独断と偏愛の映画紹介

ヤクザと家族

【作品情報】2021年　日本　監督：藤井道人

【あらすじ】

　1999年。山本賢治は父親を覚せい剤のために失う。母もすでになく、悪友とつるんで無気力な生活を送っていた。

　ある日、行きつけの食堂で居合わせた柴咲組の組長、柴咲をチンピラが襲撃する。山本はチンピラを殴り倒し、柴咲の命を救う。

　後日、売人から覚せい剤を奪ったことが原因で、山本は侠葉会の連中に拉致されるが、柴咲の名刺を見た侠葉会は山本を逃がす。

　柴咲と再会した山本は彼と父子の契りを交わし、ヤクザの世界へと足を踏み入れた。

　2005年。柴咲組の構成員として男を上げる山本。クラブのホステスの由香に思いを寄せる。

　しかし、侠葉会との争いに巻き込まれ、柴咲は命を狙われて山本の弟分の大原が命を落とす。柴咲組若頭の中村は報復のために侠葉会の川山を刺殺。現場にいた山本は中村の罪を被り、刑務所へ。

　2019年。14年の刑期を終え、組に戻った山本。しかし、時代は大きく変わっていた。山本は由香と再会し、自分との間に生まれた娘がいることを知る。ようやく手に入れた幸せ、それは長くは続かなかった。

【見どころ】

　辛辣で哀しい不器用だった男の物語。自暴自棄だった山本がヤクザとして家族や愛する人を得て、華やかな人生を切り開くサクセスストーリーにも見える。しかし、時代の変化に取り残された彼は周囲の人間も巻き込んで破滅へと導かれる。脇を固める人物たちの人生も垣間見えるところが深い。

　後半はとても辛く、心を穿つような展開が押し寄せてくる。しかし、山本がこの先どうなるのか最後まで一気に見入ってしまった。

　山本役の綾野剛さんの生々しい演技が素晴らしい。ヤクザ映画だけあって前半は残虐な場面もあるが、後半は別の意味で残酷な場面が待っている。しかし、この作品には愛と、不器用な男の生き様が詰まっている。山本の生き様を最後までぜひ観て欲しい。

　海沿いの工業地帯の風景のノスタルジックな映像が美しい。印象的な海や煙突の映像が物語のイメージに合わせて移り変わっていくところも注目したい。

【感想】※ネタバレ含

　邦画、とくにヒューマンドラマ系はほとんど観ない私が、どうしても気になる題材に惹かれて勇気を振り絞って観た作品。というのも、日本のヒューマンドラマはどうしても現実味があって、辛さが身に染みるから精神を削られてしまう。なのでよほど余裕がなければ観ない。

　そういうわけで精神が削られましたね。しかし、山本を通じて人生とは、社会とはを考えてしまう深く印象深い作品だった。

　山本はストイックでどこまでも不器用。幸せな家庭で育っていればまっすぐな人間になっていたに違いない。ヤクザを辞めて平凡な幸せを望んだ彼に、社会は冷酷な仕打ちで迎える。頭の弱そうな同僚のSNSも、ありがちなことではあるが、それで誰かの人生が破滅するという恐ろしさを感じた。

　最後の救いは山本の娘、彩が彼のことを知りたいを願ったこと。つばさと出会うことがこの先どういう未来を描くのか、それは海に輝く光が暗示していると信じたい。

　余談だが、あぶない刑事を観たあとに本作を観たので、舘ひろしさんはやっぱりカッコ良いと思った。

　ただ感動した、というだけでは生ぬるい。衝撃を受けた作品であり、これからも心に残り続ける作品だった。