007-6-01 終章、変革と宣戦布告
彼は微塵も動かない。当然だろう、
おそらく、何かしらの手段で直撃を免れたのだと思う。彼が気絶してしまった今、どのような方法を使ったのかは分からないが、あの状況でよく対抗できたものだ。
一総を見つめる蒼生の瞳には、すでに涙は浮かんでいなかった。あるのは無機質な
蒼生はその
それから、一言小さく呟いた。
「『
彼女の言葉に反応して、指先にあったレンズが発光する。
その現象はすぐに収まるが、彼女の手の上にあったモノは、コンタクトレンズではなくなっていた。
それは青を基調としたC字型の腕輪。かつて一総の用意した異能具だった。
【
まぁ、当然か。初見なのもそうだし、これほど強力な術を単純な隠蔽に使用するとは思うまい。
見納めになる一総の姿を目に焼きつけてから、蒼生は『始まりの勇者』の方へ振り返った。
彼は最初と変わらない薄気味悪い笑顔を浮かべており、反吐が出そうになる。
彼女の内心を知ってか知らずか、『始まりの勇者』は呑気な声を上げた。
「トドメは刺さないのかい?」
のんびりした声音ではあるが、内容は
動揺しそうになる心を抑え、蒼生は努めて冷静に返した。
「必要ない」
「入団テストを拒否すると?」
「違う。あなたは『倒せ』と言った。約束は守ってる」
「屁理屈だなぁ」
鼻で笑うような、どこか嘲りを含んだ調子。
彼は察しているのだ。蒼生がわざと一総へトドメを刺していないことを。その行動の意図が、どういったものであるかを。
ほどなくして、『始まりの勇者』はニッコリと笑った。
「いいだろう。もう時間だし、彼は見逃してあげるよ。目的達成までに何の障害もないってのは、面白みに欠けるしね」
そう言って、彼は蒼生から目を外した。一総にも興味はないといった様子だ。
『始まりの勇者』は、膨大なエネルギーを吐き続ける門へ向けて両手を掲げた。
「世界を繋ぐ楽園の門よ。今こそ、その真の扉を開きたまえ!」
高らかに謳われた言葉と同時、門はより大きな光を放つ。そして、光は質量を持って、この施設の天井を吹き飛ばした。
ガレキの一切はない。天井は綺麗さっぱり消え去り、雲ひとつない大空が視界に広がる。
門の放つ光は一本の柱となって、上空を貫く。それは次第に細まっていき、消失した頃には、空の様子は様変わりしていた。
天に鎮座するのは、重厚な扉を閉ざした門。この場にある門とは比べものにならないほどの圧を放つ、途方もない建造物だった。
天の門は、その扉をゆっくり開いていく。見た目通りの重量を持つのか、ゴゴゴゴという低い音を鳴らす。
たっぷり時間をかけて開き切った扉の先は、極光に包まれた世界だった。白く塗りつぶされた世界に、白い一本道が通っている。まるで神の世界とも表現すべき、神々しい場所だ。
すべての工程が終わった時、『始まりの勇者』はいつになく上機嫌に
「ハハハハハハハハハハハハハハハッ。ついに、ここまで来た! 世界の変革は目と鼻の先だ。これから忙しくなるぞ」
鳴り響く笑声は収まる気配を見せず、そのうち唐突に消えた。その時にはもう、『始まりの勇者』や蒼生の姿も、その場から見えなくなっていた。
○●○●○
その日──世界中の空に門が出現した日。全人類に対し、一人の男が宣戦布告した。
『世界中の諸君、はじめまして。ボクは『始まりの勇者』と呼ばれてる者だ。今日はキミたちに伝えなくちゃいけないことがあって、こうやって念話による連絡をさせてもらってる。
本日未明から正体不明の門が現れたと思うけど、あれはボクが創り出したものなんだ。あれを起点に、ボクは世界を作り替えようと考えてる。この世界にも異能の恩恵を与え、全人類を勇者にしたいと思ってる。
考えてもみてほしい。この世界に異能がもたらせれれば、エネルギー不足の問題が解決するだろう。勇者と一般人による摩擦もなくなるだろう。生活水準も大きく向上する。そして何より、全人類を悩ませてきた勇者召喚だって発生しなくなるんだ。
ぜひ、みんなにはボクに賛同してほしいと思う。
この話を聞いてもボクに反対だという者は──門を潜ってくれ。その先にボクはいる。今日より十日間は現状維持が続くから、それまでは何もせず待っててあげる。
ボクを止めたければボクを倒せ。『始まりの勇者』を打倒する自信がある者は、遠慮なくかかってくるといい。ボクは逃げも隠れもせずに待ってるよ』
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