独断と偏愛の映画紹介

デメテル号最期の航海

【作品情報】2023年　アメリカ　監督：アンドレ・ウーヴレダル

【あらすじ】

ルーマニアのカルパチア地方からロンドンまで、積み荷を運ぶ船デメテル号が出航の準備をしていた。エリオット船長はこの航海を最後に船を降りる決意をしていた。

港街で船乗りを募ったが、不吉な積み荷に恐れをなして次々辞退される。一度は乗船を断られた黒人医師のクレメンスに声がかかる。

デメテル号はロンドンへの航海に出た。間も無く家畜が惨殺される事件が起きる。木箱から瀕死の女性アナが発見され、船内は不穏な雰囲気に包まれ船員たちの争いが起きる。

そして、夜ごと船員たちが消えてゆく。船に乗っているのは悪魔なのか。

『吸血鬼ドラキュラ』の航海日誌を元に事件の真相が紐解かれる。

【見どころ】

大海原を帆船が航海するシーンが美しい。また、帆船のデザイン、デッキやランタンの光が照らす船室などの美術が素晴らしい。癖のある船乗りたちとクレメンスの衝突や、謎の女性アナが何者か、ドラマ性もあり、船の上という閉鎖空間だが飽きない作りになっている。

モンスター（ドラキュラ）のデザインや、襲われた人間が吸血鬼となった悍ましいメイクも上質な印象を受けた。

ラストがどうなるのか、予定調和ではあるが演出がニクイ。

【感想】※ネタバレ含

私はドラキュラ（ヴラド・ツェペシュ）が好きなので、本作のニュースが流れたときにはこれは観にいかねば！と喜んだものの、劇場が限られていて機を逃してしまった。

配信で気軽に観られるのはありがたい時代です。本当はお金を落としたかったけど、すみません。

作品としてはゴシックホラーの雰囲気満載で、映像には隙が無く芸術的でさえあったと思う。俳優の演技も迫真で恐怖に引き込まれた。

しかし、これはシナリオに無理があるのか。限られた船内で昼間のうちにドラキュラを発見できないというのが一番腑に落ちなかった。見つからない、と言っているが夜襲われるよりも死ぬ気で探したら良いのに、と思ってしまった。

船長の孫に至っては、行動に死亡フラグが立ちまくっており、そりゃ死ぬよな……とあまり同情できなかったところがある。子役はすごくかわいらしかったので、最善の方法で立ち回ったのに死ななければならないシチュエーションに追い込んだ方が良かったと思った。

クレメンス医師は物語を牽引するキャラで、好感が持てた。他のキャラについても、キャラを立てようとする信念が感じられた。

ドラキュラのモンスターデザインについては、コッポラ作品に準拠しているのだろう。今風の魅力があるかといえば疑問ではあるが古典的には良いと思う。

美術、演出、俳優の演技、シナリオ（これは単純な話を頑張って膨らませたのがすごい）と優等生な作品だった。ラストの杖の音の演出はカッコ良かった。しかし先が読めるために安心して観られてしまうホラーではあったと思う。