第30話、薬屋の爺さんと飲む
「はあ、でも向こうの世界では、死ぬ直前だったんですよ。
だから、ここに来て助かったってのは、みんな同じ気持ちなんです」
「ほう、そこは受け入れられたのか」
「受け入れるしか選択肢がなかったんですよ。
じゃあ、こっちで生きていくためのはどうしたらいいか……」
「その答えが竹ペンや惣菜か」
「そんなところだな。
萌は料理の才能を発揮してるし、智代梨は好きでもないけが人の傷を舐める。
それを隣で見てるうちに、素の二人が見えちゃったんだよね」
「打算なく、人のために働ける二人か」
「そんなとこ。
まあ、身の上話しにきたんじゃないから、飲みましょうや」
「それは?」
「酒精ってのは、普通のワインだと10リットルのうちの1リットルくらいなんだよね。
それを蒸留って方法で、少しずつ濃くしていくと最終的には消毒用のアルコールができあがる」
「ほう、アルコールというのは酒精じゃったか」
「その途中の4割くらいのものを、ワインを寝かせた樽に入れて香り付けをして、ハチミツ酒を加えて味を整えたのがこれだ。
まだ、誰にも飲ませたことのない酒だよ。
まあ、試してみてよ」
「ほう、それは光栄だな」
「一気に飲む酒じゃないからさ、少しずつなめるようにして飲んでみてよ」
「……うむ、確かに酒精は強いな。
じゃが、深い香りと仄かな甘味、うーむ、よく仕上がっておるぞ」
「いずれは量産したいんだけどさ、まだ先だな」
「なぜじゃ」
「ワインを量産できるようになってからだよ」
「そうか、ワインを作って、そのうちの6割は捨てるのじゃからな……」
「ああ、そういうこと。
割高になっちまうんだ」
「だが、わしのように少量でいいからゆっくり飲みたい者には売れると思うぞ」
「はいはい、お鍋ができましたから、難しい話はおしまいにしてくださいな」
「あっ、七輪があったら貸してください」
「何するんですか?」
「シイタケを焼いて食べようと思って」
「キノコを焼くんですか」
「ほう、面白そうだな」
「ええ、肉厚の旨そうなシイタケがありましたから、焼いてみたいなと思って」
「おお、鍋もいい味ですね」
「料理王には負けるかもしれんが、カエデの作る飯もうまいぞ」
「ところがどっこい、萌の凄さは料理本体じゃないんですよ。
焼いたシイタケに、かける醤油……これで食ってみてください」
「はふっ……、これは!」 「おいしいです!」
「何か月もかけて、向こうの世界の味を再現してみせるのが、萌の本当の凄さなんですよ」
「確かに。こちらの世界にはない味じゃよ」
「どうやればこの味が出せるのか……想像もできません」
「大豆と塩から作るんですよ。発酵食品の極地ですね」
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