006-4-01 幻想
──ジリジリジリジリジリ。
けたたましい金属音が響く。それは私──
目を開くと、そこは私の自室だった。
私は未だ鳴り続ける目覚まし時計を止め、グッと伸びをした。固まっていた筋肉が解れて、ほど良い気持ち良さを感じる。
ちょうど伸びを終えた頃、扉がノックされた。
私はそれを訝しむ──ジジッ──ことなく返事をする。
「はーい」
「あ、起きてるみたいだね。もう朝ごはんはできてるから、冷めないうちに来てね」
返ってきたのは少年の声、私の幼馴染みであるカインの声だった。
懐かしいその音を聞き、私は思わず涙を溢しそうにな……る? 何で懐かしく思うんだろう? カインとは毎日顔を合わせてるっていうのに。
どうにもチグハグな感情を不思議に思いつつ、私は朝の準備を始める。せっかくの朝食が冷めてしまうのは回避せねばなるまい。
手早く着替えを済ませて自室を出る。その足で
そうして、ようやく朝食の待つダイニングへ顔を出す。そこには、この家に住む面子が勢揃いしていた。どうやら、私が最後だったらしい。
「おはよう」
「「「おはよう」」」
挨拶をすると、みんなが明るく返してくれる。
お揃いの金髪金眼はいつ見てもキレイだ。カインとその両親は今日も元気そう。それが堪らなく嬉しくて……堪らなく嬉しい? 三人は毎日元気なのに、どうしてそこまで喜ばしく感じるの? あれ??
「ツカサ、早く食べようよ。遅刻しちゃうよ」
朝から続く奇妙な違和感に頭を悩ませていると、カインが声をかけてきた。
そうだった。まだ時間に余裕はあるけど、ずっとボーッとしていられるほどじゃない。不思議と違和感も消え去ったし、何かの気のせいだったんだろう。
いただきます、と食前の挨拶をし、私たちは家族団欒の朝食をすごした。ただの食事だけど、とても有意義な時間だったと思う。
朝食を終えた私とカインは、家を出て学校へ向かう。私たちの生活する
「あっ」
二人での登校中、他愛ない雑談を交わしていたところ、カインが前方の何かを捉えて声を上げた。
それにつられ、私も彼の視線を辿る。
そこには、私の最愛の人が歩いてた。
伊藤一総くん。一見地味な青年だけど、頭が良くて腕っ節が強くて、そして誰よりも心根が優しい人。
大好きで堪らない彼を前にして、ジッとしていられるわけがない。私は彼の元へ駆け出す。
途中、私の存在に気づいた一総くんは笑顔を向け、こちらを受け入れる体勢を取ってくれた。これ幸いと、私は彼の胸の中へ飛び込む。
一総くんの体温と匂いに包まれ、意外と筋肉のついている胸板の感触が伝わってくる。それらすべてが私を興奮させ、壊れた水道のように“幸せ”という感情がドバドバ溢れ出た。
一生このままでいたいと本気で考えてしまうくらい、今の状況は最高のものだった。
しかし、それは叶わぬ夢である。
「公衆の面前なんだから、いい加減に離れたら?」
背後からカインの声が聞こえた。振り向くと、呆れた表情の彼が立ってる。
「そうだな。名残惜しいけど、そろそろ離れた方がいい」
指摘を受けたせいで周囲の目が気になったのか、一総くんも照れた様子で同意の言葉を吐く。
頬を染める一総くんを拝めたのは大変ご馳走さまだけど、ハグが中断させられたのは残念極まりない。私は、それをなした首謀者に恨みがましい視線を向けた。
首謀者カインは苦笑いを溢す。
「そんな睨まないでよ。ボクは常識的な意見を述べたまでだよ?」
愛の前に常識なんて通用しないんだ! そう返したいところだったけど、私はその言葉を呑み込む。一総くんは目立つのを好まない人だから、カインの意見に賛同すると考えたためだ。彼と意見が対立するのは避けたい。
