002-5-03 幕間、知らぬ間の決着
時は、
アヴァロン地下を巡る水路に彼はいた。
「チッ、やっぱり美波とのリンクが解けてる」
舌を打つ少女とも見紛う少年はエヴァンズ
そのせいで『
しかし、そんな延命行為も終わり。魂の繋がりを感じず、いくら連絡を取ろうと反応が返ってこないのであれば、彼の妹の無事は絶望的と判断できた。
魂のリンクで伝えられた彼女の最後の記憶は、
「何があったって言うんだ……」
数々の魔眼持ちを殺してきた犯罪者も妹には情を抱いていたのか、声音には嘆きが混じっていた。
伊波の疑問に答える者などいない。
――そのはずだったのに、返答があった。
「美波さんなら『
「ッ!?」
突然降ってきた声に、伊波は慌てて振り返る。
彼の背後には見知った人物が立っていた。
「何でここに……」
警戒を滲ませる伊波。
逃亡する時に追手には十分気をつけていた。先程から周囲の気配も探っていた。だというのに、目の前の人物は突如として出現したのだ。
気づかぬうちに背後を取られていたことへ恐怖を覚えつつ、伊波は口を開く。
「美波は死んだのか?」
「そうだよ」
ニコニコと笑う
彼は必死に思考を巡らせる。この場から生き残るために。
戦うという選択肢は存在しない。背後を取られた時点で、向こうの実力の方が上であることは明白なのだから。
額に冷や汗をかきながら、彼は尋ねる。
「あなたの目的は何だ? どうしてボクの前に現れた?」
「お礼を言おうと思って」
「お礼?」
予想外の返答に、伊波は眉をしかめる。
目の前の者に礼を言われることなど、何ひとつした覚えがない。
困惑を浮かべる彼の顔を見て、彼女はおかしそうに笑う。
「今回あなたたちが騒動を起こしてくれたおかげで、彼の本当の実力を確かめることができたんだ。だから、そのお礼」
「なるほど……」
今の言葉で、大体を理解した。
彼女は前々から『異端者』の実力を測っていたのだろう。それが伊波たちの行動によって確認できたということ。
しかし、解せない部分がある。礼をするために、わざわざ逃亡中のテロリストの前に現れるだろうか。そういう感性の人物なのだと言われてしまえば返す言葉もないのだが、そうは切り捨てられない。先程から嫌な予感がして堪らなかった。
そして、その予感は的中することになる。
「それじゃあ、目的も果たせたから、お別れだね」
語尾に音符でもつきそうな口調でフィンガースナップを奏でる彼女。
それに連動して、伊波の足元に幾何学模様の描かれた円が発生した。紋様からして魔法陣ではない。
「なっ!?」
驚愕と共に脱出を試みるが、彼の体は一寸たりとも動かない。白い光を放つ円には拘束効果もあるようだった。
焦る彼を、彼女は嘲笑う。
「あなたの持ってる情報を外部に知られるのは、彼だけじゃなくて私としても不都合なの。だから、死んでね」
「お前、最初から殺すつもりで!」
「あなたの前に現れた目的はお礼で間違いないよ。姿を見せなくても殺せたけど、死んだ後に『ありがとう』って言っても意味ないじゃない?」
怒声を上げる伊波だったが、彼女は全く意に介さなかった。
そのような会話の間にも、事態は進行する。
バチバチっと円の模様から稲妻が走ったかと思うと、円の中から白い手が現れた。紙で作ったようなペラペラで真っ白い手が何本も何本も出現し、伊波を包み込んでいく。
「くそ、くそ、くそおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
白い手が伊波を覆い尽くすまで、彼の慟哭は水路に響き続けた。
数分後。追手として一総が放った分身が辿り着いた時、その場に人影は一切なかった。
代わりにあったのは伊波の着用していた戦闘服、彼の魂と思しき残骸、そして――――
「水、炭素、アンモニア、石灰……これは…………」
用途不明の大量の素材が残されていたという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます