第2話 今日から私がここの管理人です①
1月15日
今日は成人式。
ちらりほらりと振り袖に身を包んだ可愛らしい姿や紋付き袴の勇ましい姿が・・・新成人の皆さんおめでとうございます。
私も数年前はあんなに あどけなかったのかな・・・
なんて思いつつ、道行く成人の方々をこっそりお祝いしました。
社会に出たら大変だよ~。
でも休日の嬉しさたるや、なんたる重みかってぐらいね。
そして今日は嬉しい祝日なので会社も休み。
やった!
・・・って喜んで もいられないんだよね。
実は、おばあちゃんが旅行に行ってる間、おばあちゃんが管理人をしている下宿に代打で行くことになりました。
おばあちゃんがやっている下宿は賄い下宿。朝晩二食付きなんですって。
ようするに炊き出しの代打。
昔、おばあちゃんのお父さん・・・私のひいおじいちゃんが工場をやってた頃の社員寮を改築しておじいちゃんとおばあちゃんが始めた下宿なんだって。
おじいちゃんが亡くなってからずっと働きづめだったおばあちゃんの少しでも骨休めになればと思って引き受けたの。
まぁ朝晩二回の食事の準備を三日間すればいいだけだし、
住人の方々は同じような世代だっていうし、
友達になれればいいかな・・・
でも仕事にはいかなきゃいけないけど・・・
下宿先からの方が会社は近いのよね・・・まぁちょっと違う環境に身を置くもの悪くないかな。
下宿は、うちから電車と徒歩で一時間半、足立区谷中にあります。谷中には初めて行くんだけど活気があっていい雰囲気。好きな街かも。
『松竹梅荘』っていうのが下宿の名前。駅からの途中、道が不安で何人かに道を訪ねたんだけど、皆さん、苦笑いするの。
もちろん丁寧に道順は教えてくれたんだけど・・・凄い意味深なのよね。
おばあちゃんは、商店街の顔役みたいで有名だったし。
・・・なんで皆さん意味深だったのかな?もしかして凄い古い建物だからかな?
まぁ行ってみればわかるか。
教わった道順で行くとすぐに松竹梅荘はわかったの。
想像してたものよりずっと立派でした。大きな門構えに二階建ての大きな建物。お庭も広いし素敵だった。
実家を離れてここに暮らしてみてもいいかなってちょっと思っちゃった。
・・・お父さんお母さんごめんね。
「ごめんください」
って玄関口で挨拶したんだけど中からは何の返事もない。
おばあちゃんからは、誰かしらいるから好きにやんな・・・
なんて言われてたけど、さすがに勝手に入るものまずいわよね・・・もう一度大きな声でごめんくださいって言ったけど、相も変わらず無反応。
玄関に鍵はかかってなかったんで、失礼してお邪魔させてもっらたの。
・・・驚いちゃった。
玄関口には脱ぎ散らかされた靴、靴、靴、下駄、雪駄・・・
下足箱もあるにはあるけど、しっちゃかめっちゃか、
靴じゃないものが色々と詰め込まれていた。
新聞、雑誌、レコード?お弁当箱?ヘルメット?鞄?手ぬぐい?湯置け?などなど・・・
おばあちゃんからは男所帯の食べ盛り・散らかし盛りだから・・・と、聞いてはいたものの、聞きしに勝る状態を目の当たりにしました。不安が少しだけよぎりました。
玄関口から見える屋内は、リビング・・・というにはあまりにも広いスペース。共用部なのかな?大きな長いテーブルと椅子が数脚。
・・・きっとここでみんなで食事するのね。
それからソファーに電話。その共有スペースの手前の部屋は台所なのかな?暖簾がかかってて。奥が管理人室みたい。
廊下には色々な約束事が張り出されてる掲示板があったり、
きっとおじいちゃんの趣味であったであろう絵が飾られている。
電話台にはメモ帳や砂時計、
一輪挿しには白い綺麗な花が活けてあった・・・
これはきっとおばあちゃんね。
なんて言ったかしらこの花、昔おばあちゃんに教わったんだよな・・・ホース?モース?ノース?なんたら・・・今度調べてみよう
屋内を見渡しながら玄関口に散らばった靴や下駄を揃え終えると、ドスドスと大きな足跡を立てて二階から男の人が二人降りてきて・・・しかも怒鳴りながら・・・
「だ〜か〜ら〜何でお前はいつもそうなんだよ」
と赤いタートルネックにニッカポッカ、頭には立派なトサカ・・・もといリーゼント、口元にチョビ髭のある人が怒鳴り
「人が親切でやってやったんじゃねーか」
とラッパデニムに派手な柄シャツ、髪の毛は無造作に肩まであってバンダナを頭に巻いたヒッピー風の人が返す
二人してリビングで小競り合いをし始めてしまったの。
「小さな親切、大きなお世話だって言うんだよ」とチョビ髭リーゼントが突っぱねて
「うまいこと言ってんじゃねーよ、いやうまくねーよ」とヒッピー風が納得してから突っ込んで
「どっちだよ」とチョビ髭が収めたの
私は面を食らったもの、挨拶だけはしないとと意を決して
「こんにちわ」
って挨拶してみたの。
そりゃ怖かったけど、これがもし喧嘩だとしたらやめるきっかけにでもなればと思って。
そしたら、チョビ髭とヒッピーは・・・
「こんにちわ」
って挨拶を返してくれたの。
喧嘩・・・じゃなっかったのかな?
