第39話 襲撃! 美人メイド三姉妹
子どもたちに危ないところを助けられた俺は、別れ際に一つしかない袋飯を子どもたちに手渡した。
ラサリアは俺の服の裾をずっと掴んで、離れたくない様子だったが姉のキララに諭された。
「また、会える?」
「ああ、また会えるさ」と俺は笑ってラサリアの頭を撫でる。
「きっと、きっとだよ!」
「ああ、約束だ」
「うん、約束」
ラサリアは俺にひしっと抱きついてくる。
俺にしては珍しく絵に描いたような感動的な場面。まぁ、たまにはこんなのも良いだろう。
「またねーー!」と元気に手を振る三人に「おう!」と答え、俺は再びサンドラットを探すために出発することにした。
さて、やっと着きました。ここは元の貴族街。
栄華を誇った街も既に荒廃し、広大な屋敷跡には一面に瓦礫が広がっているが、ここに住む囚人は意外に多いようだ。
貴族の邸宅は元々頑丈だったせいか、屋敷跡を住処にしている者が多い。
あちこちに残る大戦の痕跡、その崩れた家の壁に簡易な屋根を乗せただけのスラム街のようなものができている。
塀で囲われていた屋敷跡が多く、魔犬や魔獣等の侵入を防ぎやすいのも人が多く住んでいる理由だろう。
貧民街そのものだが、日々手に入れた食料を互いに分け合っているらしい。キララ達が子どもだけで何とか生きていけるのもこの環境のおかげか。
あちこちに魔犬すら食わないという気持ち悪い蔦がはびこっていて道路は瓦礫だらけだが、その石畳の地面を割って成長した蔦の大株が道を遮っている。蔦が所々切り取られているところを見ると、これすらも食糧になっているらしい。
屋敷の菜園だった所はそのまま畑として活用されている。こういった食料は自家消費か仲間内で食べるのがせいぜいで収穫は少ないようだ。だから露店にも出回ってこないのだ。
ーーーーーーーーー
「あれが、言っていた大木のある屋敷跡だろうな」
遠くからでも目立つ、凄く大きな枯れ木が見える。
戦火で焼けたのだろうか、幹は途中で折れ、全体が炭化しているが、幹の太さは大人が10人くらい手をまわせるほどだ。
幹の根元が洞になっており、暗い影に何かが潜んでいそうで本能的な怖さを感じさせる。
屋敷の方は半壊、いや残っているのは3割程度か。ここでも残骸を集めて作った屋根らしきものが数か所見える。
「このどこかにサンドラットが住んでいるのか?」
既に日は傾き、まもなく夕暮れの時間を迎える。重犯罪人地区ほどではないが、この辺りでも 夜になれば魔物の動きが活発になるらしい。
「早めにあいつを見つけないとな」
だが、どうも何かおかしい。妙な感じがする。
何かがひっかかる。
そういえば、ここに来るまでの路上には大戦で破壊された大きな瓦礫が散乱したまま放置されていた。サンドラットが出店用の自分の荷車を引いて来れる場所だろうか?
何か間違っている気がする。
といぶかしんでいると……。
「ーーーー貴方のその顔、ふ〜ん、どこか見たことがある顔ですね」
突然、背後から投げかけられた少女の声にドキッとする。
声だけで場の空気感が変わった。甘いうっとりするような軽めの香水の匂いに誘われるように振り返ると。
「!」
場違いすぎる!
俺の第一印象がこれ。
そこに廃墟を背に立つ美少女がいた。
うぎゃーーーー! これはかわいい!!
つい絶叫しそうになった。
美しい! 愛らしい! かわいい!
なんだ、この子は!
美しさの方向性はセシリーナやサティナとちょっと違って、かわいらしい系に傾くのだが、やはりトップモデルのような美形! まさかセシリーナやサティナに匹敵しうる美少女がまだこの大陸に存在していたのか!
