005-1-01 霊力溢れる世界

 地平線まで続く広大な草原。人工的な代物は何ひとつ認められず、自然の豊かさが感じ取れる場所だった。


 その真っ只中に、白く発光する円柱が出現する。その煌めきは次第に強くなっていき、ついには目がくらむほどの光を周囲にもたらした。


 だが、それも数秒の間だけ。先ほどまでの光は嘘のように消え去った。


 その代わり、草原に現れたものがある。四人の人間だ。男一人に女が三人という組み合わせ。


 一人は黒長髪に勝色の目をしていて、一番低身長ながら胸部がもっとも豊かな少女。恐ろしく整った容姿は無表情も相まって、作りものめいた雰囲気を醸し出していた。


 二人目はアップテールにまとめたホワイトブロンドが特徴の女性。容姿および体型は黄金比と称しても過言ではないほど優れており、浮かぶ柔らかい表情も加わって、とても華やかな印象を受ける。


 三人目、栗色ツインテールに黒縁メガネの少女は、他の二人に比べると地味に見える。しかし、間違いなく二人に並べるレベルの器量を備えており、愛らしさは十二分にあった。


 このように三者三様の美を持つ女性陣だが、残る男は酷く影が薄かった。


 目鼻立ちはそこそこ整っているものの、平均的日本人と変わらない顔。引き締まっているが、中肉中背という風に見える体つき。放たれる覇気は乏しく、人混みに入れば一瞬で姿を見失ってしまうだろう。


 彼らの名は順に、村瀬むらせ蒼生あおい天野あまのつかさ田中たなか真実まみ伊藤いとう一総かずさと言う。全員、異世界を救った経験のある勇者であり、一総に至っては千を超える世界を渡った『異端者』だ。


 歴戦の猛者たる一総たちが、今いる世界に訪れたのには理由がある。先日、一総がこの世界に残していた使い魔より、救援信号を受信したからだ。世話になった恩人を助けるため、わざわざ世界を超えてきたのである。


 周囲と連れてきた面々の確認を終えた一総は、ひとまず安堵の息を吐く。


 自分以外の人間を連れて異世界へ転移したのは初めての経験だった。失敗はないと自負していたとはいえ、全員の安全が認められれば安心もする。


 そんな彼の心境を余所に、他の三人は周りをキョロキョロと眺めていた。初めて訪れた世界ということで、好奇心が勝っている様子だった。


 特に、蒼生と真実は忙しない。片や異世界での記憶がなく、片や一度しか異世界へ行った経験がないゆえだろう。


 ふと、何もない景色を眺めながら真実が言う。


「見た感じは元の世界と大差ないですけど、やっぱり異世界に来たって分かりますね。肌触りというか、空気が違います」


「その感覚は、大気に霊力が満ちてるから感じるものだろう。ここはオレが行ったことのある世界の中で、ダントツに霊術が発展してるからな」


 元となる力が大量にあるからこそ、この世界は霊術によって支えられてきた。魔術も存在するのだが、かなりマイナーな扱いを受けている。


 すると、司が興味深そうに会話へ入ってくる。


「一総くんの使う魄法はくほうだっけ。……あの異能はこの世界で習得したの?」


「ああ、そうだよ。というより、この世界以外で魄法があるって話は聞いたことがない」


 霊術の上位に位置づけられる魄法。一総は例外的な手段で手に入れたが、その習得は困難を極めるものだ。おそらく、よほど霊術を発展させた世界でもないと、存在を認知することさえ叶わないのだと思われる。


 一総の返答を聞くと、司は「ふーん」と満足そうに頷いた。


 司が何を考えているのか、大体の予想はつく。彼女の生涯の目標は不老不死になること。肉体方面は得意の錬成術でクリアできているため、魂方面の課題を乗り越える可能性を持つ魄法を学んでおきたいのだろう。


 一総はこの世界の問題を手早く片づけるつもりなので、魄法を習得できるほどの時間が残っているとは思えないが、それを口にはしなかった。一総の帰還速度は司も知るところだし、彼女の研究を手伝う気など一切ないからだ。不老不死に関して、彼は否定派の立場なのだ。