私は仕方なしと一総くんの片腕を取り、そのまま抱きついた。無論、胸を押しつけるオプションつき。それなりの自信を持つ双丘が潰れ、彼の腕の感触と体温が伝わってくる。
これを嫌う男がいるだろうか。いや、いない。
実際、一総くんも、
「司、引っつきすぎじゃないか?」
と苦言を呈すものの、抵抗はまったくなかった。彼も男の子というわけだ。
こういうスキンシップを好かない女子もいるらしいけれど、私はそんなことない。むしろ、グイグイいっちゃうタイプ。こうして肌と肌を触れ合う行為をすると、とても心が満たされる。今だって心臓がドキドキと脈打ってて、一総くんにバレたら照れくさいなと思ってるくらいだ。
まぁ、バレたらバレたで自分の気持ちが伝わるということだから、恥ずかしくも嬉しいんだけど。
私たちは三人で通学路を歩く。道中で話すのはもっぱら私とカインで、一総くんは相づちが大半。といっても、彼を蔑ろにしているわけではない。彼はこれで楽しんでいるし、このスタイルが私たちの常なのだ。
学校が近づいてくると、周囲の学生も増えてくる。腕を組む私たちは視覚的に結構目立つんだが、それを気にする生徒はあまりいない。ほぼ毎日同じことをしてるから、みんな見慣れてしまってるのだ。
すると、人混みをかき分けて、一人の少女が近寄ってきた。栗色のツインテールと黒縁メガネが特徴的な後輩、
「おはようございます、一総センパイ」
「おはよう」
愛らしい顔に満面の笑みを乗せて、彼女は真っ先に一総くんへ挨拶をする。彼が返事をすると、さらに笑顔が輝く。
見て分かる通り、彼女も一総くんに惚れてる。すでに告白もしてて、私という恋人が存在しても諦める様子がないほどゾッコンだ。
普通なら危機感を覚える相手なんだけど、私は真実ちゃんのことを容認している。
何故ならば、彼女が本気で彼を愛してるのが伝わってくるし、好きな人と寄り添うために努力し続ける真実ちゃんに好感を覚えてるから。私が嫉妬しにくい性格というのもあるだろう。だから、私を蔑ろにしない限り、彼女には好きにさせている、
カレシの立場からすると、色々と複雑な心境を抱いているみたいだけどね。
「司センパイとカインセンパイもおはようございます」
一総くんとの挨拶を終えた真実ちゃんは、私たちにも声をかける。
「「おはよう」」
私たち二人が異口同音に返すと、彼女はジッととある点を見つめた。私と一総くんが組む腕だ。
それを認めた私はニヤリと嫌らしく笑う。
「うらやましい?」
そう言って、いっそう彼の腕を強く抱きしめた。
対して、真実ちゃんは眉間にシワを寄せる。
「むぅ。司センパイ、分かっててやってるでしょう? 性格悪いですよ」
「えー、何のことかなー?」
私が精いっぱい惚けてみせると、彼女はさらに眉間のシワを深くした。表情に怒りの感情が宿る。
「むぅぅぅぅぅ、性格悪すぎます。司センパイばっかりズルいですよ!」
「だって、一総くんは私のカレシだもん」
「それはそうですけど……。やっぱり、司センパイは意地悪です!」
地団駄を踏む真実ちゃんを見ると頬が緩む。
私は別にSっ気があるわけではないけれど、真実ちゃんをからかうのは楽しく感じてしまう。たぶん、彼女の反応が良いからだろう。
とはいえ、このままで終わらせるのは後味が悪い。からかった分はちゃんと返済する。
「ふふふ。じゃあ、反対側の腕を好きにする権利を進呈しましょう」
「さすが司センパイ。センパイ以上に性格のいい人間は知りません!」
