第3話 キューピットモード
そんな、真夜中の、しかもクラスメイトの男子が、自分の事で輝にメッセージを送っているのも知らず…いや、気が付かすに、〔君色ノイズ〕を、果実も聴いていた。
(わー、この輝さん素敵。ラジオノートに書き足しておこう)
何を隠そう。果実も、大樹と同じくらいラジオが好きだった。
と言うより、好きを超えて、ラジオヲタクだった。もう深夜放送は生で聴き、昼間分はradikoのアーカイブ放送でラジオを聴いていた。
その時間のほとんどをラジオに費やす為、授業と、深夜の勉強で、睡眠時間は何と、平均3時間だった。
しかし、それも全く苦にならなかった。成績もとても良かった。
人は本当に好きなものの為なら、結構なんでも出来る。
同じラジオ好きでも、劣等生の大樹と違って、果実はスポーツは別として、勉強は優秀だった。
これだ。大樹が一歩踏み出せずにいるのは。一目で馬鹿感たっぷりな大樹と、見るからに”優等生です。”みたいな果実とを結びつけるものは何一つなかった。
…けれど、意外も意外、2人してラジオが大好きだなんて…。
この時は、〔君色ノイズ〕が2人のメモリアルパラダイスになるとは思いもしなかった。
火曜日、学校の教室に入るなり、入り口にいた、
THE 1-B 優等生3姉妹の
「おはよう」
「え。あ、おはよう」
思わぬ人からの挨拶に、果実は少し驚いたが、普通に挨拶を返した。
まさか先週、先々週と、大樹が果実の事で、果実も聴いている〔君色ノイズ〕で、メッセージを輝に送っていたとは、露知らず。
そして、大樹は、3人から少し離れた自分の席におもむろに座った。
女子の会話を盗み聞きするなんて、絶対だめだ!
と、思っているのに、自然と耳が大きくなる。
「今日、数学の小テストあるね。前の公式覚えとけば大丈夫だと思うけど、昨日お兄ちゃんが夜中まで音楽聴いててさ、マジ迷惑」
「それはヤダね。てか先週の化学、㏖濃度解いてると面白くて。化学好きだな。果実は?」
(これがTHE 1-B 優等生3姉妹の会話か…。さっぱり分らん)
「あぁ、私も特に心配してないよ。でも私少し雑音入ると、頭回る」
『雑音?』
危うく大樹も言いかけた。
「私、ラジオ聴きながら勉強するの」
「ラジオ?って例えば?」
『アーカイブ放送の昼間分と、深夜朝5時までの好きなラジオ全部』
…とはさすがに言えず、
「昨日は〔君色ノイズ〕って言うの聴いてた」
「〔君色ノイズ〕?」
(へっ!!!???今、〔君色ノイズ〕って言った?遠藤も〔君色ノイズ〕聴いてんの!?マジか~!!!!)
大樹は嬉しさのあまり、机の下で何回もガッツポーズをした。
馬鹿だ。
只、同じ番組を、聴いてると言っただけだ。大樹のように大ファンじゃないかも知れないし、そもそも面白かったかどうかも言っていない。
しかし、果実も、輝の声とトークと選曲がたまらなかった。
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