが今回あっさりと振られてしまったらしい。
「このお方が手にしておられる杖をご覧ください。あの杖こそ我が国の失われた宝、伝説の双蛇の杖にそっくりではありませぬか。ただ者の持ち物とは思えません」
「確かにそうだな」
アリス様にそっくりな容姿の娘が、長い間所在不明だった宝具の杖を持ってこのタイミングで現れるなど普通ではない。
「神の御子なのか?」
「あの衣装も神官服のようだし、そうなのかも知れぬ」
家臣たちがざわめきだす。
「しかも、バーサ婆の話ではこのお方にも暗黒術の素質があるとのこと。これこそ我が王族の証です。この姫御子こそ、次期王に相応しい方なのではないかと考えます」
「確かにな。……だがカブンよ、実はお前がそれほど肩入れするのは、この子がお前の好みのタイプだからではないのか?」
クッダ王がカブンをじろっと見た。
カブンは思わず目を反らしたが、王に対してさすがにその態度はまずいと思ったのか、ゴホンと咳払いして仕切り直した。
「はい。隠しだてせずに申せばそのとおりでございます。この娘を我が妻に迎えたいとすら思っております」
カブンはうなずいて、熱い視線をドリスに送った。
「隠し事ができない性格だけは見事だが、相変わらず惚れっぽいというか、何と言うか……」
王はカブンを見てため息をつく。
「ドリス、あいつがお前の夫になりたいらしいぞ」
ボザルトが耳打ちした。
「ちっともタイプじゃないわ」
ドリスはその厚かましい視線に、ベーーと舌を出した。
ツンデレなのだな、カブンはますます気に入ったようだ。
カブンの荒い鼻息が聞こえてくる。
「よし、この娘が我らの子かどうかはさておき、バーサ婆が王家の一族に間違いないという娘だ。次期王に相応しいかどうか、神に聞いてみようではないか。神殿に参るぞ! 皆の者準備を致せ!」
そう言って颯爽と王が立ちあがった。
「あーー、ごまかしたわね?」
王妃が隣でじろりと王を睨んだ。
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