と、思いきや二人はまた取っ組み合いを始めたの。おろおろする私をよそに二人は組んず解れずの大喧嘩。
・・・流石に殴り合いまではいってなかったけど、今にも殴り合いを始めそうな雰囲気。なんとか止めなきゃと思って、もう一回大きな声で
「こんにちわ」
って言ったの。そしたら二人とも息ぴったりに
「はい、こんにちわ」
って返してくれて、やっと喧嘩が終わると思ったら、また喧嘩し始めたの。
私は今何をして何を見せられてるのか、わからなくなってしまった。
え?
なんで?
どうして?
だってだって二人とも私の声は耳に入ってるんでしょ?
だから挨拶返してくれたんでしょ?
パニックになる私を他所に二人の喧嘩は盛り上がっていってるし・・・
なんだかちょっと腹が立ってきた。
私、管理人なのよ・・・
代打だけど・・・
おばあちゃんが旅行に行ってる間だけだけど・・・
その私が一生懸命挨拶してるのに、色々自己紹介とか考えてきたのに、なんで聞く耳持ってくれないの?
私、そんなに出来た人間じゃないから!
あったまにきて、取っ組み合いしてる二人を引き離して話を聞いてもらおうと、
二人にめがけてタックルしたわ。全身全霊を込めて。
そしたら二人とも驚くほど吹っ飛んでしまった
・・・けどようやく私という存在を認めてくれて
「あんた、誰?」
ってまたしても息ぴったりに聞いてくるの?
私、おかしくなっちゃった。もしかしてだけどあなたたち仲良しさんなのかなって。
私は息を整えて、用意してた自己紹介をしようとしたら・・・
「助けてぇ」
って二階から聞こえてきて、しっかりと七三分けした浅黒く日焼けした男の人と、小さいお相撲さんかと見まがう太った男の人がリビングに躍り込んできたの。
しかも全裸で・・・
全裸の七三浅黒とたゆたゆお腹が私めがけけて飛び込んでくるの。
助けて?
こっちが助けてよ。
いきなり全裸の男二人に囲まれて私はパニックを通りこしてスーパーパニック。
脳みその処理が追い付かなくなって思わず笑っちゃったもの。
でもお陰で冷静(?)に悲鳴を上げることが出来たわ。
その悲鳴に驚いてか全裸・・・正確には一応、あそこは手ぬぐいで隠してはいたけれど・・・の二人は
「なにごとですか?」
「あっしにきかれても」
と、狼狽えていたけど・・・一番狼狽えていたのは間違いなく私だって自信はある。
とにかく視線の送り先にも困るので服を着てもらいたい
・・・ってお願いしようと思っていた矢先に、
「きえぇぇぇぇ」
と二階から奇声が聞こえてきて、ナイフを両手にもち、頭に鉢巻、その鉢巻きに鬼の角のように筆をさし、血みどろのエプロンを着て、目を血走らせた河童みたいな人が飛び掛かってきたの。
私は正気を保つのに必死でした。現状理解できないことがあり過ぎてチンプンカンプンだったし、何回か意識が飛びかけたけど、ここで気絶したら絶対にいけないことだけはわかった。とにかく今は気絶しないことだけに意識を全部集中したの。
そしたらナイフを持ってる河童鬼が裸の男、浅黒七三と小柄でぶに
「なぜ逃げる」
と詰め寄って、
「話が違う」と七三が言い返し
「ヌードモデルが裸にならないでどうする?」と河童鬼がいい、
「男の裸の絵なんてだらも見たくない」と小柄デブが返し、
「芸術をバカにするな」と河童鬼が裸の男たちに飛び掛かる、
裸の男たちは逃げる!
