第7話
んと呼んでいるこの着物、近々詳しい来歴が描かれる予定のこの子は、母の祖母の近所の女性がおさがりにもらったという古い着物を手直しされ続け、数年前の時点ですでにどう計算しても100年を超えているからなんだそれはそれならそれは付喪ではないか捨てるなどとんでもないと私が彼女に破れを直させ手に入れた物だ。
付喪とは九十九であり、本当は90年くらいで自我は芽生えているし神性を帯びている。付く、というのは、長い時間をかけて人間に触れられることで蓄積していく概念があるからだ。物に宿る記憶や意思、その物語性と言うものは連続性を観測するものの目によって与えられていて、投影されて本当に経験値のように積み重なって塵も積もれば山といったような形でただの思い出の品から付喪神へと化す。喪というのはもちろん100年も経てばしんだ人間から継承したり多くの人の手を経て受け継がれているのを前提としているからで、実は今時だと110でも120でも普通に生きてるひとも一握りどころではなく大勢いる時代だからもし今これを読んでいる誰かが10代であれば、今持っている思い出の品はその気になれば余裕で全員付喪神にできる。あと10年、20年先にどれだけ医療が進歩しているか後退しているかは知らないが、現実的に不可能ではない。ワンチャンある。ぜひやってみてほしい。親からなにか40年モノくらいの思い出の品でももらっておけば、中高年くらいのころにはもういいお守りになってくれるだろう。いざというときに役立ちそうだ。
そして、「喪」というのは人の死体に何か物を添えた象形文字から出来た言葉だが、言葉そのもの、語そのものニュアンスとして
「目に見えないほど小さいなにか、それによって起こる変化、その変化に対応するもの」
という意味がある。
だから妖精の話をした。
そういうことなんだ。これは病原菌から人が死んで葬式をすることでもあり、
経年により劣化だけでなく付加価値が見いだされたものとその買い手や扱い手、
思い出を投影するもの、命のバトン、人の心の込められたものと受け取る者、
量子力学的な物理現象の変質とその観測を指したとしても誤ってはいない。
それが付喪神。
神の作り方を知っている者は、
神なったものの辿ってきた道筋も、そうなった理由もメカニズムもすべて解る。
日本語で神は神だが、日本語で言う神はゴッドではない。
付喪神のような場合、本来近いのは精霊、spiritだ。spiritと言う単語本来の英語の持つ視覚的イメージはとても小さな浮遊する光。青白い蛍のようなイメージが潜在的にあちらでは定着している。21gのあれだ。そして、妖精のことでもある。
スピリットとは精神(mind, soul, heart, intention)であり、魂( ghost, anima, apparition, being)
神の成り立ちのメカニズム、それは、アニミズムだ。
アニマ(anima)は、ラテン語で、生命や魂を指す語だが、
アニミズムというのはまあ簡単に言うと擬人化とか寓意化とかする行為のほぼ全般を広義では指していて、アニメーションの語源だ。アニメを見てて、これの元ネタはこれで聖地巡礼するならここだなってかんじのあの楽しみ方ができているひとはみんなこれがわかる。そして、そんな人たちだって別にアニメはアニメとして楽しみながら聖地巡礼に経済を回していただけで現実と混同したりはしていないだろう。
葉が緑から黄色にグラデーションするあの変化を、妖精の絵筆だと伝えることも。
身体のパーツの多い者や少ない者を妖怪だと伝えることも。
低く飛ぶ燕や、人に向かって鳴く烏の知能や性能に神性を見出すことも。
願掛けに新しいゆるキャラから町おこしをすることも。
すべてが同じ。
そういう行為が、そうなんだ。それを指すもの。その原理。
だから、現実にどんな神も妖精も妖怪も実在する。
どこにでもいる。溢れている。無意識に無自覚に、作り続けて生み出し続け、そだててはぐくむのがわたしたちの世の中だからだ。
いのちを与える行為、それは、物語そのもの。
ひとはかならず目の前の事実や現実に因果関係を求める。
もはやむかしむかしの社会で彼らに求められていた説明概念としての機能が不要だとしても。
社会装置としての役割は変わったとしても。
かならず神を求める。かならず神を生み出し続ける。
何故か。
それは皆、元々そうだからだ。
人間の脳が生み出し続ける思考。
それこそが正体なのだと、私以外の誰でも気づけることだろう。
私は特別であるけれど、どこにでもいるありふれた人間だったのだから。
別に発狂することもない、誰でも答えを知っている。
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