独断と偏愛の映画紹介

チョコレートドーナツ

【作品情報】2012年　アメリカ　監督： トラビス・ファイン

【あらすじ】

　1979年カリフォルニア。ショーダンサーとして日銭を稼ぐルディはナイトクラブで弁護士のポールと出会う。２人はゲイで、その夜意気投合し、互いの連絡先を交換する。

ある日、ルディが安アパートに帰宅すると同じ階の女性がドラッグ使用のために連行される場面を目撃する。残されたダウン症の少年マルコは施設に送られた。夜、施設を抜け出し、街を彷徨っていたマルコはルディに保護される。

　母親の愛情を受けずに育ったマルコを愛しく思ったルディは彼を引き取り、ポールとともに３人の幸せな家庭を築く。

　しかし、２人がゲイであることが明るみになり、法廷でマルコを取り上げる裁判が始まる。ゲイカップルとダウン症の少年の紡ぐ人間愛の物語。アメリカで実際にあった逸話をモデルにした作品。

【見どころ】

　ルディ、ポール、マルコ、３人の静かに心揺さぶる演技が素晴らしい。決して派手な展開では無いが、ルディの人間的な魅力、ポールの苦悩、マルコの朴訥とした演技がドラマを盛立てている。1970年代、まだマイノリティが異端とされ、白眼視されていた時代の空気感も伝わってくる。

　後半から辛い展開の法廷ドラマになっていく中、自分の信念を貫いてマルコを取り戻そうと奮闘するルディとポールの姿は応援したくなる。最後まで結末が読めないストーリー展開も見事。

【感想】※ネタバレ含

　ゲイカップルの人間ドラマ、というくらいの情報で見始めた本作、まさかこんな物語だったのか、と衝撃を受けた（そりゃそうだ）。ゲイカップルを描いた純愛ものでもあり、その枠に収まらない深いヒューマンドラマだ。

　私としては、ルディの人間的な魅力にとても惹かれた。ダンサーとして場末のナイトクラブで踊りながら夢を諦めず、損得勘定ではない深い愛情を持っている。マルコと暮らすことで、ポールとケンカになるのでは、と危惧したがポールも人間ができていたので安心した。

　マルコが人形を持って夜の街を歩くシーンの映像は美しく、そして悲しい。法廷で彼らからマルコを取り上げた頭の固い連中に新聞記事とともに送られた手紙で、泣きに泣いた。ルディとポールがどれほどマルコに愛情を持っていたかよく伝わってくるシーンだった。

　ラストのルディの歌の歌詞は心に響いた。邦題がとてもいい。マルコの好物のお菓子の名前だ。このドラマは甘いハッピーエンドではない、しかし優しさが詰まっている。