第32話、風呂ができた

「なあ恭介、風呂を作らないか」


「ああ、俺も考えていたんだ」


「川の水を引き込んで、水車で持ち上げてろ過して沸かす。

できなくはないよな」


「問題はどうやって沸かすかなんだ。

まさか五右衛門ぶろを考えているわけじゃないだろ」


「ああ、そうだな。

できるんなら、常時お湯が出てくるのがいいな……」


「それなんだけどな、魔石に魔法を書き込む技術があるらしいんだ」


「それができるんなら、お湯の出口に設置すればいいんだな」


「ああ、誰ができるのか、今ジャンヌに確認させているところだ。

うん?ジャンヌだ」


「仁さんもご一緒でしたか。

魔石の書き込みですが、城には技師がいないみたいです。

以前、城勤めをされていた、調剤師のラファエル様が得意にしていたとか聞きましたが、今は市井で薬屋を開業されているとの事です。

店の場所などは、現在調査中です」


「調剤師って……薬屋だよな……まさか……

ちょっと、確認してくる」


俺はカエデさんのもとに行き尋ねた。


「なあ、爺さんの名前って……ラファエルってのか」


「そうですけど何か?」


「魔石に魔法を書き込めるって……」


「ああ、それなら私にもできますよ」


こうして、お湯の問題は解決した。

風呂からの排水は、魔石に浄化の魔法を書き込んで生活用水として利用する。

あとは、用水の使用許可をとって配管し、風呂が完成した。

同時に10人くらい入れる大浴場だ。


俺は、爺さんから保湿成分のある薬草を聞いて、それを絞ってオイルを作った。

入浴剤変わりだ。


店の閉店時間を待って、一番風呂を女性陣に提供する。


「本当に、先に入っていいの」


「ああ。メイドと店員も一緒に使ってくれ。

シャワーも用意してあるし、入浴剤もバッチリだ。




こうして、王国に風呂が誕生した。


「ああ、生き返るわね」


「お湯に入るのって初めてですけど、こんなに気持ちいいなんて」


「カエデさんのおかげですね」


「私は、言われた通りに魔石を加工しただけですから、発案とこれを作ってしまう行動力。

仁さんと恭介さん、お二人の功績ですよ」


「最初は。頼りなさそうな二人だったんだけどね」


「そうなんですか」


「ええ、私からしたら年下だし、ふらふらしてる感じだったしね。

智代梨ちゃんとは仲悪そうだったし……」


「この生意気そうな二人と、この世界でやっていけるのかってね……」


「それが、今や貴族の中でも一番の注目株ですからね」


「そうなの?」


「ご存じないんですか。

ここのメイドなんて、もし今欠員が出て募集するとしたら、貴族の次女、三女が百人は並びますよ。

逆に言えば、余程のことが無いと欠員なんて出ないって事ですけど」

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