第214話 神殿最上階(カインたち)
俺たちは回廊脇の最後の扉を開けた。
空気が動いて音を立てる。
「ここが正解だったらしいな」
ミズハが中を覗きこむ。
「階段が上へ続いているわ。敵もいそうだけど。ここを行くしかないわ。後ろには戻れないわよ」
セシリーナが俺を見て言った。
それはそうだ。ここに来るまで何十体のゴーレムと戦ってきたというのか。
強行突破してきた背後の部屋には相手にしなかったゴーレムがうようよしているはずだ。
「リィルはリサを守ってくれよ。あまりお宝にばかり気を引かれているんじゃないぞ」
「そんなこと、カインに言われなくともわかっていますよ。お宝にばかり目が行っているわけじゃないですよ」
そう言うリィルの背負い袋は既にお宝でパンパンに膨れている。説得力皆無である。
「私が最後尾で良いのかしら? 私は前衛でだって活躍するわよ。棒術の腕は野族でも一目置かれていたのよ」
ルップルップが杖を振りまわして言う。
「止めておけよ。お前は後ろで支援してくれ」
その姿に、昔、妖精妻のナーナリアがやからした時の事が重なり、俺は後頭部が痛む。
「カイン、何を言うか! 私はこれでもね」
ボスッ! 突然、手から外れた杖が俺の両足の間から床に突き刺さった。
確かにこの床に突き刺す威力は凄い、だがあと少しで大参事である。俺は青い顔をしてルップルップを見た。
「ルップルップは後方から支援術に徹してくれ」
ミズハが言うとルップルップはすぐ大人しくなった。
「来るわ! ゴーレムよ!」
セシリーナが弓をひく。
ミズハが緑色の光を網状に広げ、接近してきた2体のゴーレムを包むように収束させる。
ド派手な音を立てて2体のゴーレムが爆発四散した。
びりびりと床や壁が震える。
セシリーナの矢も下りてきたゴーレム1体の動きを止めた。
「登るぞ!」
俺たちは階段を駆け上がる。
途中顔を出したゴーレムは殆どがミズハによって爆破された。
「ミズハの攻撃で、こんなに神殿を揺らして大丈夫なのか?」
「あまり好ましくはないと思うけど、ミズハが乗りに乗っているから、好きにさせた方が良いわよ。敵は片付くんだし」
わはははは……と爆裂魔弾を打ちまくっているミズハの影で俺とセシリーナはひそひそと話をする。
「ミズハ様があんなふうに破壊衝動に酔う方だとは思いませんでしたね」
「意外な一面を見ました」
「うんうん、でもすごく強ーい」
再び、ゴゴゴと神殿が揺れた。
ちょっとやり過ぎなのではないだろうか?
そう思いながら階段を登りきった俺たちの前に神秘的に美しい回廊が現れた。ミズハがそこに立っている。
「どうした? ミズハ」
「カインか、あれを見よ。あの白い扉からは強い魔力を感じる。あの中からも尋常ではない力を感じる。あそこに入るのはかなり危険だが、と言っても既に道を戻る事もできないようだ」
全員が回廊を見渡す。
「あっ、後ろを見て! 階段が下の方から消えていくわよ!」
ルップルップが驚いたような声を上げた。
「えっ! 消えている、そんな馬鹿な事が!」
「わー。段々近づいてくるよ」
「まずいわ、ミズハ様!」
「危ないとは言っていられないようだ。あの部屋に入るぞ!」
俺たちは扉の前に立った。
「これ取っ手も何も無いわ。竜の絵が描かれているだけで」
「床を踏むと開く……という訳でもないですね」
「何かアイテムが必要なのか、魔法的な力で開くのか? 竜の絵、それとも蛇の絵か?このレリーフをどうにかするのか?」
ミズハも考え込んでいる。
「まずいぞ! 後ろを見ろ! 回廊の端から消えていく!」
俺は目を疑った。さっきまで立っていた場所が虚ろな穴になっている。
「ひゃああ、早く開けなさいよ!」
ルップルップが強気なんだか情けないんだか分からないような声を上げた。こいつこれでも神官、野族ではリーダー的な存在だったんじゃなかったか?
「時間が無いわ! 来る、来るわ!」
「わあーー時間切れです! 死ぬのです!」
「こうなったら止むをえん! 神聖な扉なのだろうが、強制鍵解除! 罠感知、罠除去!隙間をこじ開けて開く!」
ミズハが杖に光りを集め、そして解き放つ!
ドドドド! と俺たちが室内に倒れ込んだのと背後の床が無くなるのは殆ど同時だった。
「いててて……」
真っ先に立ちあがった俺の顔を何かが舐めた。
「うっぷ、生臭い、こんどは誰だよ」
俺はミズハとキスしてしまった出来事を思い出した。だがこんなに生臭いのは初めてだ。もしかして野族だったルップルップか? と失礼な事を考える。
目を開けた俺の目の前に大きな口が開いて……。
「ああっ! カインが! カインが食べられましたよ!」
リィルの声に皆が一斉に顔を上げると、左の壁から上半身を突き出した竜の口からカインの長靴を履いた足だけが出ている。竜はもぐもぐと飲み込もうとしていた。
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