第31話、薬局部門新設

爺さんとの酒は楽しかった。

キノコ鍋も旨かったし、爺さんの出してくれた酒もいけた。


「物は相談なんじゃが……」


「なんだい」


「仁の店で、薬を置かせてもらえんかのう」


「うちは大歓迎だが、症状を聞いて薬を出すなんて、売り子には無理だぞ」


「そこは、カエデを行かせるつもりじゃ」


「この店はどうするつもりなんだ」


「わしが細々と続けていくつもりじゃよ」


「うーん、だったら、爺さんはうちの支店で店を出したらどうだ」


「わしがか」


「一番売れるのは、解熱剤と腹痛だろう」


「まあ、そうじゃな」


「それ位なら、爺さんが不在でもうちの店員が売れるさ。

爺さんは時々顔を出せばいい。

あとはここで薬を作ってればいいだろう」


「そんな事が……」


「ああ、問題ない」


こうして、雑貨店の本店と支店で薬を扱うようになった。

実は、貴族街にも店を開いてほしいというのは、貴族からの要望なんだそうだ。

薬屋に馬車で乗りつけたりすると噂になるらしい。

もっと、気軽に薬を買えるように……というのが要望で出ていたところ、雑貨屋に薬を置けば、ついでに薬を買っていくという感じになる。

うちとしても、集客が見込めるのだから、三者にとってメリットのある話なのだ。


俺は、爺さんに提案して、常備薬セットを作ってもらった。

木箱入りで、解熱剤・傷薬(軟膏)・下痢止め・痛み止め・消毒薬をワンセットにした救急箱だ。

これもヒット商品となった。

特に小さい子供のいる家庭では、必需品となっていった。

子供は、ちょっとした事で熱を出すのだ。


「仁さんはすごいですね。

この年まで薬を扱っておきながら、常備薬なんて考えもしませんでした」


「俺たちの世界では、当たり前のことだったんだ。それだけの事さ」


「子供さんが夜中に熱を出してしまい、うちへ駆け込んでくる人も多いんですよ。

だったら、家に薬を置いておくって、なんで思い浮かばなかったんだろう」


「はははっ、そういうもんですよ。

当事者は気づかなくて、第三者から言われる事ってよくありますから」


常備薬は、貴族街でも支店でもよく売れた。

もちろん、補充用のものを単品でも買えるようにしてある。

逆に、お客さんの方でもこれくださいって、指定して買えるようになってくる。


この5種類ならば、うちの店員でも販売できる。

店の忙しい時には、カエデさんにも手伝ってもらっている。

結局、カエデさんは通うのが大変ということで、住み込みとなった。

その代わり、支店で爺さんの面倒を見てもらう。

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