第10話 もしもえっちなことをしてる最中に異世界転移しちゃったら ⑤

 エウロペの王女、サクラ・アキツキ・ダハーカは、一週間ほど前に行方不明になった大好きな叔母のピノアが無事帰ってきてくれて本当に嬉しかった。


 けれど、女王である母のステラからしばらく部屋にいるように言われてしまい、早一時間が経過していた。


 あの時見た光景はなんだったのだろう。


 ピノアは、サクラと同い年くらいの知らない男の子と裸でいっしょにいて、その男の子の上に、まるで馬にまたがるような体勢をしていた。


 なんだかとても気持ち良さそうな顔をしていたし、かわいい声を出していた。


 あんなピノアを見たのははじめてだった。


 そして、


「はぇ? ……え、えっ、ええー、サクラ!?」


「……うん、サクラだけど。

 ピノアちゃん、何してるの?」


「あ、えーっと……せ、せっくす?

 こ、こうすると赤ちゃんできるんだよ!!」


 確か、そう言っていた。


 赤ちゃんができるということは、新しい命を授かるということだった。

 とても素敵で素晴らしいことのはずなのに、ピノアはなんだかとても焦っているように見えた。


 まるで、見られてはいけないものを見られてしまったような。



 ピノアは、世界中のいろんな国からえっちな服を取り寄せては(国のお金で)、それを幼い頃からサクラによく着せて写真を撮るのが趣味だった。


 主に極西の竜の形をした島国、ジパングから取り寄せたものが多かった。

ジパングでは2~30年ほど前に服飾革命というものが起きており、世界で最も衣類が発達した国だった。

 かつて父が異世界からこの国にやってきたように、異世界からジパングにやってきた女の子が服飾革命を起こしたという。


 その女の子は、この世界にはなかったブラジャーやパンティーと言った下着や、冬になると本当に助かるヒートテックなどを発明した。

 ブラジャーはさらに、脇のお肉を胸に寄せて上げるブラや、フロントホックのものができたりした。

 キャミソールやベビードール、ブラパッド、矯正下着、ニーハイやルーズソックス、さらにはシューズや、ローファー、ハイヒール、ローラー付きシューズといったものも生まれた。


 それから、ジパングではそれらが普段着なのかそれとも正装なのかはわからなかったが、セーラー服やブレザー、体操服にブルマ、スクール水着(旧式。新はない)、メイド服、ゴスロリ、甘ロリ、アキバ風アイドル衣装、ビキニにマイクロビキニ、それをはるかに超えるナノビキニ等といったものを次々と生み出し、さらにそれらを着物とかけあわせたりなどさまざまな衣服を生み出した。


 基本的に肌の露出が多い服が多く、中には大事なところが隠れてるだけというものもあった。


 それらを着させられ恥ずかしがるサクラに、ピノアは「いいよ、いい表情だよ!」とよだれをたらしながら言い、スマホというマキナでバシャバシャ写真を撮った。

 そして、「お父さんとお母さんには内緒だよ。げへへ」といって、たくさんおこづかい(国のお金)をくれるのが趣味なおかしな人だった。


 でも、いつもサクラをかわいく撮ってくれた。


 そのことが母にバレたときよりも、さきほどのピノアは気まずそうな顔をしていた。


 ピノアには子どもはいないが、父と母には自分がいる。

 サクラは17歳になったばかりだが、母が彼女を産んでくれたのは、今のサクラと同じ年だった。


 赤ちゃんを作ることは、命を授かるということは、ピノアが見られては困るものを見られてしまったという顔で焦っていたように、恥ずかしいことなのだろうか?

 とても素敵で素晴らしいことではないのだろうか?


 母は父と、ピノアと同じようなことをして、自分を産んでくれたはずだが、そのときも、そういう気持ちだったのだろうか?



 それに、せっくす、とはいったい何なのだろう。

 赤ちゃんができる行為だとピノアは言っていたが、何度あのときのことを思い出しても、ピノアの身体の赤ちゃんが産まれてくるところに、男の子のおちんちんが入っていた。


 あれは入っていたのだろうか。

 それとも刺さっていたのだろうか。


 そもそもおちんちんは、おしっこがでるものではなかったろうか。

 あれは、おちんちんだったのだろうか。



 思春期の女の子というものは、父親を嫌うものだと聞いたことがあったが、サクラはいわゆるお父さん子であり、父のことが大好きだった。


 今でも隙あればお風呂にいっしょに入っていた。


 父のおちんちんを見たことは何度もある。


 しかし、父のそれは、あの男の子のように、大きくもなければ太くもなかった。


 やはりあれは、おちんちんではない。


 では、あれは一体……



 そんなことを一時間あまり延々と考えていると、部屋のドアがノックされた。


「サクラ、待たせてごめんね」


 ピノアの声だった。


 サクラは慌ててドアを開けた。


「ステラおばさんのお説教が長くてさぁ。やっと解放されたよ」


 ぶっ、とピノアの後ろにいた男の子が吹き出した。

 何が面白かったのだろうか。

 ステラおばさん、だろうか。


「おかえり、ピノアちゃん」


 サクラはふたりを部屋に招き入れようとすると、


「紹介するね、わたしの彼氏。

 雨野ナユタっていうの。

 わたしね、サクラのお父さんのレンジが生まれた世界にしばらく行ってたんだ。

 ナユタはレンジとおんなじで、あっちの世界の子」


「はじめまして。ナユタです。

 ピノアちゃんから写真を見せてもらったことがあるけど、実物の方がずっとかわいいね」



 はじめて両親や叔母や城の人たち以外の男の子からかわいいって言われた。

 すごく嬉しかった。

 けれどサクラは人見知りをする女の子だったから、ありがとう、と言いたくても言えなかった。


 ナユタという名前の男の子の顔を、サクラはそのとき、はじめてしっかりと、でも目を合わせることはできなかったから、少しだけ見た。


 かっこよかった。

 それに、優しそうで、頭がよさそうだった。


 ピノアのことを好きになった男の人はたくさんいたと聞いたことがあった。

 彼女はいろいろあって4000年くらい生きていて、人だけではなくかつては精霊たちかも溺愛され、甘やかされていたという。


 サクラから見ても、ピノアはかわいい。

 母のことも憧れていたが、どちらかというとピノアへの憧れが強かった。


 歴史上の偉人にもピノアを愛した人がいた。

 2000年前にいた神の子、アンフィス・バエナ・イポトリルや、それから1000年前のジパングにいた陰陽師アベノ・セーメーが有名だった。


 けれど、ピノアが好きになったのは、父だけだった。

 母と結婚し、サクラが産まれても、彼女はずっと父だけを見ていた。


 そんな彼女が、父ではない人を好きになり、その人も彼女を選んだ。


 ナユタという男の子は、きっと父よりも素敵な人で、父よりもサクラの大好きなピノアの良いところをいっぱい知っていたから、ピノアを好きになったのだろうな、と思った。


 良かったね、ピノアちゃん。

 おめでとう。


 そう言いたかったが、もう一度ナユタの顔を見たら、何故か胸が苦しくなった。


 サクラは、そのときナユタに対して芽生えた感情が何なのか、まだ知らなかった。



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