第94話 リサ救出作戦開始
サンドラットが集めてきた情報によれば、村はずれの古代遺跡に真実の愛人協会の者が出入りし始めたのは数年前のことで、この協会に感化された村人は予想以上に多いらしい。
そう言えば、村長の奥さんも過激なほど妾の存在を許さなかった。村長クラスともなれば、貴族と比較できないまでも、普通は2、3人の正妻と数人の妾くらいはいるだろうに……。
「それで、今すぐ救出作戦を実行するのか?」
「ああ、早くしないとリサが泣いているかもしれないだろ?」
「準備ならできてるわよ」
オリナの姿で背中に弓矢を背負ったセシリーナ。
「こちらもいつでも出発できますよ、一人ずつ運びますから私たちの背中に乗ってください」
アリスがにっこりと笑う。
3姉妹はお揃いの冥土服、バリバリの戦闘モードである。
「それでは、私がセシリーナ様を背負いますね」
そう言うと、イリスがオリナを背負った。
「先に行きます」
そう言ったかと思うとイリスの姿があっというまに消えた。今そこにいたのに、瞬きしたらもういない。凄く速い。
「ま、待て、アリスにおんぶするのか? この俺が?」
次はサンドラットだが、なんだか見てられない。アリスの前でテレテレに照れている。
「サンドラットさん、そんなに恥ずかしがっちゃダメですよ」
「いや、だけどなあ」
「どうしても嫌ならば」
「うわっ! 待ってくれ!」
お姫様だっこされたサンドラット。
その姿がアリスとともに消える。なんという速さ。
残りは俺とクリスだ。
「……これで、やっと、二人きり」
俺の後ろで、クリスがぽつりとつぶやくのが聞こえた。
「え?」
「今は、二人きり、邪魔は入らない、このチャンス、待ってた……。ふふふ……」
クリスの言葉の色っぽい抑揚に俺はどきりとする。
「カイン様。ねぇ。どう?」
クリスが俺を見つめ、桜色の唇を意味ありげに指で撫でて微笑んだ。やばい、物凄くかわいい。この状況って、まさか、やばくないか?
「カイン様、大好き、私……私……」
肩も露わにクリスが妖艶に迫ってくる。
「うわああ、よせ、血迷うな!」
「もう、逃がさないの、好き……」
うおおお、かわいいし、色っぽい!
俺は壁際まで追い詰められた。
その澄んだ瞳に映る熱い想い。柔らかな胸が俺の胸に押しつけられ、その白い美脚が俺の股間に割り込んでくる。
顔が急接近した。
クリスが目を閉じ、その魅力的な唇が近づいて……。
うおおお、もう我慢の限界が! もうどうなっても知らんぞ! ガバッ、と抱きしめ……その瞬間、ぱっと夢は弾けた。
俺は一人で大きな枕を抱きしめている。
「うっそーー、冗談でーーす」
そう言いながらも、クリスのきらきらな瞳は、以前として目の前にある。嘘と言いつつもまだ近い、顔が近い、近すぎる。
いたずらっぽく微笑むクリスが小悪魔だ。
「くそっ、今のは暗黒術か……」
今までのクリスの行動は全て幻覚だ。俺は枕を投げ捨てた。
「カイン様の反応を、試した。これは、大いに脈あり。うれしい」
クリスがにやにやしながら軽やかにステップして少し離れた。
「こんな時に妙なことをするんじゃない」
「そうだった」
急に真面目な顔をするクリス。
ダメだ、全ての表情や仕草があまりにも可愛い。
変な言葉とのギャップもかわいすぎる。さっきの姿が脳裏をよぎる。いくら暗黒術で操られたと言っても、もうあのまま抱きしめ、押し倒す気になった自分が怖い。
「さあ、カイン様、どうぞ。来て」
「げっ!」
思わず妙な声を上げてしまったが、健康な若い男なら当たり前の反応だ。
クリスはくるりと後ろを向いたかと思うと、その魅力的なお尻を俺に向かって突き出したのだ。何と言う煽情的なそのポーズ。
背中に乗れ、という意味だということは分かっているのだが、そのポーズはちょっとエロすぎないか? わかってやってるのか? スカートが短いんだぞ。もう白いふとももがぎりぎりの所まで見えてるし。
しかもそのセリフが「どうぞ、来て」って、何が「どうぞ」なのか。
「ほらほら、早く、早く、じらさないで」
メイド服でミニスカートの美少女がそのかわいいお尻を俺に突き出し、お尻をちょっと振って、上目づかいで俺を見た。破壊力抜群だ。ぐおおおおお! 見ているこっちは次第に硬くなってくる。
「はい、乗って」
そう言うと、クリスは
「何か、背中にあたる、カインの股間、硬くて……」
「あ、そうだよな、これはお尻にまわして」
俺は股間の金ぴかアーマーをお尻に回した。
「今度は、どうだ?」
「むむ、まだ、背中にあたる、カインの熱くて硬いもの」
そこまで言わなくても良いのに……。
「いいから、行くぞ。クリス」
「イクッ! 私、カインと一緒に、イクぅ!」
なにか言い方が妙に卑猥だ。と思った次の瞬間、俺の視界は部屋の中から屋外へぶっ飛んだ。
「ぎゃああああーーーーーー!」
何が何だかわからない。視覚情報の変化に脳みそがついて行かない。
息をすることもできない風圧。
く、苦しい、息が、息が……。
そう思っていると、いつの間にか辺りは静まっていた。
「カイン、いつまでもそんなにクリスにしがみついていないで、早く離れたら? ここはもう結界の前よ、それともそんなに彼女にくっついていたいの?」
セシリーナの声にようやく我に返って目を開くと、ここはどこだ?