私が提案すると、真実ちゃんは驚くべき速度で手の平を返した。もう見事なまでの変わり身の早さだった。手の平を返しすぎて千切れてしまうんじゃないかってくらい。そんな欲望に素直なところも可愛らしいんだけど。
「では、失礼して」
いつの間にやら一総くんの隣まで移動していた真実ちゃんは、彼が何か言い出す前にその腕へ抱きついてしまう。
一総くんは疲労感たっぷりに言葉を溢す。
「オレに決定権はないのな」
「両手に花で嬉しいでしょう?」
「……また答えにくい言い方を」
私がにこやかに問うと、彼は苦笑い気味に返した。
気心知れた美少女の真実に抱きつかれて嬉しくないはずがないけど、カノジョの私のことを考えると素直に肯定できないってところかな。確かに答えられるはずがない。幸せが天元突破しすぎて、少し意地悪がすぎたみたいだ。
「調子に乗りすぎたみたい。ごめんなさい」
反省の言葉を口にすると、一総くんは肩を竦める。
「謝ってくれたなら構わないさ」
「一総くん……」
「司……」
私たちは見つめ合い、そのまま──
「あのー、私のことを忘れないでくれます? 一応、腕に抱きついてるんですけどー」
「それを言うなら、ずっと一緒に登校してたボクもだよ。さっきから忘れ去られてたからね」
真実ちゃんとカインのうろんげな眼差しが突き刺さる。
「そういえば、通学中だったな」
「あはは、お預けだね」
私たちは空笑いしながら、近づいていた顔を話す。
うん、分かっていたさ。こんな通学路のど真ん中でキスができるわけがない。どうにも、今朝の私のテンションは高すぎた。
その後はハプニングもなく学校へ辿り着く。両手に花状態で多少の注目は浴びたが、私たちの関係は周知されているので、大きな問題には発展しなかった。
学年、クラスの違うカインや真実ちゃんと別れ、私たちは自分たちの教室へと入る。クラスメイトたちと挨拶を交わし、そのまま自分の席へとついた。
ちなみに、私と一総くんは隣同士だったりする。
朝のホームルームまでクラスメイトを混えて駄弁ってると、私の後ろの席の生徒が時間ギリギリに登校してきた。
黒長髪で小柄な美少女──
「おはよう」
私たちがそれぞれ返事をすると、彼女は小さな口を開いてアクビを漏らした。目尻に涙が浮かぶ。
「またギリギリまで寝てたの?」
顔色からの判別は難しいが、今の態度で察しがついた。
私の言に、蒼生ちゃんはコクリと頷く。
「うん。起きたの、ついさっき」
「今日はどうして? 夜更かしでもした?」
「ううん。ただ起きれなかっただけ」
「目覚ましは?」
「起きたら壊れてた。不思議」
「そ、そっか」
淡々と語っているが、高校生にもなって一人で起床するのが危ういのは如何なものだろうか。
とはいえ、これは今日に始まった話じゃない。見た目はクールな美少女の蒼生ちゃんは、その実、生活能力がかなり低いポンコツ娘なんだ。今の会話の通り、一人で起きるのも困難を極めるし、家事全般も壊滅的。だのに、一人暮らしをしてるものだから、友だちとしては心配が絶えない毎日だ。一応、練習はしてるんだけれど、独り立ちできるレベルは遠い。
私と蒼生ちゃんの会話を聞いてた一総くんが尋ねる。
「じゃあ、村瀬は朝食を食べてないんだな?」
「うん、はらぺこ」
蒼生ちゃんの返事を受け、彼は自身の荷物をあさる。そして、ひとつの包みを彼女へ渡した。
一総くんは言う。
「オレの朝食の残りだ。時間を見て食べておけ」
「ありがとう」
「いつものことだから気にするな」
蒼生ちゃんのお礼に対し、彼は手を軽く振って答える。
一総くんの発言から分かるように、彼は蒼生ちゃんの朝ごはんを毎日用意してる。何なら三食全部まかなってるし、彼女の家の掃除や洗濯もこなしてる。