 一総は「さて」と気持ちを改める。


「いつまでも立ち止まってても仕方ない、そろそろ移動をしよう。ここだって絶対安全なわけじゃないんだから」


 彼の発言に他の三人は首肯し、一行は近場の村へ向かって歩き始める。


 一総たちが転移した場所は、目的地であるカルムスド霊魔国とバァカホ王国の国境――より霊魔国寄りの土地。ここは昔から人目が少ない場所で、転移してきても騒ぎにならないと踏んでの選択だった。


 人が少ないということは、害獣などの人以外の脅威が存在するわけだが、一総たちにとっては問題にならない。


 実際、


「センパイ、あれって何ですか?」


霊獣れいじゅうだ。霊力を大量に蓄えた獣が進化したモノって言えばいいのかな。霊力版の魔物と捉えてくれ」


「へぇ。ということは、倒しちゃってもいいんですね?」


「問題ないよ」


「じゃあ、私たちでやっちゃおうか。この世界での戦いに慣れておきたいし、どの異能が使用可能か確認しておきたいもんね」


「そうしましょう」


「わかった」


 ダンプカーくらいの大きさがある白虎が目の前に現れたのだが、四人は平然とした顔で会話を交わしていた。試金石として戦おうと言っているほどなのだから、その余裕は推して知るべし。


 女性三人が虎の前に踏み出す。


 彼女たちの並々ならぬ気配を察したのか、白虎は牙を剥き出しに唸り、警戒を強めた。白毛の周囲に稲妻のような白光がほとばしる。


「結構強そうですけど、どういった感じで行きます?」


「いつものコンビネーションで良くないかな?」


「いつも通りで問題ない」


「それもそうですね」


 莫大な霊力を放って威嚇する白虎だったが、そんなもの気にも留めず、少女たちは簡単な打ち合わせを終えた。


 そして、一瞬で気軽な空気が切り替わる。


 始めに動いたのは司だ。まったくの予備動作なく錬成術が発動し、白虎の四肢が置かれた地面が陥没した。ご丁寧にそれぞれの深さが異なる仕様のため、白虎の体勢は大きく崩れる。


 間髪入れずに真実が魔法を繰り出す。風の精霊魔法によって撃ち出された無数の風刃が、白虎を細切れにする勢いで襲った。


 全身から血を吹きだす霊獣だが、それで終わりではない。司が異能を行使する時には走り出していた蒼生が獣に肉薄。身体強化を何重にもかけた拳を顔面に当て、膝蹴りをあごへ放り込み、浮き上がった体へ後ろ回し蹴りをぶち入れた。


 攻撃の威力を余すことなく肉体に受け止めた白虎は、数瞬だけ虚空に停滞。その後すぐに爆発四散した。空気と肉が弾ける音が響き渡り、血と臓物が草原を真っ赤に染め上げる。


 目の前にいた蒼生にも血肉が降りかかってしまうが、心配はいらない。異能具いのうぐにより常時展開している防御結界がそれらを阻んでくれるため、彼女が血みどろになることはなかった。


 数秒の残心、それから構えを解く蒼生。


 すると、パチパチパチと拍手が鳴った。音の出どころは一総だ。


「いい手際だったよ。修行の成果が出てるじゃないか」


 彼の笑みを受けて、三人はホッと胸を撫で下ろす。


 一総の言うように、今の連携は修業して身につけたものだった。


 桐ヶ谷きりがやの一件から二ヶ月、平和にかこつけて何もせずすごしてきたわけではない。あれ以来、それぞれに足りないものを訓練したり、今のようなコンビネーションを練ったりしていたのだ。一総の協力もあって、三人の腕前はかなり上達していた。