周囲には荒い岩塊が林立している。
何と言う速さだ、出発してから瞬き程度の時間しか経っていないというのにもう着いている。
アリスとサンドラットも既に到着して俺を待っていた。
ここは洞窟のある岩山の前だ。ごつごつした岩と岩の間にできたわずかな窪地の中らしい。
はっと気付くと、クリスのうなじに顔を埋め、必死に抱きついている自分がいる。クリスの良い匂いのせいか頭がふらふらする。
「ふう、カイン様の、硬くて、大きくて、良かった、最高!」
クリスがぽっと顔を赤らめた。
「あ、カイン、ちょっと到着が遅いなと思っていたら、まさかクリスと……」
セシリーナの表情がこわばる。
「たいした遅れじゃなかっただろ? そんな事をする時間なんかなかったよ。どんだけ早いんだよ、俺がそんなわけないのは十分知ってるだろ?」
「まあそうね、カインはじっくり型だものね」
「セシリーナ様、騙されてはいけませんよ。暗黒術で別空間にあるお姉様の秘密のお部屋に行けば、このくらいの時間でも向こうの世界では丸2日くらい余裕で……」
アリスが余計な事を言う。
「ち、ちがう! クリスが出発するのが少し遅かっただけだよ」
慌てた拍子に手が何かにぶつかった。
クリスの胸の大切な蛇のブローチが飛んだ。
「あ」
とっさにクリスが岩の隙間に落ちたブローチを拾おうとかがむ。
「あ、お姉さま、そこは!」
アリスが叫んだ。
くわーんと乾いた音が響いた。
目が×になったクリスが弾かれた。
「だから、そこに結界があるでしょう、クリス。よく見て。処女は弾かれるのよ」
イリスが呆れている。
「疑ってごめんね」
セシリーナが事も無げに地面からブローチを拾ってクリスに手渡した。セシリーナには結界は効かない。
「悔しい、セシリーナ様、とっくにカイン様の物、羨ましい」
クリスが見上げたセシリーナは優しく微笑んでいた。
その美しい姿にクリスですら一瞬見惚れる。
「ぐっ。負けない。そのうち、きっと、振り向かせる」
クリスは握りこぶしをつくって誓う。
「それじゃあ行ってくるぜ」
サンドラットが格好良くポーズをつけた。ポーズにあまり意味はないが、ただ単にアリスの前で格好をつけたいだけなのだ。子どもかよ。
「行ってらっしゃいませ、サンドラットさん」
丁寧にお辞儀し、にっこり見送るアリス。
ズキューン! とハートを射抜かれたサンドラットが、よろよろと岩陰に消えていく。
「それじゃあ、手はず通り、結界が消えたらすぐリサを探してくれ。もし予定時間を過ぎても結界が消えず俺たちも戻らなかったら、その時は自由にしてくれていい」
「そんなことは絶対にしません。見殺しにするくらいならこの身が引き裂かれようとも結界の中に突入しますわ」
イリスが微笑む。
「そう、いざとなったら、この山ごと、消し飛ばす」
「クリス姉さま、それは派手すぎますよ。それに消し飛ばしたら掴まっているリサ様や潜入したカイン様たちも危ない目に遭いますよ」
いや待て、そういう問題じゃないだろう。
「吹き飛ばすだって? 暗黒術ってこんな山一つ簡単に消せるのか?」俺は思わず岩山を見上げた。アリスはさも当たり前のように言っているが、この岩山だぞ?
「えっ?」
逆に不思議そうに俺を三姉妹が見つめた。どうやら出来て当たり前、という事がありありと分かる。
「……まあ、いい、そこは安全第一で頼んだぞ」
「わかっております。中にリサ様やカイン様たちがいるのに、山ごと乱暴に吹き飛ばしたり、どろどろに溶かしたりなんかしませんから、ご心配なさらず」
「イリス姉さまの言うとおりです。ねえクリス姉さま?」
「うん、約束する。カイン様、ご無事を、祈る」
クリスが両手を組んで、真摯な目で見つめた。
「わかった、それじゃあ行ってくる。結界を解除したら、後は手筈どおりに頼んだぞ」
「行ってらっしゃいませ」
三姉妹は恭しくうなずいた。
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