私生活がダメダメな蒼生ちゃんを私たちがサポートしているんだけど、その大半は一総くんが担当してるんだ。彼曰く、『何か放っておけない』らしい。
言わんとしてることは理解できる。蒼生ちゃんは、どことなく保護欲をそそる。何でも卒なくこなしてしまう一総くんからすると、ついつい面倒を見てしまう相手なんだろう。
「蒼生ちゃん、もうすぐホームルームなんだから、今は食べない方がいいよ」
ほのかに香る美味しそうな匂いのせいで我慢できなかったのか、包みを開けようとする蒼生ちゃん。私は慌ててそれを静止する。
「……残念」
心からションボリする彼女を見ると許可を出したくなるが、グッと堪えた。
色々と世話を焼く一総くんの気持ちがよく分かる。こういうところが、手を焼こうという気分を湧かせるんだ。
大人しく席についた蒼生ちゃんを見届けて安堵した瞬間、一総くんと視線が重なった。彼も安心した風な表情をしてて、同じ心境だったことが理解できた。それが何となくおかしくて、お互いに笑みを溢すのだった。
授業は滞りなく進み、お昼休みになった。私たちは昼食を取るために生徒会室へ訪れている。というのも、会長である
室内にいるのは顔なじみのメンバー。私、一総くん、カイン、蒼生ちゃん、真実ちゃんの五人。呼び出した本人の桐ヶ谷先輩は、まだ姿を見せていない。
昼食だろう菓子パン類を取り出しながら、真実ちゃんが言う。
「私たち、何で呼ばれたんでしょうかね?」
「言っておくと、呼ばれたのはオレと司、村瀬の三人であって、他はオマケだからな」
「別にいいじゃないですか、私とセンパイは一心同体なんですし。センパイを呼べば私がついてくるのは自明の理です」
「オレとキミは一心同体なんかじゃないぞ」
「つれないですねぇ」
二人が繰り広げるいつものコントをBGMに、私は昼食の準備を進めてしまう。他のメンバーも同じ。彼らのアレは放置が一番だと、全員が理解しているんだ。
私とカインは、カインのお母さんが用意してくれたお弁当。あの外国人然とした見た目からは予想できない、純和風のレパートリーが詰まってる。彼女、かなりの日本フリークだったりする。
残る一総くんと蒼生ちゃんは、一総くんの手作りお弁当。まだ中身は見てないが、毎日しっかりした内容なので、今日も美味しそうな料理が入ってるに違いない。正直、蒼生ちゃんがうらやましい。私も頼めば作ってくれるかしら?
そんなことを考えてる内に昼食の準備は終わり、あとは桐ヶ谷先輩を待つだけとなった。一総くんたちのジャレ合いも、いつの間にか終わってる。
「先輩、遅いね」
手持ちぶさたになったからか、カインが誰に尋ねるでもなく呟いた。
それに私は頷く。
「だね。お昼休みに来るよう言われただけで、細かい時間指定はされてなかったけど……何かあったのかな?」
しかし、それは杞憂だった。
「ごめんなさい、遅くなったわ」
当の桐ヶ谷先輩が、生徒会室へ姿を現したためだ。彼女は申しわけなさそうに頭を下げてる。
それに対し、一総くんが口を開いた。
「謝る必要はないですよ。それより、オレたちを呼び出したのって、後ろの人に関連した内容ですか?」
彼の言葉を受け、私は初めて桐ヶ谷先輩の背後──生徒会室の入り口付近に人影があることに気がついた。
その人は外国の少女だった。長い銀髪に白い肌、赤い目──絵本から飛び出したような、儚くも美しい容姿を持った女性だ。思わず息を呑むほどの美貌である。
おそらく私たちと同年代だろうけれど、彼女に関連した話とは何なんだろうか?