くりくりの大きな青い瞳、丸いカーブを描くショートカット。蝶のリボン。蛇をかたどったピアス。穏やかな眉、桜色の小さな唇、少し生意気そうな鼻。整った顔立ちの美少女だが、適度に丸みを帯びた桜色の頬は美人にありがちな冷たさを感じさせず、初見で男を虜にするかわいらしさを演出している。
もちろん神がかっているモデル体型のセシリーナに比べれば、少しばかり未成熟かもしれないが、体のラインは見事に美しく、メリハリもはっきりしていてしかも美乳だ。
男としては、どちらかと言えば守ってやりたくなるタイプの美少女かもしれない。その衣装は胸を強調させる黒っぽい紺のメイド服、ミニスカートに網タイツがかなり目に毒だ。
「メ、メイドの服……?」
「いやだわ、
少女は照れたように微笑んで、妖しく豹変した。その瞬間に命を奪われても惜しくないと思ってしまうほどの魅了が周囲を包み込む。
ただの男だったらメロメロになって言いなりかもしれない。しかし俺は妻やサティナに鍛えられて超絶美女への耐性は充分だ。
「この服を知っている。やはり貴方で間違いないようですね。名前は? そうですか……カインと言うのですね? それにしても魅了術に屈しないんですねぇ」
「どうして名前を?」
「ふふふ、やっと見つけました。さあ、カイン、リサ王女の居場所をわたくしに教えなさいな」
その手に黒い
「ま、まずい、本当に冥土行きの服だったらしい」
間違いない。
彼女はメラドーザの3姉妹!
クリスティリーナに次ぐ大陸トップクラスの美少女でありながら、恐ろしい暗黒術の使い手だという姉妹の一人だ!
名前を言い当てられたのは心を読まれたからだ。魅了は跳ね除けたものの、わずかな心の動揺を突かれたらしい。これはまずい! 考えてはダメだ。
「答えなさい。リサ王女がどこにいるか、知っているんでしょ?」
「王女って? 何のことだ?」
「あらあら抵抗するんですね。急に考えが読めなくなりました。こんなのは初めてです、驚きました。一体どうやって?」
「心を無にすれば読まれないんだろ?」
「心を無にですか? へぇ〜、嘘ですね。逆に色々考えてますね? でも無駄な抵抗です。今、あなたが何を考えているかなんてすぐに分かるんですから」
「良いのか? 俺の心を読んで?」
「何を強がってるんです? さあ、あなたは今……、え?」
見る見る顔が赤くなった。
「バ、バカじゃないですか! 卑猥な邪念で頭の中を一杯にしてるだけじゃないですか! このぉ〜変態っ!」
そう言って彼女は急に胸を両手で隠した。
うん、バレた。
頭の中を彼女の恥ずかしい妄想で満たしたらどうなるか? 予想どおりの反応が可愛くもある。
だが、今のうちだ。
彼女が動揺したおかげで、ちょっと隙が出来た。俺は塀を背にとっさに左右に逃げ場所を探すが……。
「だーめ。君は、もう、逃がさないよ」
なんと、右側の瓦礫の影から別の美少女が現れた。
一目見て思わず、ぎゃーーかわいい! とまたも叫んでしまいそうになる。
蛇をかたどったブローチに、髪飾りは星のリボンだ。
しかし、よく見るとちょっと違う点もある。
髪が右目を少し隠しているところと耳がやや尖っているところ、そしてちょっぴり輪郭がふくよかで少し背が低い。しかし、何よりも問題なのは見ただけで鼻血大暴発のわがまま美乳をこれ見よがしに強調するそのメイド服! スカートもかなり短い、その絶対領域が俺の股間に一撃を食らわす!
胸の谷間に目が奪われる。これを見ただけで死んでも良いと思う男がいてもおかしくない。いや俺が今そう思いかけた。俺は前かがみになってふらついた。
しっかりしろ。惑わされたら最後だ。いくら魅力的でエロくてもこいつは敵なんだ。
超絶美少女メイドが二人。
これで逃げ道は左側しか無くなった。俺は隙をうかがって逃走ルートを目で探す。
「残念です。あなたに逃げ道なんて最初からないんですよ。こっちも逃げるのは無理なのですから」
と、いつの間にか左側にも似た顔の美しい少女が立っている。
ぎえーー! この子もかわいい!
