001-3-04 赤色の帰路
強盗を無力化してから、店内にいた者は警察から事情聴取を受けることとなった。
水平線へ沈み始める夕陽が街を赤く染める中、
そう、二人だ。一総の隣には
結論から言ってしまえば、勇気からの勧誘を蒼生は蹴った。それはもうあっさりと、「断る」の一言を即答したのだ。その時の場の沈黙や周囲の唖然とした表情は、ある意味面白かったかもしれない。
そういうこともあり、他のメンバーと解散した後も、こうして蒼生は一総の隣を歩いている。
(なんで
夕暮れの帰路。やることもないので、一総は手慰みに考えた。
自分の蒼生へ対する扱いが最低限である自覚はあった。会話は必要事項のみ、手を貸すのは彼女がどうしようもなく困窮した場合のみ。自主的に何かをするのは料理くらいで、ほとんどは文字通り傍にいるだけなのだ。
勇気が一総と役割を代わるならば、もっと目をかけるだろう。実際、勧誘を断られた時も似たようなセリフを続けていた。
それでも、蒼生は頑なに勇気を拒絶した。普通、記憶喪失で右も左も分からないのなら、不安から誰かを頼りたくなるものだと思っていたのだが……。
だからこそ、自分とともにいることを蒼生が選んだ理由が分からなかった。
しかし、それを直接尋ねることはしない。「暇だから考察してみる」以上の興味を蒼生へ抱いていないというのもあるし、たとえ訊いたとしても、これまでの彼女の様子から考慮して、要領を得た返答があるとは思えなかったからだ。
蒼生が何を考えているのかは不明だ。だが、多少の厄介ごとと面倒ごとがあるだけで、実害が発生しているわけでもない。それどころか僅かな利点がある。そうなれば、蒼生や政府の意見がない限り、現状維持で問題ないだろう。
結局、大した結論も出ないまま、考察は終わってしまう。元々、手慰みに思考を回しただけなので、それで構わないのだが。
「ん?」
「…………」
一総達の住む学生寮まで次の角を曲がれば一本道だという場所で、彼は足を止めた。覚えのある臭い――別の世界にて頻繁に嗅いだことのある臭気が漂っていたからだ。
蒼生もそれに気づいたようで、いつもの無表情を若干歪ませている。
臭いの発生源は、どうやら
彼らの通っている道は普段から
人のいない道で漂う“アレ”の臭い。嫌な予感どころではない。もはや嫌な確信を持つ。
回り道をするか?
そう思案した一総だったが、すぐにそれを捨てた。
関わりたくはなかったが、ここまで接近しておいて避けることは難しい気がした。一総がこの距離まで気づかなかったことに、何かの作為を感じてしまう。それに
「はぁ……行くぞ」
溜息を
歩を進めるごとに強くなる臭い。強烈なそれから、先に広がる光景が凄惨なものであると推測できる。
そうして、辿り着いた角を曲がる。
見えるは街路樹に囲まれた一本道と終点にある学生寮。そして、その道中、大量の血に塗れた十の死体が転がっていた。
死体を認めると、一総はスマホで政府へ連絡を取りつつ、現場へと近づいていく。蒼生もそれに続く。
犠牲者には見覚えがあった。顔は知らなかったが、服装が昼間の強盗のものと一致する。人数も体格も記憶と同じだし、同一人物に相違ないだろう。
死体の状態はハッキリ言って惨たらしい。身体中に大小様々な穴が開いていて、そこから血液が流れ出していた。
凶器はよく分からない。穴の断面は綺麗に切り開かれていて、並の刃物では作れないものだ。異能で害した可能性が高い。
死亡推定時刻は、それほど離れていないはずだ。流れ出る血が固まっていなく、溢れる臭気が散っていないから。
凄惨な殺人現場を目撃しても、二人は狼狽えない。こんなもの彼らにとって見慣れたものだった。正確には蒼生は覚えていないが、感覚として残っているのだろう。表情に変化はない。
一通りの説明を電話越しに終えた一総は、手を腰に当て息を吐く。
そこへ蒼生が声をかけた。
「これから、どうするの?」
「とりあえず、政府関係者がここに来るまで待機。そのあとは……色々と厄介なことになりそうだ」
周囲へ視線を巡らす一総。
虚空を見つめる彼の瞳は、剣呑な輝きを宿していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます