004-2-03 侑姫の人柄(3)
その後は射撃やレース、格闘などなど。多種多様なゲームを巡っていった。想像以上に盛り上がり、楽しい時間をすごせた。
ただ、
そんなこんなで、侑姫が次に案内したのはリズムゲームのエリアだった。他の場所よりも一層音が激しく鳴っている気がする。
「今度はリズムゲームをやりましょう。これも対戦できるけど、今までのよりは平和的でしょう?」
「音楽で勝敗がつくのはいいですね」
「でしょ。私も熱くなっちゃって悪いと思ってたから、普通に遊べるのを選んだつもり」
頭が冷えたため、謝罪の意味を込めて一総の嗜好を加味したチョイスをしたようだ。今回も勝負を挑まれなくて一安心である。
「どれからやる?」
すっかりゲームの楽しさに魅了された
それを受けた侑姫は微笑ましそうに笑い、答える。
「初心者向きって聞いたのは、あの四つね。とはいえ、村瀬さんはやる気満々みたいだし、好きなのをやってみたら?」
「じゃあ……あれを」
蒼生が指を差したのはダンスゲームだ。画面と踊り場のセットが二つ並んだ代物で、対戦形式も取れる。
侑姫の言った初心者向けには入っていなかったが、蒼生は気にしていないらしい。彼女は早速踊り場に上り、ゲーム開始の準備を進める。
その様子を見ながら、侑姫は渋い顔をした。
「ダンスゲームかぁ。私、これはやったことないのよね」
手本を見せられないと、申しわけなさそうに呟く。
「気にしなくていいですよ。今日は楽しむために来たんでしょう? だったら、先輩も楽しまないと」
「そうね、その通りだわ」
一総の言い分を聞くと、侑姫は元の笑顔に戻った。それから、空いている台の方へ駆けていく。
「村瀬さん、私もやるわ」
「ふむ。じゃあ、勝負」
「え、いきなり対戦するの!?」
姦しく盛り上がる少女二人。
キャイキャイ言い合っている間にも曲選択が終わり、対戦が始まった。
初心者なので難易度はイージー。表示されるリズムアイコンの数は少なく、意地悪い配置も存在しない。しかし、ダンスという慣れない体の動かし方に二人は四苦八苦していた。アイコンを踏み損ねることはないにしろ、どうにも挙動がぎこちない。
何とか完走し、蒼生たちは息を吐く。
結果は侑姫の辛勝だった。
「むぅ、残念」
「結構疲れるわね、このゲーム」
蒼生は若干悔しそうに、侑姫は満足げに台を降りた。
「お疲れ様です」
「ありがとう。次は一総の番ね」
労いの言葉をかけると、侑姫がそう言ってきた。
一総はためらい気味に返す。
「オレもやるんですか?」
「当たり前でしょ。私たちの情けないダンスを見たんだから、あなたも見せなさい」
「かずさ、期待してる」
「はぁ、分かりましたよ」
二人に願われ、渋々ゲーム台に上る一総。手早く曲と難易度の選択を済ませ、スタートの合図を待つ。
すると、侑姫から声がかけられた。
「ちょ、ちょっと一総。最大難度を選んでるわよ?」
操作を誤ったと考えたらしい。一総は初心者なのだから、そう思うのも当然だが、今回は違った。
「これで合ってますよ」
一総の一言と同時にゲームが開始される。
彼の動きは圧巻だった。軽やかにステップを踏み、鮮やかにターンを決め、合間合間にバッチリポーズを取る。まさに、プロ顔負けのダンスパフォーマンスがそこに披露されていた。
「ッ!」
ラストのステップの嵐を乗り切り、一総はビシッと決めポーズを決める。
その瞬間、歓声が湧いた。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおお」」」」」
いつの間にやら一総のダンスに目を奪われた人々が筐体の周りを囲んでいた。感動の声と拍手の音が、電子音を上回る音量を上げている。蒼生と侑姫の二人も呆然と拍手をしていた。
自分のパフォーマンスが評価されるのは素直に嬉しい。ただ、この熱狂が渦巻く状況を放置すると店側の迷惑に繋がってしまうので、早々に対処へ乗り出す。
気分を落ち着かせる魔法を放ち、続けてこの場から立ち去るよう暗示をかけた。効果はすぐに現れ、あれだけ盛り上がっていたギャラリーは大人しくなり、そそくさと店内へ散っていく。
周囲の平穏が戻ったところで、侑姫が掴みかからん勢いで迫ってきた。
「今のどういうこと。何でプロ並みのダンスができるの、一総は!?」
結構繊細な異能を使ったのだが、そんなことよりもダンスの出来栄えの方が興味あるみたいだ。質問をする彼女の瞳がギラギラしている。
「趣味でダンスを嗜んでるんですよ」
一総は当たり障りのない返答をする。
本当は、【舞踊魔法】というダンスのクォリティによって効果量が上下する魔法が存在する異世界に訪れたことがあり、その過程でダンスをひたすら練習したのだ。だが、その異世界は公表している十回以降のことなので、一総の秘密を知らない侑姫には話せない。
とはいえ、帰還後も【舞踊魔法】の鍛錬はしているから、ダンスを嗜んでいるという発言は強ち嘘ではない。ヒップホップ、ブレイク、ロック、タップ、レゲエなどの現代ダンスはもちろん、ワルツやタンゴといったクラッシック系を学んだのは帰ってきてからだ。ゆえに、ギリギリセーフとしておこう。
こちらの内心は悟られなかったようで、侑姫は感心と呆れをない交ぜにした声音で言う。
「あなたって結構芸達者よね。クレーンゲームと言い、このダンスゲームと言い、そつなくこなしちゃうんだから」
「クレーンの方は運が良かっただけですって」
「運も実力の内って言うでしょ。というより、実力ある者には運が向いていくのかも? それなら納得ね」
「勝手に納得しないでください。前から言ってますけど、オレは実力者じゃありませんよ」
得々と頷く侑姫に、無駄と分かりながらも否定意見を述べておく。
侑姫は何かと一総を持ち上げようとする。実際に彼は強者であるが、それを彼女に教えたことはない。初対面時にそれなりの実力を見せてしまってはいるが、それでも並みのフォース程度。彼女の言う「誰よりも強い」といった評価を受ける謂れはないのだ。何を考えているのか謎である。
侑姫の
「かずさ、私にダンスを教えて」
心なし、瞳が輝いているように思える。いつもは海の底の如く
そんな疑問はすぐに解消した。
「アニメのオープニングの振りつけを完璧にマスターする」
お気に入りのアニメ主題歌を上手に踊れるようになりたいとのこと。それだけで目の色が変わるとは、思った以上に彼女はアニメに執心していたらしい。
想定外の事実に驚きつつ、一総は蒼生の頼みを承諾する。
すると、侑姫も「せっかくだから私も」とせがんできた。
ダンスくらい教えるのもわけないので、二人まとめて指導することにする。
「じゃあ、早速行きますか」
「行くって、どこへ?」
一総が声をかけると、侑姫は首を傾げた。
彼は
「どこって、ダンスのできる場所へですよ。近場に貸し出ししてるスタジオがあればいいんですけどね」
「えっ、今すぐ練習するの?」
「善は急げです。とりあえず、一回だけでもやってみましょう」
「私、がんばる!」
「ええ、村瀬さんもやる気満々!?」
最後まで侑姫は困惑していたが、結局はすぐにスタジオへ向かうこととなった。
夕方を手前にして、彼らはゲームセンターを後にする。
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