少し目元が優しい感じで、この少女だけが長髪をポニーテールにしている。蛇をかたどったネックレスに髪飾りはハートのリボン。一見スリムに見えるが、ふくよかな胸が男を招いている、何もかも忘れてその魅惑の双丘にダイブしたくなる。それはもう恐ろしいほどの魅力だ。
とにかく見た目は物凄くかわいい、超絶美少女の三姉妹。しかもメイド服が似合いすぎだ。美しい足からのぞく絶対領域の妖艶さ。どっちを向いても目のやり場に困る。
だが、見た目に騙されてはいけない。彼女たちは恐ろしい相手なのだ。
「観念しなさい」
「あきらめる」
これは終わったな。
もう詰んだ。どう考えても逃げ場がない。
そう、俺がリサを誘拐した男だと認定された時点で終わっていたのだ。俺は心の中で指を組んで目を閉じた。せめて痛くないようにと祈る。
彼女らの術はするりと人の心に忍び込む。
最初に言葉を掛けられた瞬間に惑わされ、既に抵抗する気力を奪われていることにすら気づかない。だが、絶対優位な状況の彼女たちになぜか動揺の色が見えた。
「おかしい。お姉さま、不思議、こいつ、深く精神を操れない。何かある」
「ええ、手強いです。考えが読めません。女神級の障壁? とても神聖な力が邪魔してるみたいです」
「しかも妄想であそこまでやるような変態です。力を合わせます。どんな結界だって私たちなら解除できます」
少し顔の赤い美少女が鞭をしならせた。
両脇の美少女たちがすっと前に進み出て俺を正面から見て怪訝な顔で首を傾げた。
「でも不思議です。なぜこんな冴えない男にこんな抵抗力が? それにこれが誘拐の実行犯ですか? 本当に?」
「そう。こんな男が、イリス姉さまから、逃げおおせた?」
「アリス、クリス。リサ王女を連れ去ったのはこいつで間違いありません。あの時はもう一人、裏切り者がいたけれど」
イリス、アリス、クリス?
わー混乱する。
お前ら、似たような顔をしているのに名前まで似てる。
ちょっと落ち着いて整理してみよう。
俺とセシリーナが神殿で一戦まじえたのは正面にいるイリスだ。彼女はどうやら長女らしい。
少し顔立ちが凛々しくまさに美形、スタイルも良いが姉妹の中では少し胸がスリムと言えるか? 蝶のリボンが目印だ。
次に右にいるのがクリス、恐らく次女。美乳自慢なのか、とりわけ胸の谷間を強調し、太ももを大胆に見せる刺激的な服になっている。とてもかわいい系の愛らしい顔立ちの美少女で星のリボンをつけている。
そして左にいるポニーテールで優しそうな雰囲気なのがアリス、たぶん三女だろう。ハートのリボンをして、全体に乙女チックだがしっかり者の感じがして、包容力が高そうで、家庭的な感じがする。
3人とも蛇に関係するアクセサリーを身につけている。特に首に巻かれたお揃いの双頭の蛇デザインの赤いチョーカーはリアル過ぎてかなり不気味だ。
「口を割らせるまで逃しませんよ」
イリスは黒い鞭を構える。隙がなくて、清楚可憐だが、その太股はかなりエロい。妄想が暴走するのも当たり前だ。
「リサ様は、どこ?」
クリスは十字槍を構えた。胸が圧倒的に魅惑的、表情は精悍さの中に仄かな色気がある。経験上、この手の女の子は意外に性に積極的だったりする。夜が激しいタイプだ。
「早く喋らないと酷いめを見ますよ」
アリスは指鉄砲だ。ふつうにかわいいという所が逆に恐ろしい美少女。一番恋人にしやすそうな雰囲気があるので、むしろ気づいた時にはその虜になっていそう。
だが、なんだか、3人並ぶと一見かわいいアリスの武器が一番怖い気がする。
ふふんとイリスが笑った。
にこっとクリスが微笑んだ。
「時間切れです。アリス」
「ぱーん!」とかわいい声がして、アリスがウインクしながら俺の胸を指差し「ピンクの御霊!」と叫んだ。
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