私が疑問を抱いている間にも、桐ヶ谷先輩は話を進めていく。
「ええ、その通りよ。今から紹介するわね」
そう言って、桐ヶ谷先輩は銀髪美少女の入室を促し、彼女は私たちの前に出てきた。
少女を指しながら、先輩は語る。
「彼女の名前はミュリエル・ノウル・カルムスドさん。明日から一総たちのクラスに配属される転入生よ」
「なるほど」
得心した。私たちが呼ばれたのは、カルムスドさんの面倒を見てほしいという話をするためだろう。彼女は見るからに外国人。きっと生活に困る場面が多々あるはずで、同級生である私たちに話を通しておくのは助力になる。
そのように納得したのは私だけではなく、他の面々も静かに頷いてた。
ただ、一総くんだけは些か反応が異なった。「ミュリエル、カルムスド……?」と彼女の名前を呟き、何かを思い出すみたいに頭を傾いでる。
すると、そこで唐突な行動に出る者がいた。
「カズサ、会いにきたわ!」
なんと、カルムスドさんが一総に抱きついたんだ。
あまりに突拍子もない出来事だったせいで、全員の反応が遅れた。
そんな中で真っ先に動いたのは、渦中の人である一総くんだった。彼は胸に飛び込んできたカルムスドさんに目を見開き、言葉を溢す。
「やっぱり、ミュリエルか?」
それを聞いて目を輝かせるカルムスドさん。
「そうよ。お久しぶりね、カズサ!」
「ああ、本当に久しぶり。まさかオレの学校に転入してくるとは」
「カズサに会うために、来日しちゃったわ」
会話から察するに、二人は知り合いらしい。しかも、結構親密そう。
むぅ、私は一総くんからカルムスドさんの話を聞いたことないんだけれど?
抱き合う二人に対して滅多に発生しないジェラシーを感じてると、固まってた他の面々も動きだす。
「ちょ、ちょっと。一総センパイに抱きつくなんて、どういう了見ですか! うらやまけしからんですよ!」
「そういえば、幼馴染みとか言ってたわね」
「……だいたん」
「あはは、カズサくんはモテるね」
真実ちゃんがカルムスドさんを引きはがしにかかり、桐ヶ谷先輩は呑気に傍観を決め込み、蒼生ちゃんはいつも通りで、カインは苦笑を溢す。
真実ちゃんが無理やり引きはがそうとするものだから、カルムスドさんも眉間にシワを寄せて抵抗を始めた。
「あなた、急に何ですか? アタシとカズサの感動の再会を邪魔しないでちょうだい!」
「感動の再会にハグは必要ありません。私の目が黒い内は、そういった行動は阻止させてもらいます!」
「何であなたに従わなくちゃいけないのですか? これはアタシとカズサの問題です!」
「一総センパイが絡むなら、私の問題でもあるんですぅ!」
とうとう取っ組み合いを始める二人。
さすがに手が出たら止めないわけにもいかないのか、桐ヶ谷先輩が仲裁に入る。──が、それだけでは止め切れず、一総くんや蒼生ちゃんも駆り出される事態に発展した。
見てるだけでお腹いっぱいになりそうな、混沌とした状況だった。
「あれ、放置してていいの?」
私と同じく傍観してたカインが、そう尋ねてくる。
私は肩を竦めた。
「あの中に飛び込めるほど、私は武闘派じゃないから」
一総くんのカノジョとして参戦すべきなんだろうけれど、あの戦いに飛び込めば、一瞬で薙ぎ払われてしまうのは目に見えている。私は頭脳労働派なんだ。
ところが、そうは問屋が卸さないのが現実というもの。
「でも、向こうは放っておいてくれないみたいだよ」
カインが空笑いで指摘するのと同時、真実ちゃんが蒼生ちゃんによって羽交い締めにされている状態で、こちらを指差してきた。
「あの人は一総センパイの恋人です。ハグをしたいんだったら、あの人に許可を取ってください!」
「何ですって!?」
カルムスドさんの鋭い眼光が私を射抜く。
……やってくれたね、真実ちゃん。このお返しは大きいよ?
私は笑顔を引きつらせつつ、嫌々ながら渦中へ歩み寄っていく。カルムスドさんの視線は鋭く、緊張でお腹が痛くなってくるけど、こうなっては仕方がない。腹をくくるしかないんだ。
でも、できれば手心を加えてくれると嬉しいな。私、本当に腕力は絶無に等しいから。
私と一総くんの日々はいつも騒がしく、それでも温かい。
これが私たちの日常。平和で平穏で平凡。代わり映えのない毎日だけれど、それが嬉しくて楽しくて、とっても幸せだった。
私の日常は、こんな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます