第216話 神殿最上階、邂逅と別れ
穴の奥から、ぎゃーぎゃーと騒々しい音が響いてくる。
「大変だ! ルップルップ様が竜と戦っておられるらしい!」
ボザルトが振り返った。
「とは言ってもね、向こうに行けないし」
ドリスは壁や部屋のあちこちを調べ始めた。
「うおおお! ルップルップ様! 今我が参りますぞ!」
ボザルトはその狭い穴に顔を突っ込もうとしている。
ドリスは部屋の作りに違和感を感じていた。一番神聖な部屋だと思ったが、つるりとした祭壇があるだけで、あとはこの竜の仕掛けだけである。竜を配置してまで守る理由が見つからない。
ドリスは杖に魔力を込めた。
杖に刻まれた蛇の目が光る。
「ここに何かある?」
ドリスは祭壇の下に菱形のボタンを見つけた。良く見ると三角のボタンが二つ上下に並んでいるらしい。押しこむと何かが起きるタイプのボタンだろう。
あの竜の停止装置かもしれない。
「ボザルト、そこを離れて、向こうの人間と話をしたいわ」
ドリスは顔に丸い跡をつけたボザルトを押しのけた。
「おい! 誰かいたら耳を貸して! おーい! 誰かいないの!」
向こう側はかなり煩い。
そのうち誰かが前をよぎった。ドリスは指をくいっと曲げて術でそいつの自由を奪う。くいっくいっと引くと筒の前に間の向けた顔をした男が現れた。
「おい! お前! 私の声が聞こえるか?」
ドリスが叫ぶと、ようやくこっちに気づいたようだ。
その男、ドリスを見るなり「アリスか? なんでそこに?」とか訳の分からない事を言いだした。
「お前! よく私の話を聞いて! そっちにも祭壇がありますか?」
男は少々呆けているがうなずいた。
「その祭壇の下にボタンがあるはずです。それを押して! 何かが起きるはずよ」
男はうんうんとうなずいた。
この男、本当に分かっているのだろうか?
ドリスは多少不安を覚えた。
「ボザルト、このボタンを押してみるわ。何か変化が起きるかもしれない」
「向こうで、ルップルップ様の危険が去るのか?」
「やってみないとわからない。またこっちに竜が出てくる可能性もあるわ」
「よし、やってみよう」
ボザルトは槍を構え、何が起きても良い体勢をとる。
「押すわ!」
ドリスは、頂点が上を向く三角のボタンを押した。
「たしか下にボタンって言ったよな」と俺は頂点が下を向く三角のボタンを押した。
……ゴゴゴゴゴ……!
物凄い振動がして、壁が崩れる。竜の姿が消えていく。
床だけになった祭壇の間、奥壁の向こうに対称に造られた部屋の床が見えた。
その床が急上昇していく。そこに一瞬見えたのは、野族1匹の傍らに立つアリスらしき人の姿だ。
「ルップルップさま~あ!」
野族が、下がって行く俺たちの方に手を伸ばして叫ぶのが見えた。古代地下都市から天井に向かって上へ伸びていくシャフト。
俺たちは逆だ。
地下に吸い込まれるように落下する。
「うわー!」
「ひえー!」
「きゃー!」
俺たちは床に這いつくばる。
俺たちの床は真っすぐ洞窟の底に落ちていく。
反対に向こうの床は遥か上方の洞窟の天井に消えていった。
ーーーー俺たちは崩れた神殿の床にばらばらに倒れていた。
幸い床が地面にぶつかる寸前にミズハとルップルップが何か術をかけたらしく、誰も怪我をしている者はいない。
「神殿、壊れたわね」
セシリーナが周りを見渡した。
「ああ、一体何のための神殿だったのやら」
「私は行かなくちゃ! 族長一族と司祭を守る兵がこの私を探しにきたのよ!」
「まあ、待て」
俺はルップルップのスカートの裾を掴んだ。ルップルップは興奮して忘れているが、ここは地下深いのだ。そう簡単にあの天井に行く事は不可能だ。
「ルップルップよ。仲間に会えてうれしいのは分かるがここは地下だ。地上に戻ればまた会えるだろう。今は我慢だ」
ミズハがなだめる。
「そうですよ。ここは地下で、誰も入ったことのない場所です。まだまだお宝が眠っているのです」
リィルはリサの傍らで膨れた背負い袋を担いだ。
「こんな目に遭ってもまだお宝を探すつもりなの? リィルは逞しいわね」
セシリーナが呆れた。
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