・・・私に向かって・・・
私に?
なぜ私に?
逃げるしかない私、
追う裸の男たち、
それを追う鬼。
変な鬼ごっこになってしまった。
先に喧嘩してたヒッピーとチョビ髭はテーブルに座って呑気に見ながら笑ってるの。しかも「頑張れ」なんて言いながら、私、脳ミソが爆発していく思いだった。
逃げ場がなくどうすることも出来ない私だったけど、
その目の前をスゥッと女の人が通りすぎて行ったの。
凄い綺麗な人だった。
寝巻き姿でベリーショートの髪の毛も寝ぐせでボサボサだったけど・・・
いつからいたのかどこから来たのか見当つかなったけど、大騒ぎを余所にスゥッと台所に入っていってしまって、私頼れるのはあの人しかいないと思って慌てて後を追おうとしたの。
そしたら寝間着美女が包丁振り回しながら躍り出てきて
「うるせー!」って。
さっきまで大騒ぎしてた河童鬼も裸デブも裸七三もヒッピーもチョビ髭もピタッと止まったの。
息をのむってこのことなのかってくらいピタッと。
私があんなに叫んでも微動だにしなかった人たちが止まったの。
その寝間着美女は
「こちとら夜勤明けで床についとのがさっきなんだよ。
てめーらが騒がしくしてたら寝れるもんも寝られねーわ!」
っとかっこよく啖呵をきったの。
そしたら河童鬼が
「貴様の通りを無理やり通すな!」
って反論したの。それを聞いた周りの人たちの顔が青ざめちゃって、私もよくわからないけど青ざめちゃった。
だってどう考えても売り言葉に買い言葉。
しかも包丁とナイフ・・・
よく見たら油絵を描く時に使うペンティングナイフ・・・
まぁ凶器としましょう・・・
を持ってる二人。
流血は避けられないんじゃないか・・・
私は冷や汗がたらりと落ちるのを感じて・・・恐る恐る寝間着美女をみると、目は般若のように血走っている・・・・のに、
「笑え」って私達に包丁をひと振り。
笑ったわ。・・・必死に。河童鬼以外の人たちも。
そして寝間着美女が包丁をもうひと振り「黙れ」
あたりは水を打ったような静けさに
寝間着美女が「聞いて喜べ食っておののけ貧乏人ども、今夜は私がステーキご馳走してやる」
ス、ステーキ?
「今からこいつの五体捌いて焼いてやるからありがたく召し上がれ!」
・・・召し上がれるか!
って、思ったのも束の間、寝間着美女は河童鬼に切りかかった!
けど、河童鬼も華麗に逃げる。
追う美女、
逃げる鬼。
・・・文字で書くとどう考えても立場が逆転してるし。
それでもってオロオロするしか出来ない私。
鬼が私の背後に隠れたの、
そしたら包丁が私の目の前に振り下ろされた!
・・・私は幼かった時の事を思い出しました。
公園にお父さんとお母さんと出かけて。
私をブランコに乗せてお父さんが凄く高いところまで揺らしてくれて、お母さんが危ないですよって言ってるんだけど、私は楽しくて大騒ぎ。
お父さんにもっともっとってお願いして。
お父さんも楽しそうに私の乗るブランコを力いっぱい押してるの。
すごい速さで前にいったり後ろにいったりしてて風がビュンビュン耳の傍でなっていて。顔に髪の毛がかかってそれを払いのけようと、ブランコのチェーンをつかんでいた手を放してしまって、それがちょうどお父さんが私を押し出した後で、私はブランコの勢いのままに空を飛んだの。
凄い私空を飛んでる気持ちいって思ったのもつかの間。
私は空中で二転三転して数メートル離れた砂場に見事に尻もち着地をした。
・・・なんでこんなことを思い出したんだろう?あっ、そうか。これが走馬灯ってやつか。
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