「今の虎って、どれくらいの強さでした? パッと見だと、そこそこ強そうな気がしましたが」


 面々の中で、一番『眼』の良い真実が問う。


 一総は口元に手を添え、答える。


「勇者で比較するなら、トリプルだといい勝負できると思う」


「トリプルと同等って、かなり強くありません? もしかして、今の虎って世界の主とか、そういう類でした?」


 勇者の異能の数イコール扱う世界の法則の数だ。ひとつの世界に留まる生物は、その枠に収まった強さを有するのが普通。稀にダブル程度の強者が発生することはあるが、それ以上になると異常事態と言っても良い。それこそ、伝説級の化け物と恐れられるレベル、もしくは勇者が呼び出される原因になった世界の脅威か。


 だから、真実の予想は当然のものだったのだが、一総は首を横に振って否定する。


「災害指定の霊獣ではあるけど、これくらいの霊獣はゴロゴロいるぞ。一年に数回、国で討伐隊を組むくらいだし」



「えぇ!? それってパワーバランスがおかしくありませんか?」


 真実が調子の外れた声を上げる。話を聞いていた蒼生や司も瞠目どうもくしていた。


 普通であれば伝説と評される怪物が、この世界では年に何度も出現すると言われたのだから無理もない。


 一総は肩を竦める。


「この世界は、全体的に強さのレベルが数段上なんだよ。霊獣だけじゃなく、人間たちもな。理由は分からないが、大気に溢れる霊力に因果関係があるのかもしれない」


 掃いて捨てるほど存在する霊力が、他の世界との違いなのは間違いない。調査するつもりもないので、気にしても仕方がないのだが。


 すると、司が不思議そうに呟いた。


「一総くんが言う強さの割には、簡単に倒せちゃったよね。三人で相手したとはいえ、トリプル相当を瞬殺しちゃったじゃない」


「それは対処の仕方が的確だったからさ」


「的確?」


 首を傾ぐ蒼生に、一総は続ける。


「あの霊獣は雷を扱う能力を持ってて、腕力と機動力が持ち味なんだよ。だから、足元を崩したり、初撃で四肢へ重点的にダメージを与えたのは最適解だった。それをしてなかったら、もう少し苦戦したと思うぞ」


 初手で白虎の動きを封じていたからこその完勝だ。もし、司や真実が別の手を使っていたら、近接戦闘をできるのが蒼生しかいないので、敵のパワーとスピードに翻弄されていただろう。


「もしかして、拘束も効かなかったかな? 初手はどっちにしようか悩んだんだよね」


「一瞬で抜け出されてたな。あいつの動きを拘束するなら、拘束特化の異能を使わないと難しい」


「紙一重だったんだね。選択ミスしなくて良かったよ」


 司はホッと胸を撫で下ろした。


 話の区切りがついたところで、一総は言う。


「そろそろ移動しよう。血の臭いを追って、他の霊獣が集まってくる」


「今の戦闘じゃ物足りないので、私としてはウェルカムなんですけど」


 やや戦闘狂バトルジャンキー寄りの発言をする真実だったが、それに対して一総はかぶりを振る。


「群れに囲まれる可能性もある。この場からは離れるべきだ。それに、霊獣との戦闘であれば道中で何度かできるよ。この辺は人の手が介入してない地域だから、野生種が多いんだ」


「そういうことなら、私も言うことはないです」


 真実が素直に引き下がり、他の二人も異論はなかったため、一行は最寄りの村への移動を再開した。


 その後、一総の言った通り道中では数回の戦闘が行われた。兎や鳥、熊などの様々な種の霊獣と相対し、勝利を収める。先の虎ほど強い敵は現れなかったので、あえて先手を譲ったりして、この世界の戦い方へ慣れていった。


「この世界での戦闘の要は、真実ちゃんだね」


 六度目の戦闘を終えた時、司がそう呟いた。


 蒼生も「同感」と首肯する。


 それを受けた真実は、少し戸惑い気味に首を傾げた。


「そ、そうですか? 私よりも司センパイや蒼生センパイの方が貢献してるように思うんですけど……。風の精霊魔法って威力低い上、この世界だと魔法は少し使いにくいですし」


「確かに攻撃力では蒼生ちゃん、補助では私が優ってるよ。でも、対霊術戦闘に置いて、もっとも重視したいのは索敵能力なんだよ」


「まみの眼が必須」


 たとえば、今さっきの戦闘。敵対したのは、コンドルに似た形状をした全長五メートルもある霊獣だった。錯乱効果を含んだ極薄の霊波──霊力をそのまま放射すること──による攻撃を主としており、奴自身が空を飛んでいるのもあって討伐が難航した。


 その際に一番役に立ったのが真実だ。彼女の眼には霊波がハッキリと映っていて、適宜指示することで攻撃のほとんどを回避できた。


 他の五回の戦闘も同様。蒼生たちでは認識困難な霊術を真実のみは捉えており、彼女がいなければ、負けはせずとも負傷はしていたはずだ。


「霊力は、魔力以上に物質世界から遠いモノだからなぁ。肉眼で確認するのが難しくても仕方ない。むしろ、この短期間でしっかり認識できてる真実が異常だ」


 そう一総が補足すると、真実は苦笑いを溢した。


「異常って酷くないですか? まぁ、私自身も不思議に思ってるんですけどね。最初は薄っすら見える程度だったのに、三度目の戦闘辺りからは霊力が完璧に視認できるようになりました。とはいえ、戦う時は便利なんですけど、普通にしてる時は大変なんですよ。一総センパイが言った通り、この世界の霊力濃度が高すぎて目がチカチカします」


 その翡翠の目をパチパチと瞬かせる彼女の言葉を聞き、一総は呆れた様子を見せた。


「オンオフができてないのか。あー……でも、独力で身につけたのなら仕方ないのか?」


「どういうこと?」


 蒼生が問いかける。


 彼は肩を竦めた。


「すでに、真実は霊術を使ってるんだよ」


 一総の言に蒼生と司は目を丸くして驚くが、それよりも驚愕を露わにしたのは当人である真実だった。


「えええええ、本当ですか!?」


 声を上げて動揺する彼女に、一総は小さく頷く。


「本当だとも。正確には術というよりも、霊力のコントロールだけどさ」


 彼は説明する。霊術にも魔法の【身体強化】のような代物が存在していて、体の部位に霊力を集中させることで能力を向上できる。向上できる中には感覚機能も含まれており、眼へ霊力を集めれば、普通なら見えづらい霊力を視認できるというわけだ。


「つまり、今の真実ちゃんは、眼に霊力を集中してる状態なんだね」


「それも体中の霊力を一点に集中してる。元々所有してる魔眼の影響もあるんだろうが、ここまで一箇所にまとめ上げたものは、めったにお目にかかれないな」


 もうちょっと練度を上げたらオレの眼にも匹敵する能力を発揮できそうだ、と心の裡で溢す。


 一総の眼は魂を見とおすもの。そこまで言わしめる真実の眼は、相当の力を有しているということだ。扱いを慎重にさせるためにも、彼女にはきちんと霊術を学ばせる必要があるだろう。


「このまま放置するのも危ないし、オレが手を貸そう。あとで霊術の使い方も教える」


「いいんですか?」


 嬉しそうに尋ねる真実へ、彼は頷き返した。


 早速、真実の眼に極集中している霊力を分散させるため、一総は行動を開始する。


「少し我慢してくれ」


 断りを入れつつ、真実の顔を包み込むように彼女の両頬へ両手を当てた。


 真実は「ふぇ」と素っ頓狂な声を上げて顔を真っ赤にしているが、そんなことは気にも留めず作業を続ける。


 やることは簡単。一総の霊力を真実の体内へと通し、眼に溜まっている彼女自身の霊力を流してしまうのだ。他人の霊力が体に入れば違和感を覚え、霊力の感じ方も習得できる。一石二鳥の方法だった。


 真実の瞳をじっと見つめ、ゆっくり両手から霊力を通していく。頬から眼へ霊力は移動していき、少しずつ眼に集まっていた霊力が押し流されていった。じわりじわりと彼女の霊力は全身へと戻る。


 そうして、たっぷり五分かけ、真実への処置は終了した。


 小さく息を吐きながら、彼女の顔から両手を離す。


「よし、終わったぞ。これで無駄に霊力が見えることはなくなったと思うが、どうだ……って、なんだこの空気は?」


 真実へ調子を尋ねようと口を開いた一総だったが、周囲の空気が妙なことに気がついた。真実は湯気を出しそうなほど顔を赤くしているし、他の二人も若干頬を染め、こちらから目を逸らしている。


 しばし状況を掴めなかった一総だったが、自分の行動を振り返ることで察しがついた。


 年頃の少女──しかも、自分へ好意を寄せている真実の顔を包み、間近で見つめ合ったのだ。ただならぬ雰囲気になるのも必然だった。もしかしたら、キスをするのではと勘違いされたのかもしれない。


 一総は慌てて弁明する。


「すまない、特別な意図を持った行動じゃないんだ。眼に溜まってた霊力を押し流すために必要なことだったんだよ。症状は緩和しただろう?」


「は、はい。薄っすらとしか見えなくなりましたね」


 話しかけられた真実は未だに顔が赤いものの、何とか返事をした。辺りをキョロキョロ見渡し、問題ないと答える。


「それなら良かった。早速だけど、次のステップに移ろう」


 一総の言葉に、真実は首を傾ぐ。


「もう霊術の訓練ですか? それよりも、ここから移動した方がいいのでは?」


 今までは戦闘後すぐに場所を移していたので、彼女の疑問は当然のものだ。


 しかし、一総も考えなしに提案したわけではない。


「片手間にできる修行なんだよ。だから、今教えておきたいんだ」


「移動中にやれってことですか」


 真実は得心した様子を見せる。


 それを認めた一総は、手早く修行方法の説明を始めた。


「まず確認なんだが、体内に魔力以外の何かが巡ってる気配を感じられるか?」


「えっと……はい。さっきまでは気が動転してて分からなかったですが、妙な感覚があります」


「それが霊力だ。オレが霊力を流し込んだことで、明確に感じ取れるようになったんだ。これからしてもらう訓練は、その体内にある霊力を自在に操るための第一歩だね」


 一総は手の平を上に向けた状態の右手を前に差し出す。それから、右手に巡っている霊力のみを集め、球体を作り上げた。霊力の密度を上げて、普通の眼でも見えやすいように形成しておく。


「最初はこんな感じで、体の一部の霊力をコントロールしてみよう。利き手だと操りやすいはずだ。渦を巻くように集めると球体を維持しやすい」


「それを移動中にやっておけばいいんですね?」


「その通り。案定して作れるようになったら言ってくれ。次の訓練方法を教えるから」


「分かりました!」


 元気良く答える真実に、一総は鷹揚に頷く。


 すると、黙って見守っていた司が口を開いた。


「ねぇ、一総くん。その修行、私たちもやってみたいな」


 興味深そうな目を向けてくるのは残る二人。どうやら、好奇心が刺激されたらしい。


 一総としては、教えるのもやぶさかではないのだが──


「今は無理だ。司や村瀬まで修行を始めたら、周囲を警戒する人員がいなくなってしまう。オレがやるって手もあるけど、それをすると君らの成長に繋がらないだろう?」


 今後の敵に備えて、できるだけ彼女たちには強くなってもらいたい。真実の場合は緊急性があったから教えたが、蒼生たちは違う。教授するにしても、もっと落ち着いた場所で行うべきだ。


 その辺の話をすれば、残念そうな表情をしながらも二人は納得した。


「残念」


「あとで教えてもらえるなら、今は我慢するよ」


 司の執着が強い気がする。


 それも無理はないか。霊術は不老不死の足がかりとなる術式なのだから、必死になるのも当たり前だった。


 その必死さが些か気にかかるが、今のところ暴走する様子もない。心の隅に留めておくだけで大丈夫だろう。


 話すべきことは終えたので、一総たちは再び歩き始める。


 四人が近場の村へ辿り着いたのは、それから二度の戦闘を交えた後だった。

 

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