3.冒険者―3ページ目

「あれは剣でいけるタイプだよ」

「わかってる……わかってるけど……足が動かない」


ホントに嫌いなんだな。

ガクブルな感じなので、全員がちーん、みたいな音をバックに白くなった。


どさどさどさ。


その時背後からも音がした。


「まずい、塞がれた」

「えぇーーーー!!?」

「シンさん、ごめんね。彼、いつもはこういう人じゃないから」

「いいです、面白いので」

「面白いとか言ってる場合じゃねぇよ!」


ライド以外が冷静と言うことは、排除は難しくないのだろうとシンは判断する。

しかし、通路を塞がれたのはまずい。


「数が多いな……シスターとリンクスも間に入っててくれ」

「俺は!?」

「お前は前。オレはうしろ片づける」


無理無理無理無理。


全力で拒否っている。


「リンクス、ちょっと頼むわ」


そういってランティスは後ろの通路に向いていた足を前に向けた。

わかった、と言って、魔術で応戦の構えをするリンクス。


ランティスが隣に来たことで、ライドはひきつりながらもほっとした表情を浮かべている。


「ライド、大丈夫だ」


ぽん、と肩に手を置く。


「お前はやればできる子、オレより強い」

「え」


そして次の瞬間。


「逝ってこい!!」

「ぎゃあああああああ!!!!!」


ライドよりも大柄なランティスは、思い切りその襟首をつかむと、前方に放りこんだ。


「いやあぁぁぁぁぁ!」


絶・叫☆


「よし、後ろはオレが叩く。シスターはあいつの補助頼む」

「はい!」


しかし、補助など必要だろうか。

剣が効くスライム、というだけあって、そのど真ん中に放り込まれたライドはすさまじい勢いでちょっと大型のそれらをぶったぎっている。

害虫駆除もまっさおのスプラッタ具合だ。


「ライドさん、さすがです……!」

「そこ尊敬するところかな」


初同行のシンは、シスターの敬意のまなざしに疑問を投じている。


「おっし。退路確保完了~ って、まだやってるのか?」

「いや、とっくに終わってるみたいだよ」


……死骸とはいえ、スライムに囲まれたままなので、パニック状態に見える。

近づくのは危ない。

水場でありがちな二次遭難が起きそうだ。


「氷の使徒よ……!」


リンクスがそうして詠唱を向けると、ピキーーーン、と周りの温度が一気に下がる。

息絶えて、ゼラチン状態になっていたスライムたちはただ凍らされた。


それで、ライドもようやく止まる。


「はぁっはぁっ」

「お前な、大丈夫か? そんなに息上げたらさすがに普通のモンスターが来ても……」

「俺を地獄に放り込んだのは誰だ」


キュピーン。

吹っ切れて代わりに何かが降臨した模様。


「悪かったよ。ほら、進むぞ」

「進むって言っても、この先が最奥みたいだよ」


この洞窟自体はずいぶん昔に滅んだ国の城塞が埋もれてできたものだった。

だから、なんとなくのマッピングはできている。

「ただの洞窟」を調査しても確かに意味はあまりなさそうだ。

遺跡としての価値でクライアントは調査に来たんだろうとは誰もが思う。


「最奥……?」


ぴくりとライド。


「最奥と言えば、ここは魔界とつながっていて、ランダムでデーモンとか現れるって……」

「あまり高位の者が出てきたら、一度逃げましょうね」


それが無難だ。

探索レベルは低くないが、このダンジョンの危険度が奥に行くほど上がるのは、うっかりそういう部屋に入ると命を落とす冒険者がけっこういるからだ。


だから、洞窟自体は初心者向けであっても、行く場所によっては上級者を指名しろ、ということで。


最奥の部屋は、まるで神殿だった。


「……デーモンが出るって、元々、そういう使途で用意された場所だったのかな。ここだけちょっと空気が違うね」

「そうだな! スライムが降ってくるほど天井に亀裂とかなさそうだ」


ライドはスライムが出そうな場所はないか、要チェックしている。


君子危なきに近寄るべからず。


そんな名言が浮かびそうだが、近寄らないために、近寄った知識の習得をはめになるほど嫌いなのは、すごいことだとそこは誰もが素直に尊敬する。


そうなりたいとは思わないけれど。


「! 召喚陣が……」

「おでましか!」


敵を見極めてから闘争か、逃走かを決める。

扉の前で全員が構えを取った。


そして現れたのは……


「よっしゃ、当たりだぜ!」

「ハズレだよ、お前何言ってんの!? あれハズレ以外の何者でもないだろ!?」


スライム20匹(目測)だった。


「デーモンに比べたら、楽勝だっつーの! あ、帰りに生け捕れるとは限らないから一匹残しとけよ」

「自然発生じゃなくて、召喚もののスライムか……遺跡の年代と合わせて検証するのにいいかも」

「よくねーよ!」


とはいえ、ここが今回の目的地の大きな一番だからして、逃げるわけにもいかない。

……まぁ、スライムだから、ライドを放り込まなくても残りのメンバーでなんとかなるわけだが。


「よっしゃあと八匹だぜ!」

「駄目だ! 八匹残したら合体する……!」

「それは聞いたことありません」


混乱しているのだろうか。

当然、合体などしなかった。

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