15.交差する思いと定め
第229話 <<港町1 ー東の大陸 サティナ姫ー>>
サティナ姫たちは港町に到着した。
桟橋には中央大陸に渡るという大型船が見える。
「あれですか? サティナ姫」
ミラティリアがキラキラと目を輝かせた。
ミラティリアはともかく、ルミカーナは海を見ること自体初めてなのだ。
「出航は2週間後よ、まずは宿を見つけて準備しましょう。ここからは身分は隠して普通の旅人ということでお願いね」
正体を隠すための仮面をつけ、サティアが振り返った。
「はい」
ミラティリアにとっては懐かしい仮面だ。
「はっ、わかりました」
ルミカーナは相変わらず軍人風の敬礼をやめられないようだ。
三人が港町のにぎやかな通りに出ると、そこには何か不穏な空気が流れていた。
通りの向こう側とこちら側に群衆が集まって、互いに睨みあっている。穏やかな集まりでないことは、群衆が手に持っている槍や剣などの武器を見ればわかる。
「どうしたのでしょう?」
ルミカーナが二人の前に立った。
その脇を棒を手にした二人の子どもが走っていく。
「君たち、ちょっと待って、どうしてみんな武器を持って睨みあっているの?」
ミラティリアがその子どもの腕を掴んだ。
「うわっ、離せよ! 邪魔をしないでくれ、今日こそ西
「西埠頭って?」
「何だよ、何も知らないのかよ、奴ら南の岬山の盗賊団とつるんで、こっちの商売の邪魔をして利益を得ているんだ。もう我慢の限界なんだ」
「でも、向こうも武器を手にしてこっちを睨んでいるわよ?」
「やつら難癖をつけているんだ。俺たちが北鉱山の鍛冶村との道路を閉鎖したからって。でもそれは奴らに対抗する手段なんだぜ」
「やっちまえ!」
うおおおーーーーと群衆が動いた。
相手も動いた。
剣戟の音と怒号が沸き上がった。
「姫、ここにいては巻き込まれます。こちらへ」
ルミカーナがサティナの手を引いて路地裏に入った。
「まったくここは過激な街ですね、海の男は気性が荒いことは知っていましたけど」
ミラティリアが呆れたように言った。
ーーーーーーーーーー
「まったく困りましたね」
宿の一室でミラティリアが窓を閉めた。
「ええ、まさか騒ぎの影響で物資が滞って、出航が遅れるかもしれないなんてね」
サティナは郵送されてきた手紙をテーブルに置いた。
「どうしますか?」
ベッドに腰掛けていたルミカーナがサティナの表情を伺う。
「もちろん、騒ぎの原因を調べます。早く出航できるようにね。ルミカーナは直ちに盗賊団の情報収集に出てください。私とミラティリアは街中の調査です。それではあなたたちにもこれをやるわね」
サティナは二人に予備の仮面を手渡した。
「ふふふふ……やる気なのですね」
「腕が鳴りますわ」
怪しい仮面をかぶった三人が笑う。
ーーーーーーーーーー
「さて、港の様子を探りに行きましょう、酒場に行くわよ」
「酒場ですか! 私は初めてです」
ミラティリアはお嬢様なので酒場への出入りなどしたこともないのだろう。
サティナが両開きの扉を開け放つと、酒場の荒くれ者どもの目が集まった。
入ってきた妙な仮面をつけた二人組に興味津々のようだ。顔はわからないがスタイルは二人とも抜群である。その雰囲気から物凄い美人であろうという事がわかる。
男共の欲望に染まった舐め回すような汚れた目がカウンターに座るまで二人を追ってきた。
「何にするかね?」
カウンターを拭きながらマスターが細い目を開けた。
いかにも長年海風と共に生きてきたという肌合いの男である。腕に施した錨のタトゥが以前の仕事を思い起こさせる。
「北蜜酒を二つ」
「!」
その時だ、サティナが立てた指をさっと横から掴んだ奴がいる。酒臭い息がぷふぁと漂う。
「姉ちゃん、どこから来たんだ、見かけない顔だな?」
その男はサティナの手を汚い手で撫でた。
「貴様、その手を離しなさい!」
ミラティリアが剣に手を添える。男がにやりと笑みを浮かべた。先に剣を抜かせるのが目的なのだろう。
サティナはミラティリアに目で合図を送った。
うぎゃあーーーー!
男が悲鳴を上げ、飛びあがった。
サティナが尖った靴のかかとでその男の足を思い切り踏んだのである。
「この女、よくもやりやがったな!」
床に転がった男の仲間だろう、こいつらも泥酔している。
赤い顔をした髭面の男が剣を抜くと、それを合図に一斉に剣を構えて二人を取り囲んだ。
「いけねえ。お嬢さんがた、逃げろ」
マスターがカウンターの影から声を上げた。
だが、既に遅い。
男達が襲い掛かってきた。
「卑怯者め! 女二人に集団で!」
ミラティリアがそう言いながら、一人に足を引っかけ、続いて二人目の男の剣をかわしてその手首を掴むと男の勢いを利用して投げ飛ばした。
「こいつ!」
サティナに飛びかかったのは三人だ。
髭面の男が剣を振るうのと同時にその手を掴み、男の剣で、二人の男の剣を払った。
その身のこなしに驚く男達のうなじに手刀を叩きこみ、サティナはあっという間に全員を気絶させてしまった。
一瞬で、男達が床に伸びている。
美女の二人は息も切らしていない。その様子におっかなびっくりカウンターの後ろから見ていたマスターが目を丸くしていた。
「サティナ様、これをご覧ください」
ミラティリアが倒れている男の後頭部の髪をかき分けた。
「それは? 何か、虫かしら?」
男の頭にはフナムシのような気持ち悪い生物が張り付いている。調べてみると、どの男の頭にも寄生している。
「マスター、こんな寄生虫が流行っているの?」
「い、いや、言われて初めて気づいた。そいつら、寄生されているのか?」
そう言いながら不安になったのだろう、自分の後頭部を撫で回し、少しほっとしたようだ。
「火を近づけると逃げるようですわ」
ミラティリアは簡易な魔法で火を手のひらに出現させ、虫に近づけると虫が頭から離れて逃げた。それを短剣で仕留める。仕留めた瞬間黒っぽい煙が立ち上った。
「これは闇術か……?」
二人は見つめあってうなずくと、すぐに倒れている男達から寄生虫を駆除してまわった。
「そういえば、こいつらが凶暴になったり、町の人々が言い争いをするようになったのはごく最近です。もしかしてこの虫に寄生されて短気になったのでしょうか?」
マスターが二人の手際の良さに感心しながら覗き込んだ。
「この虫は自然発生なのでしょうか? サティナ様、どう思われます?」
「闇術をまとった虫よ、そんなわけないでしょ?」
「マスター、こんな寄生虫は昔からこの辺りにいたの? 風土病とか?」
「いいえ、初めて見ましたよ、そんな虫」
マスターはぞっとしたように死んだ寄生虫を見た。
「やはりね。何かあるわね」
「そうですね」
二人はうなずいた。
通りに出たサティナとミラティリアは左右を伺った。酒場の周囲にはごろつきのような奴はいくらでもいる。そのうちの一人の背後に近づき、不意打ちでその後頭部から寄生虫をはがした。
落下した大きなフナムシのような奴が逃げだした。
「追いかけましょう」
二人は逃げる寄生虫を追いかける。
酒場のある通りの裏の埠頭へとそいつは逃げていく。
そこには大風で座礁したのか、壊れて半分沈んでいる大型船が係留されている。その船から伸びるロープを伝って虫が船に入っていった。
「どうやらこの船が原因みたいね」
「そうですね、どうします? ルミカーナを待ちます?」
「置いてけぼりにすると、二人だけでこんなに面白い事をって怒られそうだしね」
サティナはくすっと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます