xSS-x-07 閑話、司の恋心(変態編)
閑話を二つほど投稿し忘れていました、申しわけございません。
こちらは二話目です。
――――――――――――
私――
残暑も陰りを見せ、肌寒さが実感できるようになった頃合い。食欲の秋と評するように、ついつい箸が進んでしまう。生体錬成で体型を維持できるとはいえ、『天野司』に大食いのイメージがついてしまうのは遠慮したい。気をつけなければ。
衣替えの時期が近いとあって、私たちの雑談は衣服に関するものがメインとなっていた。流行のファッションから始まり、どこの店で何が売っていた~とか、誰にはこれが似合いそうだ~とか。そういう他愛のない会話を繰り広げる。
そんな中、三人娘の一人が尋ねてきた。
「そういえば、司は私たちと一緒にお昼を食べててもいいの?」
唐突な質問だった。彼女のことだから、私と食事をしたくないなんて意味ではないと思うけど。
「どういう意味?」
キョトンとした表情で問い返すと、彼女は慌てて答えた。
「あっ、司と食事したくないとかじゃないよ! オシャレの話をしてたから、オシャレするのはデートの時だよなぁって連想しちゃって」
「ああ、カレシと一緒に昼食を取らなくていいのかってことかな?」
「そうそう」
得心がいった。
私と一総くんは、表向き恋人同士ということになっている。昔依頼した偽装恋人の関係がなし崩し的に続いているだけなんだけど、それを知るのは蒼生ちゃんと
私たちが一緒にいないのは、「偽装関係にこだわるばかり、友人を蔑ろにしない方がいい」と一総くんが言ったためだ。友人がほとんどいない彼の発言と考えると釈然としないが、一理ある話だとは思う。断る理由はなかった。
でも、私としては少し不満が残る。だって、偽装恋人ではあるけど、本当に一総くんのことが好きだから。この身を捧げられるほど愛している。日に日にその想いは強くなっていて、今はバレないよう頑張って抑えているくらい。
そう考えると、学校では別行動してる現状は最適なのかも。だって、どんどん膨れ上がる恋心を持ったまま一総くんと一日中すごせば、色々と大爆発してしまう気がする。うん、私が一総くんに想いを打ち明けるまで、このままの距離感のままでいよう。今はハーレム形成に心血を注ぐべきだ。
さて、余計な思考に逸れてしまったけど、どう説明しようかな。バカ正直に真相を語るわけにもいかないし、誤魔化さなくちゃいけない。
チラリと他の席で食事を取る一総くんの方へ視線を向ける。どうやら彼もこちらに目を向けていたようで、バッチリ視線が交差した。以心伝心しているみたいで嬉しい。
一総くんは軽く肩を竦めた。私に言いわけは任せるといった感じだと思う。であれば、適当に言葉を並べてしまおう。辻褄は、あとで整えればいい。
「一総くんが、お昼くらいは友達と仲良くしろって言ってくれたんだ。放課後はほとんど一緒にいるし、お昼休みの一時間くらいはへっちゃらだよ」
事実を織り交ぜるのは嘘を吐く基本。お陰で、三人娘ちゃんたちは上手く騙されてくれた。
「へぇ、そうなんだ」
「二人とも仲良くやってるんだねぇ」
「リア充なんて爆発すればいいのに」
一人おかしなことを言ってるけど、問題なく誤魔化せた。良かった良かった。
それから、話題は私と一総くん関連へ移っていく。
「で、本当のところはどうなの、カレシとは?」
三人娘の一人――
何を訊き出したいのか察しはついたが、私はあえて惚けてみた。
「どうなのって、どういう意味?」
「そんなの決まってるじゃん。伊藤とどんな感じですごしてるのか聞いてるんだよ!」
「そう言われてもなぁ。最近は一総くんの家でダラダラすごすだけだよ」
「ええ~、何かないの? 二人きりで愛を囁き合ってるとか、お互いを××したとか!」
「そんなことしないよ……」
秋の発言に、さすがの私もドン引きだ。
用事でもない限り、一総くんは家ないし私室に閉じこもっていることが多い。加えて、家には蒼生ちゃんや
その辺りを話すと、彼女はあからさまにガッカリした。
「なーんだ。恋人になって三ヵ月くらい経つから、盛りまくってると思ったのに」
「あんた、言葉が直截すぎるわよ」
「秋ちゃんオヤジ臭い~」
あまりのオブラートの包まなさに、他の二人も苦言を呈した。
それに対し、秋は唇を尖らせる。
「だって、友だちの性事情って気にならない?」
「き、気にならない」
「う~ん、少しだけなら」
「だっしょー」
お年頃だからか、三人娘ちゃんたちは私と一総くんの”経験”が気になるみたいだ。
とはいえ、答えるられることなんて何もない。私たちの関係はあくまで偽装であって、デート以上の接触は行っていないのだから。
しかし、興味がないわけじゃない。
生体錬成を極めた私は、医者がそうであるように、人間の裸体に興奮する感覚が薄れていた。でも、一総くんが相手となると別口。彼の裸を想像するだけで胸が高鳴るし、顔が熱くなる。この前、風呂上がりの彼の上半身を見た時はやばかった。服を着てると分からないんだけど、一総くんは結構ムキムキなのだ。ボディビルダーみたいな膨れ上がった筋肉ではなく、シュッとしたスマートな感じ。きっと鋼鉄のような固さと肌の柔らかさが合わさった、絶妙な触感を得られるんだろう。想像しただけで鼻血が出そうになる。
ありていに言って、彼の肉体は私の好みのドストライクだった。相手が一総くんってだけで心臓バクバクなのに、そこにあの体が合わさるとなると……私は死んでしまうのでは? このままではマズイ。来るべき日までには、ある程度落ち着けるようにしないと。
私が真剣に将来のことを考えていると、秋が声をかけてきた。
「司、大丈夫?」
「えっ、なにが?」
「『なにが?』じゃないよ。急に黙り込んだと思ったら、顔を真っ赤にして体をクネクネし始めたんだよ?」
「正直、不気味だったわね」
「あはは、何を考えてたんでしょうねぇ」
他の二人も同意し、食事に集中していた蒼生ちゃんまでもがコクコクと頷いていた。
どうやら考えるのに頭を使いすぎて、体の制御が利いていなかったらしい。一人には頭の中で何を浮かべていたのかまで悟られてるし。うわぁ、恥ずかしい。
先程までとは別の意味で顔を真っ赤にしていると、三人娘が呆れたように溜息を吐いた。
「思った以上に、司って伊藤のことが好きなのね」
「ベタ惚れだねぇ、これは」
「うん、大好きオーラが全開だよ」
そんなに分かりやすいだろうか? 一総くんへの恋が日を重ねるごとに増しているのは自覚している。でも、私としてはそれを抑え切っていると思ってたんだが。
私はチラリと蒼生ちゃんを見る。一総くんと並んで一緒に行動することが多い彼女なら、正確な判断ができると考えたためだ。
向こうはこちらの意図を読んでくれたようで、私にだけ聞こえる小声で答えた。
「つかさの想いに気づかないのは、かずさくらい」
「なっ」
本格的に、私は自分の気持ちを抑えている”つもり”でしかなかったようだ。穴があったら入りたいレベルの羞恥。今まで経験したことのない感情ゆえに、全然コントロールできていないんだろう。もっと精進しないといけない。
まぁ、バレたら一番困る一総くんが気づいていないのは不幸中の幸いか。彼が好意に鈍感で良かった。
「三人は恋人いるの?」
ふと、蒼生ちゃんが、そんなことを尋ねてきた。私がこれ以上いじられるのは厳しいと判断したのかもしれない。ものすごく助かるアシストだ。
それを受けた三人娘ちゃんたちは苦笑い、もしくは渋面を作る。
「残念ながらいないよ」
「アタシにカレシができるわけないでしょう」
「今はそういう人はいないかなぁ」
どうやら、偽とはいえ、恋人がいるのは私だけみたいだ。蒼生ちゃんは抱えるものゆえに仕方ないとしても、三人娘ちゃんたちがフリーなのは少し意外。
その辺を聞いてみると、
「いやぁ、何でだろうね。生まれてからこの方、そっち方面の話は無縁なんだよね」
空笑いをする秋。
「アタシは友達も少ないから、この強気な性格が良くないんじゃない? まぁ、恋人なんて全然うらやましくないけど! うらやましくないけど!」
謎の強がりを言う
「実は中学の頃につき合ってた人がいたんだけど、勇者召喚されたせいで自然消滅しちゃったんだよね~。手を繋ぐことすらできなかったから、いなかったも同然だけど」
突然の暴露をする
三者三様の反応に分かれた。
というか、槙にカレシがいたなんて初耳だ。それは他の二人も同様だったらしく、
「「何それ、初耳なんですけど!?」」
と、ものすごい勢いで詰め寄っていた。仲良し三人組でも知らなかったということは、今まで一度も語ったことがなかったのかもしれない。
結局、お昼休みは槙への尋問で幕を閉じるのだった。
○●○●○
「家まで送るよ」
いつも通り一総くんの家で夕食をご馳走になった私は、彼からそんな提案を受けた。
私はニッコリ笑って頷く。
「ありがとう。お願いします!」
私たちは、二人並んで街中を歩いていく。
一総くんが私を寮まで送ってくれるのも、恒例のイベントだった。一応、私と彼は依頼主と護衛の関係なので、夜に移動する際は同行してくれる。
ちなみにこの恒例行事、私が狙って起こしていたりする。夕食を彼の家で食べれば夜遅くなるのは確実で、必然的に二人きりになれるという寸法だ。住んでる場所が離れている私だから可能な戦略で、真相を聞いた真実ちゃんは心底悔しがっていた。ふふふ、これぞ頭脳戦というやつよ。
この帰り道、もっぱら私が話す。元々一総くんは口数が多い方ではないので、適材適所というやつだ。といっても、彼も適度に言葉は返してくれるから無視されているわけではない。この僅かな帰り道は、一日の中でもっとも大切な時間だった。
話す内容は日常的なことばかり。今日の授業はどうだった~とか、友達が○○して大変だったとか、最近××にハマってるとか。他愛ない会話ではあったけど、一総くんは笑顔を向けてくれる。日常を愛している彼だからこそ、こういった”普通”な時間が好きなんだと思う。
無防備に笑う彼が好きだ。穏やかな色を湛えた彼の瞳が好きだ。私に歩幅を合わせてくれる彼の優しい心が好きだ。興味のないことでも、しっかり話を聞いてくれる真面目な彼が好きだ。
毎日、一総くんのステキな部分を発見していく。それが楽しくて嬉しくて……これほどまでに日常が充実しているのは、生まれてから初めての経験だ。恋が、私の人生に彩りをくれた。
楽しい時間はあっという間にすぎ去ってしまうもの。私と一総くんだけの時間は、今日も終わりを告げた。
「じゃあ、また明日」
「うん、またね」
お互いに手を振り合い、自分の家へ帰る。
この瞬間が堪らなく寂しい。いつまで経っても慣れない。
いっそのこと、一総くんの隣に引っ越してしまおうかとも考えたが、そうすると二人きりの時間もなくなってしまうため、悩ましい問題だ。
家に帰り寝室へ入ると、私はベッドにダイブした。
ボフンと空気の弾ける音がして、私の身を柔らかい布団が包み込む。
それから、私は傍にあった”あるもの”を抱き寄せた。人型かつ人のような触感を持った物質――その名も『一総くん型抱き枕Ver.2.34』だ。
これは私が生体錬成で作り上げた傑作で、一総くんの肌の触感や筋肉の固さ、匂い、温度を再現している。残念ながら、見たことのない服の内側――下半身など――は再現できていないけど、それ以外は完璧であると自負している。
錬成術の無駄遣い? 私の身につけた技術なんだから、私のために使って何が悪い!
でも、こんなもの作っちゃう辺り、相当私も変態だよね。真実ちゃんのこと、言えた立場じゃないかも。いいえ、私は自覚がある分、まだマシだと思う。きっと、おそらく、メイビー。
私は『一総くん型抱き枕(以下略)』の胸元に顔を埋め、深呼吸をした。再現した彼の匂いが鼻腔をくすぐり、幸せな気分が溢れてくる。最高、一総くんキメるとハイになれる。彼の匂いにはカズサニウムなる新要素が含まれているに違いない。
ちなみに、抱き枕に対して抱きつく以外の行為は行っていない。露出している部分の全てが再現できているから、キスとかもできなくないんだけど、それをやったら負けな気がするからやらない。ファーストキスは本人に取っておくべきでしょう。いえ、セカンドキス以降も本人のみにするべきだよね!
すーはーすーはー。
妙に興奮しちゃったけど、匂いを嗅いだら落ち着いた。もう大丈夫。
この人形作ってから発見したことだけど、私って匂いフェチの気があるみたい。一総くんを好きになってから新発見ばっかりだよ。恋って世界が広がるんだね!
……うん、やっぱり今日はテンションがおかしい。さっさと寝てしまった方がいいだろう。まだシャワー浴びていないけど、錬成術で汚れは落とせるし、明日の朝にシャワーを浴びる時間を取ればいい。
私は謎のハイテンションのまま、夢の世界へ旅立った。
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